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彼女
「とりあえずこんな所で立ち話もあれだから、奥入って……」
俺は仁奈にお土産のワインを手渡し、先生とリビングへ移動した。
「適当なところに座ってて」
そう言って仁奈は豪勢に並んでいる料理を取り分け始める。
「すげえな、これみんな仁奈が作ったの?」
カウンターには、サラダやカポナータ、ムール貝とホタテのカナッペ、ピンチョスやトマトクリームのペンネ等がズラリ。フォカッチャやクロワッサンも綺麗に並んでいる。それをご機嫌な仁奈が適当に取り分けリビングへと運んできた。
「まさか! 私、料理あまりできないのよ。こんな豪華なのデリバリーに決まってるでしょ。でも 知り合いのコックに頼んだ料理だから、味は間違いないから楽しんでね」
「わざわざ悪かったね……そんな気にしてくれなくてよかったのに」
先生が申し訳なさそうに顔を出した。
「いいんです。高坂さんにはご迷惑かけちゃって、本当申し訳なかったんで……あんな風にスクープされちゃって、誤解されたでしょ?」
先生苦笑い。
「ていうか志音、高坂さんにちゃんとお話したの?……なんかご存知ないみたいだけど…… 」
俺は口の中にペンネを頬張っていたから、無言で首を振る。
ゴクンと飲み込み、仁奈に話した。
「いや……陸也さん、俺の事信じてるし別に言わなくていいっていうから話してない。それに内緒だって言ってただろ? 俺は口固いんだぞ……」
仁奈はケラケラと笑って先生の腕を叩いた。
「さすが、大人の余裕ってやつね。ていうか、初めて高坂さん見て私驚いちゃった。志音、彼氏かっこよすぎでしょ! 二人並んで街中歩いてたら結構目立つんじゃない?」
俺は一気に顔が熱くなる。
確かに仁奈の言う通り先生はカッコいい。いつも俺が思ってる事を、サラッと他人に言われると物凄く恥ずかしかった。
「あ〜、志音顔真っ赤! 可愛い。高坂さんと付き合ってから志音って可愛くなりましたよね?」
仁奈が笑いながら先生にそう聞くと、先生もにこにこしながらそうだと頷いた。
「やめろよ、恥ずかしいだろ? ほら、陸也さんも食えって……これみんな凄い美味しいね」
本当にどの料理も美味しくて、照れ臭さを誤魔化しながら俺はもりもり食べてしまった。
俺が黙々と食べている間に、仁奈は先生にこの前の事を話し始める。
「私、恋愛相談を志音にしてたんです……志音だったら、私の気持ち理解してくれるかなって思って」
「………… 」
先生は黙ってワインを飲みながら仁奈を見つめ話を聞いていた。
「私ね、結構長い事片想いしてて……もう限界だったのかもしれない。仕事でも会う事が減ってきて、私は私で忙しすぎて好きな事も出来ない……今思うと、本当頭おかしくなってた。ごめんね志音。優しい志音に甘えちゃった。本気で私が死んだらあの子は悲しんでくれて私の事をいっぱい考えてくれる……って、自分の思いをぶちまけて、そして死のうって本気で思った。馬鹿みたいよね」
先生の方をジッと見つめ仁奈は「ごめんなさい」とまた謝る。
「高坂さん……本当にごめんなさい。あの日は大事な日だったんでしょ? 馬鹿な私を止めに来てくれた志音が怒ってそう言ってた……志音も高坂さんも、ごめんなさい。そしてありがとう……」
仁奈は深々と頭を下げる。
「仁奈ちゃん、もう謝らなくていいから。もう大丈夫なの? 特殊なお仕事だし、色々大変だよね。その彼とは……?」
仁奈が顔を上げ、先生に笑いかけた。
「あ、彼じゃなくて彼女ね」
そう仁奈が言うと、初めは驚いた顔をした先生も「なるほどね」と呟き納得をした。
「うん、何も進展はないけど長く親友やってるし……今まで以上に会えるように努力して、私の気持ちにちょっとでも気がついて貰ればいいかなって思ってる……で、私の事より志音、あなたはどうやって高坂さんと付き合うようになったの? 聞かせてよ」
穏やかに話す仁奈を安心して見ていたら、話の矛先が俺に向いてしまった。
こういう恥ずかしいのは苦手だからなんか嫌だな……
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