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心から──

それからは仁奈に根掘り葉掘り、色々と聞かれた── 同性の相手をすんなりと見つけるっていう事自体が不思議だったらしい。 それもそうだよな…… 異性間でも理想の人と巡り会い、思いをぶつけてもうまくいくとは限らない。 俺って凄い幸運だったのかも。 「志音がね、失恋して弱ってるところを俺がうまい具合に落としたんだよ」 ふざけて先生がそう言うと、仁奈がそれをまに受け「なるほどね〜」なんて笑ってる。 「ちょっと? ……違うからね! 失恋したって言うのは本当だけど……俺が陸也さんに甘えてるうちに……好きになっちゃって……」 自分で言いながら恥ずかしくなってくる。なに言っちゃってんだろう俺。 「ねぇ……なに惚気てんのよ。いいなぁ。大人な高坂さんに優しく包まれてる志音って感じ。本当、初めて会った時の志音と全然表情が違うのよ。知ってた?」 俺? 「俺の顔、そんなに違う? こないだもそんな事言ってたよね?」 ケラケラと笑って仁奈はワインをグビッと飲む。 「初めて会った時は、あんまり人を寄せ付けない雰囲気あったわよ。なんかね、愛想よくしてるんだけど逆に牽制してるって感じ? 凄い気取ってるように見えたけど……うん、嫌いなタイプ。でも今はトゲトゲしたのが無くなって取っつきやすいよね」 仁奈に笑われ、益々恥ずかしさがこみ上げる。先生はさっきからニヤニヤして見てるだけだし。 「でも最近の志音は素が見えて凄い親近感。本当は素直で可愛い男子高生なんだよね」 「……やめてよ、素直じゃねえし可愛くもないから」 俺の頭をくしゃくしゃとしながら先生が話し出した。 「多分な、志音は今まで誰にも甘えずに来たから……甘え方がわからなかったんだよな? でも一回でも受け止めてやると可愛いくらい甘えてくる……俺は恋人っていうより保護者みたいなもんなんだよ」 保護者ってなんだよ。 「陸也さん、オッさんだもんな」 ちょっとムカついたからわざとそう言って顔を背ける。 どうせ俺は子供だよ…… 「ほら、こうやってすぐ拗ねるのも可愛くてしょうがない」 先生は後ろから俺に抱きつき頭頂部へキスを落とした。 「もう! 二人して揶揄うのやめろってば! この酔っぱらいが!」 俺はこの歳上二人におちょくられて、なんだか散々だった。 ……でも、すごく沢山笑った。 仁奈もこんなに笑ったのは久しぶりで凄い楽しかったと話していた。 確かにこの前会った時の顔と今の仁奈の顔は全然違って明るくなってる。少しは気持ちが晴れたみたいで、俺は本当に安心した。 食事もたらふくご馳走になり、だいぶ時間も遅くなってきたのでお開きにする。先生は仁奈と意気投合してしまい、次もまた飲みに行こうなんて約束をしていた。 それって俺も一緒でいいんだよな? なんだか二人が仲良くしてると妬けてしまう。心配してるわけじゃないけどさ、先生取られちゃうみたいで嫌だと思ってしまう。でもそんな事考えてるなんてばれたらまたバカにされて、揶揄われるのが目に見えてるから黙っておこう。 「お邪魔しました。仁奈ちゃん、またね」 ご機嫌で先生は仁奈に手を振り、俺の腰に手を回して玄関を出た。 「………… 」 「おやおや?……志音君? 言いたいことがあるならちゃんと言いなさい」 俺の顔を覗き込むようにして先生は笑って言った。 ……なんでもお見通しかよ。 「どうせ俺は子供だよ。仁奈と仲良くなりすぎないでね。なんか妬けてくるから」 正直にそう言うと、先生は顔を赤くして俺のことを抱きしめた。 エレベーターの中だからいいけど…… 「子どもっぽくても大人っぽくても、どんな志音でも俺は絶対に手離さないよ。俺はお前が大好きで堪らないんだから。特に可愛い志音が大好きだ……」 そう言って先生はエレベーターが一階まで降りる間中、俺に優しいキスをくれた。 ……俺だって大好きだよ。 俺の事、好きになってくれてありがとう。 真雪さんに見つけてもらって最悪な生活から抜け出せて、そして学校を転校して、初めての恋をして…… 初めての失恋。 初めての友達。 短い間にたくさんの感情を俺は知った。 甘えるという事を知った。 俺のことを包み込んでくれる人に出会えた。 一生一緒にいたいと言ってくれる愛しい人が目の前にいる。 いつでも手を差し伸べてくれる。 俺はいつでもこの愛しい手を掴むことが出来るんだ。 それはとっても幸せなこと。 「……ありがとう、陸也さん」 俺がそう言ってキュッと抱きつくと、先生は不思議そうな顔をして首を傾げた。 「ずっと俺の事見ていてね。陸也さん……愛してる」 顔を赤くして驚いた顔をした先生に軽くキスをすると、エレベーターは一階に到着した。ポカンとしている先生の腕から離れ、俺は一人先にエレベーターを降りる。 「帰ろっ、陸也さん」 俺は振り返り、笑顔で愛しい人に手を差し出した。 end

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