21 / 21

Hello,Mr.Johnson03

 いかれている、とハリーは自覚する。  それでも、そんな風に考える事ができるだけまだマシだ、とも思う。目の前には新しいシーツを掴み、枕に顔を押しつけて声を殺しながらも官能的に腰を揺らす恋人の姿がある。  いかれてしまわないほうがおかしい。理性の半分はどろどろに溶け、今は彼への愛おしさと単純な興奮がハリーを支配しかけていた。  元より我を忘れて快楽を貪る人間ではないし、そんな若さはもう無い。興奮に踊らされようとも、ハリーはSJを無理矢理襲うような真似はいっさいしなかった。  ゆっくりと、時間をかけて恋人の体を開いていく。  その甘美な時間をじっくり味わうハリーに、SJは先ほどから罵倒混じりの嬌声を上げていた。 「きみって、ほんっと……っ、ぁ、ふ……、我慢強くて、嫌だ、あ、ぁ、だめ、また、出ちゃ……っ」 「我慢なんかしてないよ。思う存分好き勝手スタンに触れている。じっくり焦らされるセックスは嫌い?」 「わっかんないよきみとのコレが初めてのセックスだもの……っ! あ、ちょ、だから、それ、そこ押さないで、あたま、おかしくなる、からぁ!」 「俺なんてもうとっくの昔におかしくなってる。こんな風に好きにキミの身体を弄って焦らして、明日のキミにひどく怒られそうだという理性は遠くに放りだしたよ。……中も良くなってきたな。初めてにしては上出来だ」  獣の格好で腰を揺らすSJに被さるように、ハリーは彼の背中にキスを落とす。ローションで塗れた指はかなり前からSJの中に埋まっていて、ゆっくりと馴らした甲斐あってか、それとも元々素質があったのか、萎えていた彼の性器も段々と硬さを増してきたようだった。  ハリーのものはもうどうしようもないほど硬い。一度あまりにも官能的な恋人の姿に我慢ができず抜いてしまったが、自分にもまだこんな欲望が残っていたのかとあきれる程だった。 「ん、ぁ……っ、あ、いやだ、ハニー、もう、出るって、言ってるのに、何で……っ」  もどかしい刺激しか与えられないSJは枕に頬をつけてとろけた顔でハリーを睨む。熱で上気した肌や涙が浮いた瞳を見るだけで、ハリーの下半身はまた興奮してしまう。 「あんまり出しすぎると後が辛い。もうちょっとだけ我慢してくれダーリン」 「あっ、は……ぁっ、そう、言ってもう何時間、僕はえろいことされちゃってるの……っ」 「キミの尻の穴をいじりはじめてからはまだ一時間だよ。それだけ頑張ったんだ、俺がコンドームをつける時間くらいは我慢できるだろう?」 「……ん、……ハニー、コンドーム、持ち歩いてるの……?」 「いや、キミともし何かしらあったら困ると思って持ってきた。バスローションもジェルも、俺のスケベ心故の準備のたまものだ」 「…………とんでもないイケメンなのにしれっと卑猥なところ嫌いじゃないよ……」  馬鹿、と今日のうちに何度言われたことだろう。こんなに甘い暴言はない、とハリーは甘い言葉を息とともに耳に吹き込む。  避妊具を使用するのも久しぶりだ。男性同士のセックスでは妊娠はしないが、感染症等のリスクはある。安全なセックスの為に、ハリーは必ずコンドームをつけることにしていた。  薄いゴムを伸ばしながら着け、SJの腰を抱き寄せる。汗で火照った身体は熱く、ゆっくりと沈む彼の内側もひどく熱い。 「……っ、んん、ううう、あーあー、うわ、うわぁ……入って、くるの、すごい、わかる、ってか、きみのミスター・ジョンソンちょっとおっきすぎじゃない、の、っあ、待って待って待って乳首ダメ死ぬ死んじゃ、あ、ぁ!」 「キミが力を抜いてくれないと俺のジョンソンは首を絞めつけられたままなんだ。……左の方が敏感だな。コリコリしているし、気持ちよさそうだ。そのままそう、腰を上げて。ほら、いいぞ。……スタン、動くと、うまくいれにくい」 「だって……! ハニーが! 乳首! 弄る、から、なにこれっ……りっふじん……っ、ぁ、や……っ」 「どこもかしこも敏感で、スケベな俺はうれしいよ」  もう少し、と背後から囁きながら背中をさすれば、それも刺激になるのか、細い腰がびくっと揺れる。適度に骨が浮いた身体はしなやかでハリーの好みだ。もう少し細いと少年のようでかわいそうになるだろうし、ぜい肉が付いている男は嫌悪するほどでないにしろ、個人的には好まない。  元々SJの体躯に関しては一目惚れに近い。今となっては身体や外見よりも、前向きで柔らかくそしてユーモアを忘れない強さを持った彼の中身が、ハリーを惹きつけてやまない。  最後まで自分のものを埋めながら、最高の恋人だと実感する。  