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第2話

 暫くして、カズ先輩が会社を辞めるという噂が広がりました。お父様が倒れられたとのことで、実家に戻られるのだそうです。カズ先輩の実家は大きな会社を経営されていて、長男のカズ先輩は跡を継ぐことになったというのです。  カズ先輩が会社を去る日、フロア中の女性社員(中には男性社員も)は涙を潤ませ、花束と餞別を渡していました。 「お世話になりました。」  爽やかな微笑みを残してフロアを去っていくカズ先輩。僕には、あの日の二人を知っているだけに、カズ先輩の自然な微笑みに苛立ちを感じずにはいられませんでした。そして、僕は自然と、優紀先輩の姿を探してしまいました。しかし周囲を見回しても見当たりません。優紀先輩を探しに社内を走り回り、ようやく見つけたのは、普段はほとんど利用されない最上階の会議室でした。 「……優紀先輩」  僕の声に驚いて振り向いた先輩は、目の下にクマを作っていました。今まで気付かなかったのは、あれから僕が先輩の顔を見ることができなかったせいでしょう。どうしても、あの日の先輩を思い浮かべずにはいられなかったのです。 「どうした」  どこかボンヤリとした声に、この人がとても傷ついてしまっていることに、嫌でも気付かされてしまいました。それでも、僕は声をかけずにいられません。 「カズ先輩を見送らなくていいんですか」  僕の一言に、優紀先輩の顔が一瞬歪んだように見えました。仕事をしている時の厳しい表情とは違うそれに、僕の胸がチクリと痛みました。 「ああ……あいつには、もう別れの言葉は伝えたから」  小さく微笑みながら、窓際に向けられた優紀先輩の横顔はとても寂しそうでした。  あれから知ったのですが、優紀先輩とカズ先輩の関係は、誰もが知るものだったのです。僕だけが知らなかったのを、"どれだけ鈍いのだ"と同期には呆れられてしまいました。  会社の皆は、てっきり、二人は番となってその関係は続くものと思っていたのに、カズ先輩は会社を去り、優紀先輩だけが残ってしまいました。  優紀先輩がフリーになったことで、にわかに周囲がざわめきだしました。気がつけば、何人もの男や女が先輩に言い寄っては、撃沈していくのを、僕は半分喜びながら、半分は悲しく思いながら見つめ続けました。

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