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22-3 トオル
俺と大差 ないねん。水煙 様も。ただちょっと性格違うてるだけ。俺は自分の欲 に正直なだけで、正直者 の亨 ちゃんやねん。
一晩に最低二回はしたい。三回でもいい。それが淫乱 やて言うんやったら、我慢 に我慢 を重 ねて、一日一回でもええわ。一回はしようよ。健康のためにも。禁欲 は体に悪いから。
ああもう、ほんまに泣きそう。
アキちゃん、俺と素 っ裸 の犬をベッドに連れ込んで、その後どないしたと思う?
寝てん。エロやないで。眠ったんや。ぐうすか寝たんやで!
嫌 な予感 はしたわ。眠い眠い言うてたし。眠そうな顔してた。もう明け方近くやったしな。ほぼ徹夜 やんか。
それでも悪いと思うたのか、アキちゃん俺とやろうとはしたわ。素 っ裸 の俺を抱いて、お前と抱き合うのは気持ちええなあ、安らぐわ、みたいな事を言うてた。
酔 っぱらって視野狭窄 やからな、反対側に瑞希 ちゃん居 るの、忘れてんのとちがうか。もう、べろんべろんやったみたいで、にこにこ言うてた。
綺麗 やなあ、亨 。俺はお前の顔が好き。体も好き。全部好き。お前がめちゃめちゃ好き。世界一好きやって。ほんで、恥 ずかしそうにキスをして、そして、ぐうー、みたいな。寝てます、みたいな。嘘 やあ、ほんまに寝てるう、みたいなな。
気まずい気まずい、瑞希 ちゃんに最高に気まずい。抱きついた俺の肩に頽 れて、ぐうぐう寝てるアキちゃんを見てるあいつの顔は、真っ白けの顔面蒼白 やったから。
まあ、見たらあかんかったよな。愛を囁 くアキちゃんは。自分に囁 くんやったらええけど、蛇 に囁 くアキちゃんはまずい。ワンワン発狂 するからな。
お前、発狂 してまた飛びかかってくるんとちゃうんか。蛇 ぶっ殺すモードで。俺を八 つ裂 きにするんと違 うんか。
勘弁 してそれは。とりあえず全裸 やし。せめて服着てから喧嘩 せえへんか。それか変転 するとか。外出るとかしてな。ホテルの備品 壊 したら、藤堂 さんに怒られるからな。
俺はそれを目で訴 えたけど、ワンワンは喧嘩 する気はないらしかった。
なんでやろ。ぶっ殺すみたいな目は一瞬したくせに。すぐ泣きそうなって背を向けていた。
俺に負けたと思うたらしい。戦う気はない、しとうてもできへんて、そんな顔やった。
まあ確かに負けてたけど。アキちゃん鬼 やし、お前のことアウト・オブ・眼中 やったよな。
素面 やったらもっと気遣 うてくれたやろうけど、酔 いつぶれてた。
それにアキちゃん俺と抱き合うと、なんや頭の回路 おかしなるから。水煙 様が横たわるソファででも、それが太刀 やった時には、平気で俺といちゃついてたから。辛抱 堪 らず俺が、ひいひい喘 いでる声聞かせても、ぜんぜん平気やったんやから。犬居 るわって事を、あの瞬間、忘れてたんやないか。
寝こけてへんかったら、犬がいようが水煙 いようが、忘れて俺とやってたんやないか。俺はええけど別に。ギャラリー居 っても平気やし。むしろ見やがれみたいな感じやもん。
アキちゃん俺を愛してんねん、めっちゃ気持ちいい、身悶 えて喘 ぐ、それをとっくり拝 んどけって、そういう性格やけどな、俺は。アキちゃんは違うやん。そんな子やない。素面 やったら、さすがにありえへん。そこまで自由やないで。
何をそんなに酔 うててん。どこで飲んできたんや。
俺は一応、レストランもバーも探したで。他にどこで酒飲めるねん。
絶対に湊川 怜司 の部屋や。
だってアキちゃんの髪 からは、ぷんぷん煙 の臭 いがした。香炉 で焚 く聖 なる煙 のような、ええ臭 いやけど、あいつの臭 いや。
信太 や鳥も同じ臭 いがする。あいつら同じ煙草 を吸 うてんのやからな。
でもまさかアキちゃんが、鳥と虎 と3Pやってたというのは考えられへんやろ。絶対ないとは言い切れへんで。アキちゃん何するか分からん男やからな。真面目 やけど、ブチキレたり突 き抜 けたりすると、はぁ!? みたいな事、平気でしよるからな。気つけなあかん。
でも今回に限 っては、それはない。湊川 怜司 や。だってアキちゃん本人がそうゲロってたやんか。あいつを式 にしたって。
それって、あいつと寝てきたって事なんとちゃうの。よう平気で言うわ。こいつ酔 うてる時なんでも平気やで。そもそも俺を最初に口説 いた時も、酔 うてたからこそやった。酔 うてへんかったら男と寝ようなどと、思いつきもせんような子やったんや。
それがどうなん、一年も経 たんうちに、平気で男のケツに萌 えるようになってもうた。
ちょっと調教 しすぎたよ。俺だけでええのに。なんで萌 えんの。通りすがりみたいな奴 のケツにまで。
確かにええよ。湊川 怜司 。あいつ、ええ体してる。言いたないけど、美しい。
背は高いけど、アキちゃんよりは低いし、モデル体型というか、すらり細身 で、肌 も綺麗 や。何を食うたらああいうのになるんやろ。
血肉 を食うてるようには見えへん。あれは神やで。神様系や。カスミ食うてるような奴や。つまり信仰 によって維持 されている奇跡 の肉体や。
俺も昔、ああいう感じやったような気がする。別に血肉 を食らわんでも、祭壇 の煙 と、神官 たちが持ってくる捧 げ物 なんかをちょっと摘 んで、あとは人々の強い信仰 によって生きていける。ぜんぜん平気。ノーブルで余裕 。お上品 やねん。
そんなんやったのに。時代って変わる。
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