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対面

「……降りるの次だぞ。志音? 起きて 」 先生に頭をクシャっとされて目が覚める。 「あ……ごめん、本当に寝ちゃってたね」 「ん? がっつり寝てたぞ?……ほら、着くぞ」 少しぼんやりと目を擦りながら立ち上がる。 電車の停車する僅かな揺れに、寝起きでぼんやりしている俺は体がフラついた。咄嗟に先生が体を支えてくれて、ドキッとして今度こそパッチリと目が覚める。 「あ、ごめん。ありがと…… 」 「ほら、行くぞ」 二人で並んで電車を降りる。 ここの駅から歩いて数分、仁奈のマンションはすぐそこだった。 「手ぶらで行くのもあれだし、何か酒でも買ってくか。仁奈って未成年じゃないよな?」 そう言って、先生は商店街の方へと歩き出した。 酒屋に入り、ワインを物色する。 「口に合うといいけど…… 」 真剣な顔でワインを選ぶ先生がかっこいい。 「なんだって大丈夫だよ。陸也さんがいつも持ってきてくれるもの、全部美味しいし」 そんな会話をしながら俺たちは買い物を済ませ、仁奈のマンションへと向かった。 インターホンを鳴らすとすぐに仁奈が笑顔で迎えてくれる。 「いらっしゃい。さっ、入って……」 「お邪魔します……」 中に入ると、美味しそうな匂いが鼻を擽った。豪華な料理が並んでいる。これ全部仁奈が作ったのかな? そう思って話しかけようとしたら、先生が仁奈に挨拶を始めた。 「初めまして……わざわざお呼び頂きありがとうございます。高坂と申します」 ……すげえ改まっちゃって先生、仁奈もちょっと困惑した顔してる。 「高坂さん、そんなかしこまんなくていいですって。私みたいな若輩者、もっと気安く話してください。それに高坂さん大丈夫ですよ? 警戒してるでしょ私の事。志音には手を出さないし、戦線布告するわけじゃないから安心して下さい」 仁奈はそう言ってケラケラと笑った。 ……そっか、俺、先生に話してないから知らないんだ。 仁奈は男には興味がないってこと。

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