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呼ぶ声 ―2―
その夜、珍しく夢を見た。
暗くもなく、明るくもない…見渡しても何も無いただの空間。
一人の少女と向かい合って立っていた。
腰まである青みがかった銀色の髪とアメジストのような輝きを持つ瞳に日本人ではないな、と思う。
地球の人でも無いかもしれない。
服装もゲームでよく賢者とか僧侶とかが着ていそうな白いヒラヒラとした格式高そうな格好をしている。
ゲームの世界に入り込んだ設定か?
目が覚めた時、少女の顔は笑っていたのか、泣いていたのか、怒っていたのか。
話をしたのかどうか、少女がいたという以外は何も覚えていなかった。
ただ目を覚ます瞬間にどこかから響いた
『あの子を助けてあげて…』
という声がいつまでも頭に張り付いていた。
――――――あの子って誰だ…?
寝てもとれない慢性化した倦怠感を振り切るように、のそりと布団から起き上がる。
ぼんやりした頭をかいた時、ひらりと何かが舞い落ちた。
「葉っぱ…?」
拾い上げたそれは、光に空かすと虹色にも見えるキラキラとした一枚の木の葉だった。
「へぇ~きれいな葉っぱだなぁ~……でもどこから?」
部屋を見渡しても観葉植物などと言うしゃれた物は無いし窓も閉まっている。
昨日はちゃんとお風呂に入ったと記憶している。……はて?
「まぁ…いいか…」
そんな事より早く身支度を整えて職場へ向かわねば……毎日、日付が変わるまでこき使われているというのに『朝の遅刻は一切許さない』という鬼の様な上司の嫌味を、チクチク聞かされる事になってしまう。
上司の顔を思いだし胃が重くなる気がしたので考える事をやめ、顔を洗いに洗面所へ向かう。
「な…なんだこれ…???」
大抵の事は培ったスルー能力で受け流す事のできる俺だが、流石に気にしないとか、どうでも良いとか言っていられない。
何故だ……?
何故、俺の頭の上に……木が生えているんだ?
謎の木の葉は自分の頭から落ちてきたのか……。
鏡の中、自分の頭の上に生えた木を見ながらじっくり1分は固まったが、部屋から聞こえたスマホのアラーム音で我にかえった。
「はっ!時間!?仕事行かなきゃ!!」
もう頭の中は鬼上司の嫌みったらしい顔でいっぱいになり、どうにでもなれとなげやりに着替えをすませ外に飛び出した。
おかしい……誰も俺を見ない……何だか自意識過剰な台詞だが。
頭に木をはやした男が歩いているんだぞ!?普通見るだろ!?
警察に職務質問された時のシミュレーションまでしていたのに大人はおろか、好奇心の塊であろう子供すら俺を見て指を指したりしない。
寝惚けてて、見間違えたのか?
カーブミラーに映る自分を見る。
うん、立派な木がはえている。
……おかしいのは俺の目か。
俺にだけ見えてるのか。
なら周りのこの反応も納得だ。
じゃあ普通に仕事も出来るし、日常生活に支障は無さそうだ。
支障が無いなら問題ないな、そう思うと足取りも軽くなった。
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