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22-2 トオル

 (げき)(げき)との戦闘は、いわば闘犬(とうけん)みたいなもん。(しき)(しき)とを戦わせるんや。手持ちがないわでは、勝負にならへん。犬が()るやろ?  怖いと躊躇(ためら)うその一瞬で、アキちゃんの首が吹っ飛ぶかもしれへん。そんなん怖い話やなあ。  それを迷わず身を(たて)にして(かば)う勇気が、俺にはあるんか。  わからへん、それは。その時が来てみないと。  あるわと言いたい。でも俺はほんまに、死ぬのが怖いねん。だから自信ない。もし万が一、俺が(いと)しいアキちゃんよりも、自分の身が可愛(かわい)いようなことがあったら、その時はどうなるんやろ。  しかし、あの犬やったら、命は()しむまい。健気(けなげ)やし、それに思い()めている。アキちゃんのためやったら、あいつは何でもしよるやろ。  ()(にえ)にもなる。身を()てて(かば)う、生きた(たて)にもなるわ。  水煙(すいえん)(けん)やったら、あいつが(たて)で、それでアキちゃんは完全武装(かんぜんぶそう)やわ。  式神(しきがみ)とはそういうものや。そのために()うておくんや。戦いに(のぞ)むための、武器や防具を(そろ)えておくようなもんやねん。怖いわ言うて逃げるような、なまくらな(たて)やったら役に立たへん。  アキちゃんが、可愛(かわい)いんやったら、せめて身を守る(たて)()うておくぐらいのことは、(ゆる)してやれと、水煙(すいえん)様は俺を(しつ)けた。  それはもちろん、(ゆる)してる。ただそれと、いちいち寝る必要はないってお前が言うから、俺も納得(なっとく)してたんやないか。えらい話が違うんやないんか、水煙(すいえん)様よ。  瑞希(みずき)ちゃん、抱いてくれな(いや)やて言うてるで。抱いて欲しい。愛してるから。好きやって言うてほしい。アキちゃんに、それに(こた)えろって、無理を言うてる。なんちゅう()(まま)な犬や。  そら、抱いてほしいやろなあ。俺も抱いてほしい。好きやったら、それで正常や。  それを血をやったくらいで誤魔化(ごまか)せるやろというほうが、土台(どだい)おかしいねん。  あいつはただ(げき)として、アキちゃんを(した)っている(わけ)やない。()れてんねん。抱き()うて愛し合う相手としてアキちゃんが好きなんや。  それは心の問題で、理屈(りくつ)やない。我慢(がまん)せえ言われても、我慢(がまん)はできへんやろ。好きな相手のことを、好きや好きやと思うのは。  俺はアキちゃんの血を吸うてても、抱いてほしくなる。腹減るからやない。愛してるから。抱き合いたいねん。ただそれだけ。  手を()れていたい。あいつの存在感を、(はだ)で感じたいねん。  それかて理屈(りくつ)やないわ。我慢(がまん)できへん。  好きでたまらん。力一杯(ちからいっぱい)抱き()うて、お前が好きやって(ささや)き合いたい。ひとつになって、心地よく溶け合う感覚に(おぼ)れたい。  切り果てのない愉悦(ゆえつ)快楽(かいらく)。それが愛やろ。それが愛の、自然な形や。  それが全てとは言わへんわ。でも、それ抜きには語れへんもんが、愛にはあるわ。  俺には無理や。好きな男を前にして、指一本()れへん。ただじっと見てるだけ。そんな苦しい愛が百年続く。そんな欲求不満(よきゅうふまん)我慢(がまん)プレイに()えて、平気そうなお高い(つら)でいる。そいつが他のを可愛(かわい)がるのを、ようやった(えら)いと言って()める。そんな水煙(すいえん)みたいなことは、到底(とうてい)できへん。  あいつ、変態(へんたい)なんと(ちが)う? 絶対、頭()いているで。  元々、穴無(あなな)しやったのかて、あいつの意志やで。抱こうったって抱かれへん、そういう体になってもうて、相手を(こば)んでたんや。  俺は他のみたいに、淫乱(いんらん)やない。(めかけ)はやらへん。見損(みそこ)なうなという意思表示やろ。  たぶん、つらかったんやろ。ああいう性格やから。  ひとつ寝床(ねどこ)で抱き(くら)べられる、そういうのは我慢(がまん)ならへんねん。  (みにく)(つか)み合いの乱闘(らんとう)みたいなのには、()ざらへん。いっそ気高(けだか)く身を引いて、おとなしくしてたい。なるべく傷つかんように。(とう)に住む深窓(しんそう)姫君(ひめぎみ)よろしく、(くら)(かこ)われてる、(おが)んで(あが)めるのはええけど、抱いたらあかん神さんとして、()らば()るぞと(こば)姿勢(しせい)やった。  アキちゃんはその、(おく)ゆかしいところが()えるんやろけど、俺に言わせりゃ、やせ我慢(がまん)やで。  水煙(すいえん)かて、(けが)れを知らぬ身やないで。だって肉食うてんのやから。タマゴも食うたんやで。鳥さんとおんなじもん食うたんやから。ほんまやったら、あれくらいの性欲があるんやで。ただそれを(かく)してるだけで。  だって、おとんとは一緒(いっしょ)に寝たらしいやんか。ほんまに、ただ抱いて寝るだけなんやろけど。太刀(たち)やしな。それでも(とこ)に入る時、おとん大明神(だいみょうじん)は他のを余分(よぶん)に連れ込んだりはせえへんかったらしいで。  潔斎(けっさい)して抱いた。水煙(すいえん)を、(あが)めてたんや。  それを(こば)まん程度(ていど)には、水煙(すいえん)もおとんに()れてたんやろ。  本音(ほんね)を言えば抱かれたかったんや。そうに決まってる。  もしもおとんがアキちゃん()みに破廉恥(はれんち)で、水煙(すいえん)太刀(たち)からサーベルに作り()えるだけやのうて、抱いて可愛がれる体に作り()えてやって、もっと身のある抱き方で愛してやってたら、あいつかて、アキちゃん好きやて寝乱(ねみだ)れた。そうに決まってるわ。  抱いてほしいて、毎日毎晩もじもじしてたで。その味を、いっぺん体で(おぼ)えてもうたら、我慢(がまん)できへんようになる。自分から(またが)って(はげ)むようになるわ。

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