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第2話
斗真は部屋の隅にある姿見の前で、弾力的な筋肉のついた、均整のとれた体を見て一人頷く。
体付きだけは悪くない。
しかし顔は──。
─借り物みたいだ。
家族は皆格好良くなったねと誉めてくれたじゃないか。
自分に足りないものは自信というものだろう。
斗真は自分自身にそう言い聞かせ、頭を軽く振るった。
翌朝、目覚まし時計の電子音で目を覚まし、いつもの日常が始まった。
今日は水曜日。
基本的に勤め先の会社は週休2日制なので、木金と通えば土日は休みだ。
社会人は学生の頃に比べると本当に休みが少ない。
だから土日が非常に待ち遠しい。
斗真はベッドから起き上がると朝の冷たい空気にぶるっと体を震わせて、のそのそとアイロンでシワの伸ばされたワイシャツに袖を通しスラックスを穿く。
自室のある二階からリビングへ降りると独身の姉二人はもう家を出る直前だ。
「斗真おはよう」
「おはよ。行ってきまーす」
「おはよう、行ってらっしゃい」
寝ぼけ眼のまま姉のあかりとまゆを見送って、斗真も朝食を取るためダイニングテーブルの椅子へ腰掛ける。
女性はどんなに元が地味でも化粧で化けることができるから得をしているなと思う。
お世辞にも二人の姉は美人とは言えないが、目元をアイラインで縁取ればパッチリとした大きな目になるし、ハイライトを上手く入れれば鼻筋が通っているようにだって見せることが可能だ。
女性になりたいと思ったことはないが、化粧で化けることができるという点では女性が羨ましいと思ったことはある。
しかしそれも以前の話だ。
だってもうそんなことをする必要など一切ないのだから。
斗真は母親が準備してくれた朝食を食べ、濃いグレーのスーツの上に黒のコートを羽織って家を出た。
12月の半ば。
空は濃淡をつけて灰色に濁り太陽を隠している。
吐く息は白く、肺へ流れ込む冷たい空気で全身が凍ってしまいそうだ。
しかし凍えている場合ではないので、寒さを吹き飛ばす勢いで歩き始める。
最寄りの駅まで徒歩7~8分。
そこから電車で2駅乗る。15分程で会社の最寄り駅へ到着し、そこから会社までは更に徒歩で6~7分だ。
自宅から会社までおおよそ40分程度で着いてしまうのだから割りと近くて楽な通勤と言えるだろう。
─今日は人材派遣会社の担当さんと社長さんがお見えになるんだっけ。
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