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呼ぶ声 ―1―

『貴方の願いをお受け致しましょう』  『よろしいのですか?お願いしておいてなんですが、貴方の命を削る事となりますが…』 『貴方は私の小さな友人を救ってくれました。礼には礼で尽くしましょう』 『ありがとうございます!!これであの方も救われる!!心より感謝致します!』 『…ですが、すぐにという訳にはまいりません。私一人の力では不十分でしょう。兄弟達の力を借りて種が芽を出した時、貴方の主の元へ届けます。それまでお待ちください』 +++++++++++++++++++ 「あ~今すぐ隕石とか落ちてこねぇかな~」 春の暖かな日だまりの中、ひとけの無い公園のベンチで一人、菓子パンをかじりながらつぶやいてみた。 空を見上げると抜けるような青空が続いているだけで隕石など不穏な影は、当たり前だがどこにもない。 ただ平和そのものの空は徹夜続きの目には優しくなくて心の中で舌打ちをして目を背けた。 「……今すぐ人類滅亡しねぇかなぁ……」 物騒な事ばかりつぶやいているが、別に人を憎んでいる訳でも社会に不満を持っている訳でもない。 別に自殺願望がある訳でもなく、だからといって必死に生きていこうと思えないだけだ。 佐倉(さくら) 悠壱(ゆういち)、30才。 薄利多売を売りにする広告代理店のデザイナーもどきをやっている。 今の会社に勤めて6年がたつが、これがいわゆるブラック企業と言うやつで……安月給で残業手当、休日出勤等の手当はない。 なのになんで本当なら休みのはずの今日、徹夜明けで出勤しているのだろうか? 疲弊した体と精神は常識やら正常な判断力を麻痺させるようだ。 生きていくのも面倒だが、死ぬ事はもっと面倒だ。 死ぬのはやっぱ怖いし、痛いの嫌いだし、死んだ後に残る自分の物の事を考えると非常にめんどくさい……。 これはやっぱり地球に無くなってもらうしか無いなと思う。 地球が無くなればあとには何も残らないもんな……。 はぁ……こんな事ばかり考えている自分が一番めんどくさい。 昼休みも残りわずかになり重い腰を上げた時、足元に一枚の花びらが落ちてきた。 公園の真ん中に鎮座する大きな桜の木を見上げると、葉桜の時期になり、まばらに残った花びらをひらひらと風に飛ばしている。 ほんの数日前までは満開の花を見に来た人を見かけていたが、今日は俺一人。 花が咲き誇るひと時はちやほやされていたが花の時期をすぎると、わざわざ見に来る人はいない……。 力強く葉を覆い茂らす、その姿になぜか涙が出そうになる。 どうやら俺はとてもお疲れのようだ…。 「…木になりたいなぁ…」 本日3度目のとりとめの無い独り言は風に流されていった。

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