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第1話
僕は今、大変居たたまれない状況に陥っています。
「アッ、あんっ……んんっ」
入社して半年の僕は、先輩から言われた資料を準備するために会議室にこもっていました。しかし、思いの外時間がかかってしまい、会議室から戻った時には、仕事の指示をした先輩も居らず、フロアの電気は一ヶ所だけを残し消されていました。
「んん、そこっ、もっと……奥までっ」
そして、この状況。
フロアの残された灯りの下で行われている情事に、あわてて身を隠したのはいいものの、完全にあてられて、僕自身もどうしょうもない状況にさらされてしまっているのです。
「優紀っ……優紀……」
「はぁっ……んっ!」
"優紀"……江波優紀 先輩と
「カズっ、もっと……奥っ」
「ああ、こうっ?」
「はぅっ」
"カズ"……吉澤一晃 先輩との情事を見るはめになってしまったのです。
お二人は、僕にとっては大変尊敬する先輩たちです。優紀先輩はΩなのに、大変仕事が出来て、αの一晃先輩のフォローをしたりととてもよい関係を築いてらっしゃいました。普通ならΩというだけで差別されることが多いのに、優紀先輩の人柄もあるのか、大変周囲からも評価されている方なのてす。
でも、お二人が恋人同士だったとは、思いもしませんでした。
それも、体格的に大柄でクールで男らしい優紀先輩を、中性的で柔らかい印象の一晃先輩が抱くなんて、思いもしませんでした。
二人に気付かれないようにと、しゃがみこんでいた僕は、 優紀先輩のあんな甘い喘ぎ声とΩのフェロモンで、僕自身がガチガチになってしまいました。
僕は無意識にズボンのファスナーをおろして固くなった僕自身に手を伸ばし、なんとか慰めようとしていました。ニチュニチュと扱く音と、先輩たちの喘ぐ声で、徐々に僕自身の絶頂も近づいています。
「あっ、あぁ、カズッ……もう、イっちゃう」
「いいよ、イって。俺もすぐに……」
「はぁ、あん、ああっ!」
達した二人の声に煽られて、僕も時を経ずに、声を圧し殺しながら、びくびくと白濁した熱を吐き出してしまいました。息のあがった二人は、暫く無言で、ただ荒く吐く息の音しかしません。僕はポケットティッシュを取り出して、後始末をしながら、自己嫌悪に陥ってしまいました。まさか、僕が先輩たちの情事に聞き耳をたてながら、オナニーをしてしまうなんて。
暫くして、自分のことばかり悶々としていた僕の耳に、カズ先輩の絞り出すような切ない声が聞こえてきました。
「優紀、ごめん」
そして、微かな嗚咽が聞こえてきます。それは、カズ先輩のものなのでしょうか。カズ先輩の言葉に優紀先輩は何も答えません。服を整える音がしたかと思ったら、フロアを足早に歩く音が聞こえてきました。それは、一人だけの足音でした。入口近くにいた僕は、見つからないように床を這いつくばりながら、身を隠しました。足音は、フロアを出てエレベーターホールに向かっていったようでした。
早く自分の席に戻り、鞄を持ってこの場から立ち去りたいのに、まだ先輩のどちらかが残っているので、立ち上がれずにいると、微かな声が聞こえてきました。
「ふっ、くっ……」
嗚咽を押さえ込もうとしてるのに、どうしても漏れてしまう、そのような声でした。
僕は見つからないように、そっと顔をのぞかせて見ると、そこには、背中を丸め、机に突っ伏している優紀先輩がいました。あの大きな背中が、小さく震えていて、僕は手を伸ばしたくなりました。しかし、僕ができることは、ただ、その背中を見つめることだけでした。
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