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プロローグ『 The Fool / U 』
彼は運命のヒトとの出会いに憧れていた。
― ロドンのキセキ-翠玉のケエス-芽吹篇❖プロローグ『The Fool/U』 ―
美しい母と優しい父。美しい祖母と優しい祖父。
そんな親子のもとに、彼は生まれた。
彼の姓は法雨 と言う。
人々に救いの雨をもたらすという意味合いを持つその姓は、彼の家族の人柄を表すのに最適の姓であった。
そして、そんな温かな家族は彼の自慢でもあった。
その中でも、街中を歩けば必ず誰かが振り返るほどに美しい母はとびきり自慢だった。
そして彼は、成長するにつれそんな母に憧れを抱くようになった。
彼はいつからか、母のようになりたいと思い始めたのだ。
母のように美しく、誰もが慕ってくれるような、そんなヒトになりたい。
母のように、父のような優しく温かな男性と出会い、幸せになりたい。
そして、両親や祖父母たちのような立派な大人になりたい。
彼はそう強く思ったのだった。
そして彼は、十の齢を過ぎた頃から母を真似、女性のような言葉使いや仕草をするようになり、化粧や女性らしい服装にも興味を持ち始めた。
そうして、男性として生まれた彼は、母のようになる為、女性のように振舞うようになっていった。
だが、彼の家族はそれを否定する事はなかった。
彼がそうありたいのならばそれで良い。我々は何よりも、彼の幸せを願っているのだから。
そういった家族の想いのもと、母に憧れた彼は、女性のように振舞う男性として年を重ねていった。
そんな彼は、母のような美しいヒトになるという他に、もうひとつ憧れがあった。
それは、運命のヒトとの出会いだ。
母は父という素晴らしいヒトと運命の出会いを経て幸せになった。
彼はそれにも強く憧れを抱いたのだ。
それゆえに彼は、齢十三の年を過ぎ中学生になって以降、多くの恋を経験した。
彼は男性ではあったが、同級生や同じ学校に通う同性の生徒の中には、美しい母の子らしい美しい外見をもった彼に恋する者も少なくはなかった。
だからこそ、恋の機会には大いに恵まれた。
だが、その出会いの中に運命のヒトは居なかった。
ただ彼はそこで諦める事はなかった。
高校生になれば、また新しい出会いがある。
そして、もし高校で出会えなくても大学があるし、その先にだって大いに出会いはあるのだ。
だからたった三年間で夢を諦めてはいけない。
彼はそう思い、高校生活でも大いに恋に励んだのだった。
そしてそんな彼の純粋な心を別の色に染め上げてしまったのが、性の世界であった。
彼は、自分のした事で誰かが喜ぶ姿を見るのが好きだった。
彼は、どのような形でも自分を求めてもらえる事が好きだった。
それゆえに彼は、非常に純粋で優しく愛情に溢れた心を持ち、そして、奉仕的だった。
美しい彼。
優しい彼。
奉仕的で純粋な彼。
そして、運命のヒトとの出会いをひたすらに探し求めている彼。
そんな彼は、手軽に御馳走にありつきたい者たちにとって、酷く好都合な獲物だった。
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