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呼ぶ声 ―4―
『あの子を助けてあげて…』
暗くもなく、明るくもない…見渡しても何も無いただの空間。
見覚えのある景色に、昨日の夢の続きだと気づく。
違うのはあの少女がいない事…。
声の主は誰だ?俺に誰を助けろと言っているのか?
そもそも俺に誰かを救うなんて大それた事ができるのか?
「俺に何をしろって言うんだ?」
問いかける相手も見えない質問に対する返答は、期待してもないが返ってこないし、ここにこうしていても夢から覚める気配も何かが動き出す気もしなかったので、とりあえず歩き出す事にした。
……五里霧中……暗中模索。
行けども行けども変わらない。
道もない。
出口があるかもわからない。
自分の人生みたいだな……と昔の思い出が甦ってきた。
小さい頃から俺は人付き合いが苦手だった。
そんな俺を腫れ物のように扱う家族が居心地悪く、友達のいなかった俺は、誰にも会わないよう少し離れた公園へ逃げていた。
遊具が無く遊ぶ子供の少ない公園で一人、大きな桜の木と遊ぶ。
学校であった事を話したり、ハマってる本を読み聞かせたり、枝を揺らす桜の木が会話をしてくれている気がしていた。
しかし、人気の無い公園で子供が一人でいる事の危険性が、当時の俺にはわかっていなかった。
『騒いだら殺すよ』笑いながら男は言う。
手を引かれ公園のトイレに連れ込まれた。
意味はわからないながらに恐怖だけは感じて震える俺に男が手を伸ばそうとした時、
『がはっ!!』男が吹き飛んだ。
優しく手を差しのべてくれたのは、年齢も名前も知らなかったけれど、公園の片隅でいつも絵を描いていたおじさんだった。
おじさんと言っても、20~30才位だったのかもしれないが。
『危ないからもう一人で来てはいけないよ』
注意をされたが、次の日もその人に会いたくて公園へ行った。
渋い顔をしつつも彼は僕を追い払ったりせず。静かに絵を描き続ける。
上手いとか下手とかはわからなかったけど絵を描く彼の姿が好きでずっと見ていた。
そんな彼の影響で俺も絵を描いたりして、二人で評価し合ったり、相談したり、楽しい時間だった。
中学に進学してすぐ、両親が事故で死んだ。
親戚の家に引き取られた後、名前も連絡先も知らない彼とは会えなくなった。
彼はまだあの場所にいるのだろうか?
絵を描く仕事ならば、彼に繋がるかもしれないとわずかな希望で広告代理店のデザイナーになったが、彼と会う事は未だ叶わない。
仕事は辛かったが、それでも彼と出会った公園の近くにあるその会社から離れられずにいた。
違和感を感じて顔を上げて前を向くと、今まで何も無かった空間にぽっかりと穴があいていた。
まるで丸窓のように光が漏れていて向こう側が見える。
やっとこの空間から状況が変わると喜んで光に近づいた。
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