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第5話

 やはり優紀先輩はすごいです。仕事のスピードもさることながら、的確な指示や判断力で、どんどん仕事をこなしていきます。僕はなんとか先輩に追いつこうと、必死で先輩の後を追いかけるだけでいっぱいいっぱいでした。それでも、優紀先輩とともに仕事をする日々は充実していて、この人の隣にいられることに幸せを感じていました。  しかし、息抜きに自販機の置いてある休憩スペースで、コーヒーを買っていた時のことです。 「この前、見ちゃったんだよね、あの二人が一緒にいるところ」  僕がいるのに気づいてなかいのか、気づいても気にしていないのか、数人の男性社員がぞろぞろと入ってきて話をしはじめました。その場を離れるタイミングを逃した僕は、休憩スペースの中の仕切りの影になっている小さなテーブルのところに座り込みました。 「やっぱり、噂本当なのか?」 「だと思うぜ」 「えー、江波さん狙ってたのになぁ」  優紀先輩の名前が出て、ドキッとしました。 「嵯峨野さんも、前から狙ってたんだろ?」 「ああ、そんなこといったら、みんなそうだろう」 「狙うだけはタダだしな」  どこか下卑たような声に聴こえたのは、僕の思い込みだけではない気がします。 「それに、あれ、あれだって」 「あれ?」 「ああ、"あげまん"ってやつ?」 「は?江波さんは男だから"あげまん"はねーだろ」 「クククッ、そうだけど、あの人と付き合った男は出世するってやつ」 「あ?吉澤さんは、もともと御曹司だったろうが」 「その前の男の話じゃ、大学教授になったらしいぞ」 「え?」 「これで嵯峨野さんも何かあったら、決定的じゃん」 「マジかぁ~、だったら俺もお願いしたいわぁ」  高らかに笑う声に、僕は拳を握りしめるしかありませんでした。何か言い返せればいいのに、僕にはそんな勇気はありません。それよりも、嵯峨野さんと付き合ってるという噂が本当らしい、ということのショックのほうが強くて立ち上がることができませんでした。

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