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8話

 お互いの想いが通じ合った夜。セイトとヨシキは、正式に恋人としてお付き合いをする事になった。それと同時に、セイトの住んでいるマンションで同棲を始めたのだった。ヨシキを監禁して、繋ぎとめる為の足枷は、もう必要無いものになった。足枷で繋ぎとめなくても、お互いに想いは繋がっているのだから。セイトとヨシキが一緒に過ごす日々は、とても穏やかな時間で、かけがえのないものになっていった。  今日は、久しぶりにセイトと一緒に出掛ける日だ。ヨシキは、セイトの飼い猫であるミケと戯れながらも、いろいろと身支度を整えていた。しばらくしてから、セイトから声が掛かった。 「準備出来たか」 「はい、セイトさん」  セイトの言葉に、ヨシキは嬉しそうに笑みを浮かべながら頷いた。そんなヨシキの笑顔につられるようにして、セイトも穏やかな笑みを浮かべると、ヨシキに対して、そっと手を差し出した。ヨシキは照れくさそうにしながら、差し出されたセイトの手をぎゅっと握り締める。愛おしそうに指を絡めて、お互いに手を繋いでドアを開けるのだった。 「行って来ます」 「留守番を頼む、ミケ」  仲睦まじい様子のセイトとヨシキの声を聞いた飼い猫のミケは、「にゃあ」と可愛らしい声で鳴くと尻尾をぴんと立てると、セイトとヨシキの事を見送ったのだった。  柔らかい太陽の日差しが降り注ぎ、雲一つ無い青空の下で、セイトとヨシキはゆっくりと歩いていた。監禁されていたとは言え、比較的に自由に過ごしていたヨシキは、たまに外へ連れ出してもらっていたおかげで、歩く事に支障は無かった。それでも、セイトはヨシキの歩調に合わせて歩いてくれるので、そんな気遣いにヨシキは嬉しくなり、ますます惚れてしまうと一人心の中で呟いたのだった。  目的地であるデパートに辿り着くと、セイトはヨシキを連れて、アクセサリーショップへと入っていった。きらきらと煌めき輝く色とりどりの宝石の数々に、ヨシキは目を瞬かせる。宝石をあしらったアクセサリーは、男性でも身につけられるデザインになっていて、洗練されていて格好良いと思った。見た事も聞いた事もない宝石も置いてあって、綺麗と感心している間に、セイトは目的のものを購入して、会計を済ませていたのだった。 「何を購入したんですか?」 「内緒だ。家に帰ったら教えてやる」  ヨシキが不思議そうに首を傾げて訊ねると、セイトは悪い笑みを浮かべて笑った。悪い笑みを浮かべている時のセイトは、どんなに訊ねてもその時がくるまで教えてくれないと、一緒に過ごしている内に分かったヨシキは「楽しみにしていますね」と、笑って告げるのだった。  デパートの中を散策していると、ふと、ヨシキは疑問に思っていることを、ぽつりと口に出した。 「ねぇ、セイトさん」 「何だ、ヨシキ?」 「その……俺はケーキの人間だけど、セイトさんにとって、一体どんな味がしたのかなって、気になって…」  口に出してみた言葉が、あまりにも気恥ずかしくなってきて、段々とヨシキの声は小さくなる。セイトはヨシキの言葉に目を瞬かせると、ふっと、柔らかい笑みを浮かべる。 「知りたいか?」  ヨシキは、セイトの青色の瞳を見つめながら、こくりと頷いたのだった。セイトはヨシキを連れて、彩り鮮やかなたくさんのケーキが並んでいるお店へと向かった。ショーケースの中には、お菓子特有の甘い匂いを漂わせるケーキが綺麗に並べられていて、ヨシキの目には、どれも美味しそうに見えた。 「これを一つください」 「かしこまりました」  セイトは迷うことなく一個のケーキを選ぶと、店員に告げていた。甘酸っぱい苺と紅い苺のムースが特徴的なケーキで、名前を見ると「フレジェ」と書かれていた。ヨシキは初めて聞いたケーキの名前に、不思議そうに見つめながら首を傾げていた。そんな様子を見たセイトは、ふっと笑いながらヨシキに対して、そっと教えるのだった。 「フレジェと言うのは、フランスの苺のケーキだ。カスタードクリームやバタークリーム等が使用されている」 「初めて知りました」  苺のケーキにもいろいろと種類があるのだと考えていると、ヨシキの耳元に囁くようにセイトは告げるのだった。 「お前は、可愛らしく濃厚で甘い俺好みの味だ」  悪い笑みを浮かべて告げるセイトの言葉に、ヨシキの頬は熱が帯びて紅潮してしまうのだった。 *****  デパートで一通り見て回り、買い物を終えたセイトとヨシキは、帰路についていた。時計の針は、午後の三時を指していてヨシキは小腹が空いていた事に気付く。 「買ってきたケーキでも食べるか」 「いいですね、食べましょう」  そんなヨシキの様子を悟ったセイトが笑いながら告げてくるので、ヨシキは嬉しそうに頷いた。