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「いってくるよ、秋乃」
「いってらっしゃいさん、士郎さん」
玄関先でいつものように見送りの挨拶を交わす。
垂れ目な眦を更に下げて優しげに微笑む夫に鞄を渡すと、秋乃は士郎の唇にちゅっと口づけた。
「今日は帰ってこれるの?」
頭一つ分上にある士郎の顔を見上げて訊ねると、今度は整った眉が下がった。
笹塚秋乃 の夫、笹塚士郎 は、内科の医師として大学病院に勤めている。
早朝から出勤し、カンファレンス、学会の準備、外来診療、手術や患者のケアなど毎日多忙な生活を送っている。
患者の体調や状況によっては一度出かけると二、三日帰って来ないという時もザラで、たとえ帰って来たとしても数時間の仮眠を取ってまた病院へ戻っていったりする。
正直、新婚一年目でこんなにも生活にズレがあると寂しい。
しかしまだ士郎が研修医だった頃なんて今よりもっと忙しく、一ヶ月丸々会えないなんて事もあった。
その時はまだ結婚も同棲もしていなかったため、余計に孤独感を感じ、不安や寂しさのあまり士郎に対して感情をぶつける事も度々あった。
それを思うと、こうして夫夫になれて住んでいる場所が一緒であったり、二、三時間でも一緒にいれる時間があったりするのは幸せな事だと思うようにしている。
それに患者の為に自分の身を削って頑張る士郎は自慢の夫であり、そんな士郎の姿に秋乃は惚れているのだ。
「早く帰れるように頑張るよ」
「待ってる……」
そう言いながら秋乃が抱きつくと、士郎が鞄を玄関先の床に置いた。
「秋乃、今日も行く前に見せてくれる?」
士郎の囁きにぞくりと肌を粟立たせながら、秋乃はコクリと頷いた。
士郎は真面目で優しく、秋乃の嫌がる事は決してしたりしない。
しかし、夫には少しだけ変わった性癖がある。
秋乃はエプロンの裾から手を忍ばせるとデニムのフックを外し前を寛げた。
士郎に向かってそっとエプロンを捲りあげて見せると、夫の眼差しがそこに降り注ぐ。
「……見える?」
「あぁ、今日は白か。とっても似合ってるよ秋乃」
うっとりと蕩けるような声色で褒められて秋乃は頬を赤らめた。
秋乃の股間は白いレースのあしらわれた布地の中にある。
女性物のパンティーは小さめなため、股間の形がくっきりと浮かびあがり卑猥な光景を生み出していた。
普段は生真面目な内科医である夫、士郎は秋乃に女性物の下着を履かせて愛でるというちょっと変わった嗜好がある。
新婚初夜、女性物の薄い布地の下着…所謂パンティーを士郎から渡され「これからはこれを履いてほしい」と言われた時は正直驚いた。
まさか堅実で真面目な士郎にそんな趣味があるとは思ってもみなかったからだ。
最初は羞恥心の方が勝り、夜の営みの時にだけしぶしぶ履いていたのだが、士郎が余りにも喜んで褒めてくれるので、今ではすっかりこのパンティー姿が習慣づいてしまっている。
秋乃の箪笥の引き出しからも、それまで履いていた男物の下着は消え、代わりに次から次へ増える女性物のパンティーで溢れかえっているのだった。
「ちょっと勃ってきてるね」
「だって士郎さんが見てるから…」
恥ずかしげに太ももを擦り合わせると、士郎の眼差しが妖しげなものに変わる。
「かわいいよ、秋乃。触ってもいい?」
「ぁ……っ」
大きな手の平で内腿を撫でられてずくんと下腹部が疼く。
秋乃は慌てて士郎の胸を押し返した。
「で、でも遅刻しちゃうよ……っ」
「少しだけ、ね?」
ズルイ。
士郎の甘い蠱惑的な誘いに、秋乃が勝った試しは一度たりともないのだ。
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