その彼と、今ベッドの上で淫らな行為に及んでいる。アダルトビデオを見る暇があったらその分外国語のテキストを開いている、と豪語していたワーカホリックの青年は、上気した頬を隠しもせずに上ずった声でハリーの名前を呼んだ。 「っ、ハニー……、入った? これ、キミの、ミスター・ジョンソンの、頭からつま先まで、全部? 僕の、中にある?」 「入ってるよスタン。痛くはない?」 「……痛くはないけど、重いっていうか、なんかあるっていうか、すごいこう……異物感、というか……ああ、でも、なんかちょっと、じわじわする、かも……ハニーは、その、あー……」 「気持ちいいよ。というより、満たされている、という感じだ。キミの中に俺のペニスを突っ込んでいる、という状態に感動している」 「ジョンソンとかピーターとかかわいい名前で呼んであげてそういうそのものずばりな表現僕はちょっとどうかと思、あっ、ハニー、待っ……!」  SJの抗議を聞かず、ハリーはゆっくりと腰を引く。柔らかい熱に引きずられる感触は、やはり快感よりも感動を覚えてしまう。  SJの方はいきなり動かれた衝撃で、びくりと腰が跳ね上がった。 「あ、ぁ……ん、ぁ、ちょ……だめ、だめだめだめなんか、これ、やばい、だめ、ハニー、僕ちょっとこれ、ふぁ……ああ……やだ、なんか、それ、抜くの、ジンジンして、……っ、は、ぁ、」 「……っ、抜く、方が、好き?」 「ふあああっ……!?」  ずい、と腰を打ちつけ中を擦る。ゆっくりと奥まで進めたハリーが屈みこみ、どっちが好きかと耳の裏に息をかけると、震えるSJはシーツを握りしめて頭を振った。 「もう……っ、そういう、のが、卑猥なの……っ」 「身体と言葉と感情と、全部気持ちよくなれたら最高じゃないか。俺にエロい質問をされて、真っ赤になって慌てる初心なキミが可愛い」 「……セックスに慣れて積極的な僕になっちゃったら可愛さ半減しちゃう?」 「しない。断言できる。そんなキミは想像するだけでたまらないよ。勿論、いつまでたっても真っ赤になるキミだってかわいい。まあつまり、なんだってかわいいし、俺はキミが呆れるくらいにスタンの事が好きだ」  愛してるよ、と囁きながらシーツに落ちた手を握り、埋めたものをもう一度引く。そのままゆっくりと前後し始めるハリーに、SJはひたすらに息を上げた。 「あ……っ、ふぁ、や……っ、ナカ、ジェルで、ヌルってしてて、ん……っ、変な……ぁ…、ふ、ハニー……あ……!」 「中の具合は、どう? ……痛く、ないならいいが。気持ちよければ、もっと、いい」 「きもちいいっていうか、なんか、あっ、淫らな、ことしてるって思うと、恥ずかしい、のに、興奮してきて、僕……、ぁ、ぼく、すっごい、ふしだらなにんげんに、なってる、みたいな、気持ちが……あ、ちょ、バカ、だから、乳首、やめ……っ! ふ、ぁ!」 「もっと淫らになったらいい。俺の手で、ペニスで悶えるキミが、たまらなく煽情的だ」  決して無理に腰を打ち付けることはなく、ハリーはゆっくりとSJを煽り立てる。初めてそこで異物を飲み込んだSJにとっては、ハリーの穏やかな動きだけでも十分な刺激だろう。  アナルセックスで快楽をつかむには、少々のコツが必要だ。とにかくゆっくり、じっくりと内側を擦る。恐るべき忍耐力でSJを追い詰めるハリーは、時折彼の胸や性器を手に取って弄る。その度に無垢な青年は身体を震わせて、可愛くない暴言を上ずった声に乗せた。  SJの喘ぐ声に艶が入り始めたのは、しばらくしての事だった。腰が淫らに揺れ、鼻にかかった息が漏れはじめた。試しにハリーが腰の動きを止めると、どろりとした熱に浮かされた声でどうしてと詰られる。 「っ、あ、……ハニー、なか……擦るの、それ、やめたら、やだ、ね、もっと、擦って、ぁ……ちょっと、これ……きもち、いいのかも、」 「……奥? それとも、この……」 「あ、や、ソコ……っ、ソコ、すき……っ、ハニー、それ、僕、すごい、気持ち良い、どうし、ん、ふぁ……っ!?」 「キミの顔を、ちゃんと、見たい。……ほら、見せて。腰を上げるぞ、クッションを入れるから……よし、ほら、どうだ。……きもちいいとろこに当たる?」  中に挿入したまま急に身体を裏返されたSJは、大きく開いた足を閉じる余裕もない様子で、なすがままとろりとした顔で頷く。  汗で張り付いた柔らかな髪の毛を払いのけてやり、ハリーは細い腰をしっかりと抱えて腰を埋めた。根元までしっかり埋めると、SJの喉が反り返り鎖骨の骨が浮く。先ほどよりも速く、擦るように突き上げる。  右手でシーツをつかみ、左手を噛んだSJの声はすっかり快楽に溺れ、部屋の中でハリーを求める声以外は聞こえなかった。  