セイトがキッチンから白色の小皿と銀色のフォークを持って来ると、テーブルの上に丁寧に置く。セイトは箱からケーキを取り出すと、小皿の上に乗っけていく。白色の小皿の上に、甘く熟した紅色の苺のケーキが、美しい色合いで映えるのでヨシキは目を輝かせた。部屋中には、甘酸っぱい香りが広がってくる。丁寧に手を合わせてから、ヨシキは言葉を告げた。 「いただきます」  銀色のフォークを手に取ると、柔らかいケーキの生地を一口分のサイズに切り取った。苺のムースと生地をからめながら取ると、口の中に運んでいく。ヨシキはもぐもぐと咀嚼すると、甘酸っぱい苺の味と、濃厚で甘いカスタードクリームとバタークリームの味が口の中に広がっていく。今まで味わった事のない甘酸っぱくて美味しいケーキを口にしたヨシキは、嬉しそうに顔を綻ばせた。 「美味しいです、とっても」 「お前の口にあってよかった」  素直に感想を告げると、セイトはヨシキの事を愛おしそうに柔らかい笑みで見つめていた。しばらく舌鼓を打っていると、ヨシキは申し訳なさそうな表情をして、セイトに対して見つめ返すのだった。 「あっ、でも……俺だけ一人で食べていいんでしょうか……?」  フォークの人間であるセイトは味覚が無い。一人だけで食べている事に、少しだけしょんぼりとした気持ちになったヨシキに対して、セイトは笑いながら告げる。 「問題無い」  セイトがゆっくりと椅子から立ち上がると、ヨシキに近付いた。そっと、ヨシキの顔に近付けさせると、深く口付けをする。ヨシキが目を瞬かせていると、セイトの分厚い舌がヨシキの咥内に入っていき、じっくり、たっぷりと味わう様にして動き回る。セイトから与えられる甘い口付けに、ヨシキの頭がくらくらとして酔いしれそうになりながら、目を瞑って享受した。ようやく満足したのか、セイトがヨシキの唇から離れた。そうして、セイトはいつもの悪い笑みを浮かべて告げるのだった。 「俺はこうやって味わって楽しむ」 「もう、セイトさん……」  顔を真っ赤にさせながらも、文句を告げる様に言いながらも、でも、どこか照れくさそうにヨシキは笑うのだった。 「ヨシキ」  ふと、真剣な眼差しで、真面目な表情でヨシキの名前を呼ぶセイトに対して、ヨシキは不思議そうに首を傾げて見つめた。 「お前にプレゼントがある」 「プレゼントですか?」  ヨシキの問いかけにセイトが頷くと、綺麗な小箱を取り出した。小箱の蓋を開けると、中からは、シンプルなデザインだが洗練され、宝石が綺麗に煌めいたピアスが出てきたのだった。その宝石の色をよく見てみると、セイトの瞳と同じ青色をしていたので、ヨシキは目を瞬かせた。 「本当なら指輪が良かったんだが…。俺とお揃いのマグネットピアスだ」  そっと手を伸ばして受け取ると、ヨシキは青色の宝石がついたマグネットピアスをじっくりと見つめた。そうして、照れくさそうに笑うとお礼を告げるのだった。 「ありがとうございます、セイトさん。これなら、俺でもつけられそうです」  ピアスだと、耳に穴をあけないとつけられないが、マグネットピアスは穴をあける必要が無い。身体を傷付けずに、お互いにお揃いのアクセサリーを身に着けられる事に、その優しい気遣いにヨシキは感謝した。ヨシキの笑顔を見たセイトは、何処か一安心したのか柔らかい笑みを浮かべる。 「これ、何て言う宝石なんですか?」 「ラピスラズリという宝石だ」 「あなたの瞳の色と同じで綺麗ですね」  そうヨシキが告げると、セイトは照れくさそうに頬をかいた。そうして、もう一つの小箱から、シンプルなデザインだが、洗練されたマグネットピアスを取り出したのだった。そのマグネットピアスは、ヨシキと同じ黄緑色の宝石がついていた。 「俺は、ペリドットの宝石がついたマグネットピアスを身に着ける。…お前の瞳の色と同じ色の宝石だ」  お互いの瞳の色と同じ色の宝石のピアスを身に着けるという事に、ヨシキは照れくさく感じながら、とても大事にされているのだと嬉しく感じた。 「ありがとうございます、セイトさん。俺、大事にします」  ヨシキはプレゼントされたマグネットピアスを、大事そうに、愛おしく触れる。 「ヨシキ」  名前を呼ばれたヨシキは、黄緑色の瞳で最愛の人を見つめる。セイトは、青色の瞳で最愛の人を見つめ返すと、触れるだけの口付けを落とす。苺のケーキの様に甘酸っぱい味がして、与えられる口付けに酔いしれそうになり、幸せな気持ちで満たされる。  愛しい人に、愛しい口付けを、愛しく捧ぐ。 終わり

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