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22-6 トオル
何をどうすんのかはまだ考えてへんけど、あいつキスすんの好きらしいし、俺とやってるアキちゃんと、キスくらいならしてもいい。俺と一緒にアキちゃんの血吸うくらいなら、してもいい。ただし吸い過ぎには注意。二人がかりで必死やと、さすがにアキちゃんの健康を損 なう怖 れがあるからな。
もう、そんな神のごとき寛大 さで愛してやってる俺やのに、なんでアキちゃんは裏切 るんや。許 せへん。我 が儘 すぎる。おかんにチクったらなあかん。
アキちゃん、ご神刀 を踏 みにじってる。俺のことも、虚仮 にしてる。
犬に至 っては言うに及 ばず。ボロ雑巾 かなんかと思うてんのと違うか。あいつを振 っておきながら、返 す刀 でラジオと寝てる。そら泣くで瑞希 ちゃん。俺も泣きそうや。
お仕置 きしたらなあかん。あいつがギャフンと言うような。痛 うて死にそうな目に、遭 わせてやらんと気がすまへん。
アキちゃんがこの世で最も恐 れてることって、なに?
一番痛い、痛点 は。
おかんか? でも、おかんは今ここには居 らんしな。
そんなら俺か。
アキちゃん俺のこと、愛してるしな。他のと寝んといてくれって、悲壮 な顔して頼 んでた。
もう、随分 前のことに思えてくるけど、去年の年末に言うてたあれは、今でも有効 か。俺が他のとよろしくやったら、アキちゃんは痛いんか。
それにアキちゃんは俺が居 らんようになったら、生きてられへん。そう言うてた。嘘 やないと思う。本気みたいな顔で、嘘 つける子やない。
それに、嘘 で惚気 るような、器用 な男やないわ。本心やと思う。
少なくとも本気で言うてる。現実にそうか、それは分からんけどもや。あいつに俺が必要や。
俺が居 らんようになる。他のに寝取 られると思うたら、心底 ビビるはず。泣いて頼 むはず。俺の足に縋 って、行かんといてくれって、嘆 くはず。
今までそんな男はいくらでもいた。藤堂 さんくらいや、知らん顔して俺を行かせて、探しもせえへんような鬼は。
みんな泣いて縋 ったし、俺が消えたら自殺までした。元々そういう悪魔 やねんから、俺は。
抱く者に強運 と愉悦 を与えるが、去り際 にはそれを全部奪 っていく。元の普通に戻 るだけ。せやけど人はそれに普通は、耐 えられへんのやで。
アキちゃんは普通の男やないけど、藤堂 さんみたいな鬼畜 ではない。恋愛面 では、まだまだ初心 なボンボンや。俺が居 らんようになると思ったら焦 る。反省せえ言うたら反省するはず。ごめんなさいて土下座 するはず。
それで留飲 下げたろか。悔 しいけども、俺は別れる気はない。あいつが好きやねん。
ぎゃふんと言わせて、心底 悔 い改 めてくれたら、それでええねん。
まあ、男の子やしな。浮気 すんのも甲斐性 や。アキちゃんモテるしな、いい男なんやから、しゃあない面 はある。
美味 そうな飯 はみんな食いたがる。それを独 り占 めして食うから美味 いねん。誰も見向きもせんようなのを、いくら一人でせしめたところで、美味 くはないわ。皆が欲しいて涎 垂 らして、必死でのたうち回るようなのを、俺だけが食えるっていうのが、ええんやないか。
変な話、俺は今回の件に不思議 な満足感もある。くたばれアキちゃんと思うけど、でも、アキちゃんやっぱりモテんねんなあ、みたいな、嬉 しい気もする。
どうや、ええやろ俺の男は世界一。アキちゃんほんまにイケてんのやから。抱いてもらえて嬉 しかったやろ、湊川 怜司 。アキちゃん上手 いしな。力もいっぱいあるし、辛抱 堪 らんかったやろ。
しかもそれが俺のモンやねん。配偶者 ですから俺は。俺の嫁 やからアキちゃんは。それとも夫 ? どっちでもええけど。
とにかく、褒 められたもんやないけど、ギャフン言うたら勘弁 してやろ。もう悪い子したらあかんえ、って、おかんみたいに優 しく、めって言うてやって、芯 からビビらせといたろ。
それで水に流したる。そんな俺は、めちゃめちゃ優 しい神さんやろ?
というのが、俺の言い訳やったかもしれへん。
男ってずるいんやでえ、皆。信用したらあかん。
お前が先に浮気 したんや。俺はそれに報復 しただけや。ほんの一回、味見 だけ。藤堂 さんといっぺんだけやらせて。
俺の罪 やない。アキちゃんが悪いねん。しょうがない。嫌 やったけどやっといた。これもアキちゃんを懲 らしめるため、自業自得 や。教育的 指導 。
まあ、そんな、ご都合 よろしい話。今やったらアキちゃん、俺を怒れへんやろうっていう、打算 もあったし、単純に腹立つ。お前がするなら俺もするわっていう、意地 の張り合いのつもりでやった。
うんうん。そうやねん。過去形やなあ。
もうやってもうてん。やったもんはしゃあない。話聞く?
聞くなあ。聞かへん訳ない。俺は相方 と違 て、これは避 けようなんて寸止 めせえへんしな。がっつり話すで。
トイレ行っとかんで平気か。長い話かもしれへんで。
お茶とかお菓子 とか用意するんやったら、亨 ちゃん、ちゃんと待っといたるで。
迂闊 やったわあ、後 になって思えば。アキちゃんの意表 を突 く性格を、俺は見逃 していた。
あの子は天然 やねん。いつも真面目 やねんけど、ちょっとズレてて天然 で、それが転 じて人の裏 をかく。俺が思うたとおりに行くわけがない。
時はまた、少々過去に遡 る。
その朝、目覚めると、俺はまだアキちゃんの腕 の中にいた。
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