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出会い 志音の場合

俺は今、人生で初めての失恋を経験してここにいる── このバーは最近よく来る店で居心地がいい。 ここのマスター、(ゆう)さんは俺と同じゲイだ。だからなのか、この店はゲイの客も多いと思う…… 悠さんは俺に負けないくらいの長身で、モデル体型。少し長めの髪を時折指でかき上げる姿がまたかっこいいんだよね。きっとこの人もモテるんだろうな。 初めて来た時から悠さんは俺のことを気に入ってくれていた。 「久々に俺好みのいい男だね 。 ひとりなの? 一杯目は俺が奢るよ」 初めて俺と会った時の第一声がこれ。 フランクで話しやすくとても好印象だった。 それからは、ここに来るたびにお約束のように必ず口説いてくる。社交辞令とわかっているけど、でもいい男に口説かれるのは悪い気はしない。悠さんのこの気軽で適当な感じが、俺を自然体でいさせてくれる気がしてとても楽だった。 「志音、どうしたの? 元気ないでしょ。なんかあった?」 この日もいつものように店に入っただけなのに、すぐに悠さんにこう言われてしまった。 鋭いな…… 俺そんなに顔に出てるのかな? 「んん、ちょっとね…… 好きな子に振られちゃったの」 あまり踏み込まれたくなかったし、この話は軽く流して欲しくてわざと軽く言ってみる。 「え? 志音が振られたの? はっ! 信じらんない! てかお前、好きな奴いたんだね。それもちょっとショックだわ……」 悠さんは俺の意に反してでかい声で驚きの声をあげた。 幸い客が少ない店だからいいけどさ、もうちょっと言い方ってもんがあるだろ…… ムカつく。でも俺が最初に軽い感じで言っちゃったんだからしょうがないか。 「それでヤケ酒ね…… 酔いつぶれても安心しろよ。俺が介抱してやるからね。どんどん飲めよ」 「……そんなんしないし」 ヤケ酒なんかしないし、酔いつぶれる程俺は馬鹿な飲み方はしない。でもとりあえず「ありがとう」とだけ伝え、俺は目の前に出されたナッツに手を伸ばした。 「ねぇ、どんな奴? イケメン? ガッチリ? カッコイイの? ……ねえねえ教えてよ」 「悠さん少しはほっといてくれる? 今日は静かに飲みたい気分なの。ほんとごめんね、ひとりにしてよ」 悠さんは「そっか……」と言って俺に軽く手を振り、カウンターから離れてくれた。 しばらくすると、カランとドアのベルが鳴り客が一人入ってきた。店の入り口はカウンターの背にあるので俺からはどんな奴が入って来たのかはわからない。別に興味もないからそのままひとりで呑み続けていた。 カウンターに戻った悠さんはその客を見るなり目を見開いて驚いた表情を見せる。 「陸也(りくや)じゃん! 久しぶりだな! 驚いた! 何年ぶりだ?」 嬉しそうにその客に手を振る悠さんは、今まで見た事のないような顔をしていたから俺もちょっと驚いた。 知り合いかな? ま、とりあえずこれを飲み終えたら俺はもう帰ろう…… その陸也と呼ばれる男は、俺の座ってるカウンターの二つ隣の席に腰掛けた。

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