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第6話

 そんなショックなことを聞いてからしばらくして、 優紀先輩の"あげまん"の噂を補強するかのように、嵯峨野さんが大阪の本社のほうに転勤することになりました。  嵯峨野さんの転勤の送別会の日には、にこやかに笑っている優紀先輩がいました。それを見てホッとした半面、嵯峨野さんがいなくなった途端、優紀先輩にアプローチしてくる人が現れるんじゃないか、と、不安になりました。  送別会が終わり二次会に行くかどうか、騒めいている中、優紀先輩は早々に店を出ようとしていました。僕は心配で、すぐに追いかけました。 「先輩っ」 「兵頭……」  カズ先輩の時とは違って、憔悴した様子はありませんでしたが、また泣いているんじゃないかと思ったのです。だけど、優紀先輩はただ顔が青ざめているだけでした。 「どうかしたんですか」 「……ちょっと体調が悪くなりそうな予感がして」 「予感?」 「ああ」 「大丈夫ですか?途中まで一緒にいきましょうか」  僕は心配で背中に手を伸ばそうとした時、思い切り避けられてしまいました。僕はびっくりしてしまいました。優紀先輩も僕同様、驚いています。 「わ、悪いっ。大丈夫だから」 と、答えた途端、崩れ落ちるように優紀先輩が倒れてきました。 「先輩っ」  僕は慌てて抱き止めると、気づいてしまいました。堪らない匂いが優紀先輩から漂っていることに。これは、優紀先輩の発情期が始まろうとしているのでしょうか。僕は、優紀先輩のΩのフェロモンにクラクラしています。なんとか抱きしめていますが、本当はこのままここで犯してしまいたいと思っている僕がいました。それくらい、狂ってしまいそうな匂いです。僕は慌てて近くにあったホテルに先輩を連れ込みました。よく理性が働いたと思います。  先輩を横たえると、僕自身がこれ以上おかしくならないようにと、その場から離れようとしました。実際、僕も限界だったのです。このままじゃ、本当に襲ってしまう。部屋の中に充満したΩのフェロモンは否応なく僕を責め苛みます。スラックスの中はパンパンに膨れあがってます。 「ひ、兵頭、頼む……」 「は、はい、なんでしょうか」  僕は、先輩の苦しそうな声に、つい振り向いてしまったのです。僕は、先輩の目を見た時、吸い込まれるような気分になりました。ドキドキしながら吸い寄せられるように僕が先輩のそばに行くと、先輩は苦し気に、だけど、嬉しそうに僕を見つめて手を差し伸べています。 「フゥ、……ハァ、ハァ……兵頭……おいで……」  先輩の声に、ふらふらと足が進みます。圧倒的な吸引力に、僕の心も身体も優紀先輩に引き寄せられてしまいました。頭は何も考えられません。 「 せ、先輩っ」  今までずっと見つめ続けていました。好きだと思っていました。だけど、この状況になって初めて気づかされてしまいました。ただ好きなだけじゃない。僕には、この人しかいないと。 この人は僕の運命の番だと。  もしかしたら、先輩も同じモノを感じたのかもしれません。優紀先輩は大きく瞳を見開くと力強く僕を引き寄せて、噛みつくように唇を重ねてきました。部屋の中が互いのフェロモンで充満して、僕たちは互いに強く求め合いました。

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