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magnet
写真に写っているのは、緑の人工芝が敷き詰められた屋内フットサルコート。
そこを背景に、前列3人、後列4人、合計7人のジャージを着た若い男が、ピースサインを出しながら笑顔で立っている。
後列の左端にいる黒髪短髪、白いTシャツに黒のジャージで立っているのは、今とは違う自分だ。
重たそうな一重目蓋と、輪郭がはっきりしない鼻筋、薄くも厚くもない唇。
冴えない自分。
これが本当の自分なのだ。
「はぁ……」
小泉斗真(コイズミトウマ)は財布にしまい込んでいた大学時代の写真を見て一つ溜息を吐くと、その写真をアルバムへと移し変えた。
最低最悪の思いでを引き摺っている写真など、思いきって捨ててしまえばいいのかもしれない。
しかし、嫌な思い出だって大切にしたい。
こんな女々しい自分に嫌気が差すが、こればかりは変えられない、22年間培ってきた自分の性格だった。
中間管理職でサラリーマンの父に、近所のスーパーでレジ打ちのアルバイトをする母。
それから、未だ独身で気の強い姉二人に囲まれ、社会人となった今でも実家暮らし。
幼少の頃から引っ込み思案で臆病者。
取り柄のない自分に気付いたのは中三の時だった。
その頃の自分は頭の中まで見た目同様にぼんやりとしていたに違いない。
それまで自分がどういう風に他人に見られていたのか気にしたことすらなかったので、色気付いて身だしなみを気にし始めたのはこの頃だった。
今ならば身だしなみを整えることなんて、ごく当たり前のエチケットだとわかるが、それに気付くまで随分と時間がかかった。
身長だけは長身の父に似てにょきにょきと伸びたけれど、モテ要素の一つにもならず、ついたあだ名がモブのっぽ。
陰でそう呼ばれていたことに気付いたのが中三の時だ。
特にいじめられた覚えはないが、そう呼ばれていい気はしない。
本当にあの頃の自分はダメな奴だった。
しかし自分は変わった。
変わったのだ。
─失恋したけどさ……。
斗真は不純な目的で近づいた勤務先の先輩に本気で恋をし、つい最近失恋したばかりだった。
─筋トレして寝よ。
筋トレは学生の頃から欠かさず続けている。
取柄のないモブのっぽでも、地味に継続する努力は得意だった。
それに今は180センチを超える身長に産んでくれた親には感謝している。
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