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第3話

 カズ先輩が辞めて1年が経とうという頃、人伝(ヒトヅテ)にカズ先輩が結婚して、お子さんまで生まれたこと知りました。それは、優紀先輩と別れてすぐに結婚して子供まで作ったということです。僕は少なからずショックでした。恋人同士と知らなかった時から、二人はとても仲がよかったように見えてました。僕が知った時ですら、お互いに想い合いながら、泣く泣く別れたように思っていたのに。  僕はカズ先輩のことに、幻滅してしまいました。なぜ、カズ先輩は優紀先輩を連れていかなかったのかと。例え、優紀先輩は男だとしても、Ωなら、後継ぎは産めるのに。子供が埋めない男同士でないのだから、別に構わないではないかと。  残業しながら悶々とそんなことを考えていたら、案の定、フロアに残ったのは僕だけになっていました。  僕は手際がいいのか、人より仕事をこなすのが早いと言われます。だけどそのせいで、やたらと先輩たちから仕事をふられて、結局残業しなくちゃいけなくなってしまいます。自分でも"うまく断ればいいのに"とは思うのですが、僕にはどうも無理なようです。 「ん~!」  椅子に座りながら大きく背伸びをしてから、パソコンの電源を落としました。そういえば、1年前も同じように残業していて、優紀先輩とカズ先輩の情事に遭遇してしまったことを思い出しました。普段、クールでできる男風の優紀先輩が、抱かれている時のあんな艶やかな姿を知っているのは、もう僕しかいない。そう思うと、一人でニヤケそうになります。  自分でもだらしない顔をしてるんじゃないか、と、反省しながら、フロアの電気を落とし、エレベーターホールに向かいました。エレベーターホールの脇は大きなガラス張りになっていて、街の夜景が美しく見えます。エレベーターがくるのを待ちながら、下を見下ろすと、夜の街を家路に急ぐ人や、飲みに行く人たちが流れていきます。  その中で、僕は見つけてしまいました。優紀先輩が誰かと一緒に歩いている姿を。あれは……優紀先輩の上司の嵯峨野(サガノ)さん。二人で飲み屋にでも行くのでしょうか。とても親し気にしている姿を見て、僕の胸はチクリと痛みました。

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