甘い呻き声の狭間に、愛してると呟く。そのうちにSJは内股を引きつらせて達したようだった。ハリーはゆっくりと腰の動きを緩やかにして、SJが落ち着くまで見守る。  SJの萎えたままに見えた性器から、とろとろと白濁した液体が零れだす。自分がどんな状態になっているのかわからないらしく、しばらくは茫然としていたが、自我を取り戻すとこれでもかというほど赤くなり、のろのろした動作で顔を覆った。 「…………なにいまのー……すっごい、やばい、なに、ほんと今の、やだ、おかしい、だって僕まだすごい、なんかぼやっとしてて気持ちいいし、おかしい変何これ、あ、ちょ、ハニー、動かしちゃ、ぁ、や、ダメ、ふぁ……あ……ん、ぁ…………だめ……あ、やだ、も……っ、だめなの、に……ぁ」 「気持ちいいイキ方をしただろう? ……もうちょっと付き合ってくれ、俺もキミの中で気持ちよくなりたい。ついでにスタンもそのまま、どんどん気持ちよくなったらいい。中がびくびくしているな……さっきよりも、気持ちいい?」 「ん、ふぁ……あ、きもち、いい、けど、なに、やだ、ほんと訳わかんな……やだ、ハニー……っ、あ、ソコばっかり、しないで、僕また、おかしくなっちゃ……」 「なって、スタン。俺のせいでおかしくなって。俺も気持ちよくておかしくなりそうだ。……キミとセックスできる幸福で、頭がいかれてる。妄想よりもキミは可愛すぎて困る」  好きだと囁く。愛してるよと繰り返す。喘ぐ合間に、SJはハリーの手に自分の手を絡め、僕も愛してると言葉を返した。  結局二人が精根尽き果ててベッドに倒れるように沈んだのは、外が明るくなってからだった。SJは何度射精したのか、それを促したハリーですら覚えていない。二度目の挿入までは意識がはっきりしていた二人だが、SJはその途中から快楽に完全に流され、本能のまま懇願を繰り返し、そのあまりの破壊力に理性を全て溶かされたハリーは持てる体力すべてを費やし彼を愛した。  結果、少々不快感の残るシーツで目が覚めた時、二人の身体はひどい運動の後の疲労感が全身にのしかかった状態だった。 「…………セックスってすごい体力使うんだね知らなかったよ僕は今日一歩も歩きたくないし歩ける気がしないよなんだかまだ尻の間にキミのミスター・ジョンソンが潜んでいそうな感覚……」  横になったままダルそうな声を出す恋人に、何とかシーツだけでも変えようと一度身体を起こし、あまりのだるさに動けなくなったハリーが笑う。 「悪かったよ……自分でも驚くほど野生的だった、と思う。次からはせめて翌日の体力の事を考えて欲望を抑え込もうと心に決めた。キミが、もう俺とはしたくない、と言わないでいてくれたら、だけれど」 「もーなんでハニーってちょっと後ろ向きなのさ愛してるって何度も言ったでしょ馬鹿、僕は好きでもない男のジョンソンやらピーターやらディックを大変な思いをして尻の間に招き入れたりしないってば! 痛くなかったし正直びっくりするくらい気持ちよくて性交渉ってホント馬鹿になっちゃうから勤勉の敵だなって実感したよ。でもたまには勉強も仕事もさぼって休めってみんなうるさいし、人生には馬鹿になれるくらい気持ちいいことも必要だって最近僕は考えなおしたの」  またしようね今日はちょっと無理だけど、と笑うSJが愛おしすぎて、ハリーはキスをしようと屈んだがうまく体が支えられず結局ベッドに崩れ落ちてしまった。 「……鍛えなおさないとこれからの俳優生活にも影響が出そうだ」 「ワオ。ハニーがこれ以上マッスルになったら僕のお尻裂けちゃわない? ていうか僕も一緒に体力つけないと、そのうち気絶しちゃうかもしれないなって思った。あー……ジムって苦手なんだよねぇ。走るのも好きじゃないし、自転車も苦手。泳げないし球技も下手だし、あれ、僕ってもしかして運動音痴……?」 「セックスすると相当な体力を使うらしい、というのは都市伝説だったかな。毎日してれば体力もつくんじゃないか?」 「ねえそういうの、本末転倒って言うんだよ!」  うはは、と笑うSJの声は軽い。ほんの少し枯れているのはハリーが散々声を上げさせたからで、買い出しのついでにはちみつと紅茶を買って来ようと心に決めた。  休暇はまだたっぷりある。農場のゲストハウスには恋人しかいない。毎日だらだらと過ごすのは気が引けるが、短めのバカンスだと思えば、多少の娯楽は大目に見てもいいような気がした。  飽きることなどなく、ハリーは愛してるよと呟く。きみってほんとに僕の事好きだよねぇと呆れたふりをしてから、SJも愛してるって信じてよと笑った。 終

ともだちにシェアしよう!