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呼ぶ声 ―3―
「なぁ山下。俺、今日どっかおかしいとこないか?」
職場の自分の席に着くなり、一応隣の同僚に声をかけた。
「えぇ〜?う〜ん…目の下の隈が無くなって、顔色も良くて調子良さそう?」
顔色が良いのがおかしいってどんなだとツッコミをいれたいが、やっぱり他の人には頭の木は見えていないようで、誰にも触れられなかった。
朝礼が終わり始業時間になると木の事は頭の片隅に追いやられ、悩む暇もなく与えられる仕事をただ淡々とこなす。
そうこうして朝刊を配るバイクの音が聞こえ始めた頃、ヘロヘロになりながら帰路へつく。
会社から徒歩15分の場所にアパートを借りて住んでいるのだが、実はこの15分は俺がゆっくり物思いにふけれる事のできる貴重な時間だ。
白みがかった東の空を眺めながら頭の上の悩みの種に思いを寄せる。
昼前にトイレに行った時、鏡を見て気づいた事だが。
この木、朝見たときよりも大きくなっている。
そして同僚が『調子が良さそう』と言っていたが、確かに目の下の隈は無くなっており、顔も血色がよく、一番わかりやすい変化が白髪が無くなっていた事だ。
20代の頃のような見た目の自分が鏡に写っていた。
絶対この木の影響だよなぁ……。
頭の木について今日一日でわかった事
①他の人には見えていない。
②触れたり、触れなかったり。
③何か成長している。
①については日中の周りの態度から間違いないだろう。
②はどういう仕組みかわからないが俺が手を伸ばすとしっかりとした感触を持って木に触れるのだ。
しかし天井や、服だったり他人の手だったり……俺以外は触れないようで、通り抜ける。
③重さは感じないのだが明らかに大きくなっている。
朝は手を伸ばせばてっぺんまで触れたのに、今は手が届かないくらいに成長している。
成長する為には養分が必要だろう……。
養分はなんだ?俺の生気とかか?
しかし、生気を吸われたにしては身体の調子は逆に良い。
いや、生気を吸われた事なんてないからわからんが……。
このまま行くとシワシワになってカラカラになって最後はミイラか?
もしくは、このまま身体を乗っ取られてトレントだっけ?木のおばけになってしまうのか?
もしかしたら、落語の『頭山』だったか?頭に木が生えた男の話。
なんだかんだあって自分で木を抜いて穴があいて、穴が池になって、最後は自分の頭の上の池に飛び込んで死ぬんだっけ?
どちらにしろ明るい未来はなさそうだな…。
そこまで考えて、ちょうど玄関の前にたどり着いた。
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