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第4話

 優紀先輩が嵯峨野さんと付き合っている、という噂が立ち始めました。もう少し自分に自信が持てるようになったら、などと思っているうちに、これです。僕は時々、本当に自分はαなんだろうか、と思うことがあります。周囲のαはもっと自信満々で仕事もできる人ばかりなのに。そして、嵯峨野さんも言うまでもなくαで、優紀先輩はやっぱり、カズ先輩や嵯峨野さんみたいに仕事ができるαがいいのでしょうか。  フロアで2人が真面目な顔で仕事の話をしている姿を見るたびに、僕の中では勝手な妄想ばかりが膨らんでいきます。そんな顔をしながら、いかがわしいことは話してるんじゃないか、見えないところであられもないところに触れてるんじゃないか。冷静に考えれば、そんなことはなかったのかもしれません。しかし、今の僕には優紀先輩のことしか考えられなくなっていました。 「兵頭(ヒョウドウ)、ちょっと来い」  急に僕の名前が上司から呼ばれました。何かミスでもおかしたのでしょうか。普段、仕事の指示は先輩たちからなので、上司から声がかかることはあまり多くありません。上司に呼ばれて行った小さな打ち合わせスペースには、なぜか優紀先輩と嵯峨野さんまでいました。僕は驚いて、入口近くで立ち止まってしまいました。 「ほら、早く座れ」 「は、はい」  慌てて座ると、正面に優紀先輩がいつものようにクールな顔で座っています。きっと僕がドキドキしているなんて思ってもいないでしょう。 「本当に、うちの兵頭でいいのか?嵯峨野」 「ああ、江波のご指名なんでな」 「えっ!?」  僕は二人の会話の意味がわからないまま、優紀先輩が僕を指名したということのほうに驚いてしまいました。そもそも、どういったことで僕は呼ばれたというのでしょうか。僕は嵯峨野さんと優紀先輩、両方を見比べてしまいました。 「兵頭、お前、来月から嵯峨野の下な」 「は、はい?」 「だから、異動だっていうの」 「えぇぇっ!?」  僕と優紀先輩は同じフロアにいながら、所属している課が異なっていました。だから直接仕事で絡むことはないものの、ずっとその姿を見つめることができていました。それが、今度は一緒に仕事ができるなんて! 「何、お前、嫌なのか」  上司からは訝し気な顔で言われてしまいます。そんなことはありません!優紀先輩と一緒だったら、どんな仕事でも頑張れる、僕はそう思いました。だから、僕は大きく左右に首をふると、 「よ、よろしくお願いしますっ!」 と、勢いよく頭を下げました。その時は、すっかり忘れていました。優紀先輩と嵯峨野さんの噂のことを。

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