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意外な人物
「ちょっとびっくりだな! 陸也、全然変わってないね」
凄い笑顔を見せ、悠さんはでカウンターから身を乗り出して喋ってる。はっきり言ってこんなにはしゃいでる悠さんの姿は初めて見たかも。よっぽど嬉しいんだろうな。
「……四年くらい来てなかったかもな。お前も変わらないね」
あれ? この声、何処かで聞いたことあるな。そう思った俺は盗み聞きはよくないな……と思いながらも少しだけ聞き耳をたててしまった。
「 陸也、今日は一人なの?」
「ん…… ちょっと人恋しくなって。なんてな」
悠さんはクスクスと笑ってる。
「なに可愛いこと言っちゃってんの。俺じゃダメ?」
今度は陸也と呼ばれる男が小さく笑った。
「相変わらずだな、悠は……」
やっぱりこの声、俺 知ってる。
恐る恐る横を向き、その男を視界に捉えた。
そんな俺の様子に気が付いたのか、悠さんが嬉しそうにこちらを見ている。
何か言いたげに前に座る友人を見てから、また俺に目配せをした。そんな悠さんに気付き、陸也と呼ばれる男も俺の方を見た。
まさか嘘だろ?
「え? 高坂先生!」
驚いた!
学校では長めの髪を後ろで束ねたりしてるけど、今の高坂先生はその髪を無造作に下ろし、洒落たデザインのジャケットを羽織ってぐっと大人っぽい。喋り方もなんだか男らしくて、学校での雰囲気と全く違って見えた。
「……やっぱりな。店入ってきた時、後ろ姿見て一瞬お前かと思ったんだけど……まさかなって」
悠さんは俺らを交互に見て、驚きの声を上げた。
「え? ふたり知り合いなの? てか、陸也…… 先生って?」
あ……やべ。
「俺、高校の保健医やってんのよ。そんで、志音くんはそこの生徒……一年生だよ? お前、まさか未成年に酒出してねえだろうな?」
悠さんは目を丸くしている。そのままの顔で、再び俺の方を向き溜息を吐いた。
「嘘だろ? 未成年って。おまけに高校一年生?……なんか凄い騙された感……」
「悠さん、騙されたって何だよ? 別に騙してないし、なんかムカつく…」
特に聞かれなかったし、悠さんが気づかなかったからだろ……
「いやいや、ごめん。悪い意味じゃなくてさ、だってそんなナリで高校生って…… 可愛いフェイスの成人男子かと思うじゃない」
ごめんな、と悠さんは俺の顔を覗き込む。
可愛いフェイスってなんなんだよ……
でも悠さん、相当ショックを受けてるみたいだった。
「とにかくだ。俺がいる時にはこいつに酒は絶対出すなよ?」
高坂先生は悠さんにそう言って念を押した。
……ん?
俺がいる時には……って、高坂先生がいなけりゃ飲んでもいいってことかな?
言ってる事がおかしくてちょっと笑ってしまった。
俺は席をひとつずらして高坂先生の隣に座った。横から覗き込むように高坂先生の顔を見る。
やっぱり雰囲気が全然違う。
保健室の高坂先生は柔らかな物腰の、ちょっと掴みどころがないけど優しそうな先生。でも今目の前にいる高坂先生は男らしくて鋭い雰囲気。話し方もちょっと違う。
こっちの先生が本来の姿なのかな……?
「先生って、白衣も素敵だけど外でのこの雰囲気も色気あってかっこいいですね」
俺がそうお世辞を言ったら悠さんが少し顔を赤くした。
「ちょっと何? 陸也が白衣着てるの? ヤバいね。見たい! お前が白衣着て保健医なんて…… いやらしい事しか想像出来ない!」
興奮気味の悠さんに益々俺は楽しくなってしまう。確かに白衣姿の高坂先生の雰囲気はエロいよね。
「悠さん、 俺の高校……男子校だよ」
もうひとつ悠さんに情報をあげると、もう大興奮だった。
「陸也! お前なにやりたい放題やってんだよ!」
妄想爆発気味な悠さんに高坂先生怒られちゃった。
「はぁ? なんもやってねぇよ! 勝手に想像すんな」
二人のやりとりを見てて、俺は可笑しくてゲラゲラ笑った。今日のしんどい思いが少しだけ薄くなったような気がした。
その後も、高坂先生と悠さんは漫才みたいに喋り通していた。俺は可笑しくて笑いっぱなし。
凄い楽しかった──
今日はひとり静かに飲もうと思ってたけど、楽しく飲めてよかったと思った。
それに こんなに腹の底から笑ったのも初めてかもしれないな。
俺ってどんだけ寂しいんだろうな……
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