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呼ぶ声 ―5―
「ここは神聖な祈りの間です!!オクスダート様といえど、立ち入りの許可はされていないはずです!お引き取りを…!!」
祈りの間と呼ばれた10帖程の床も壁も柱も真っ白な部屋は一面だけガラス張りになっており、正面にはとても大きな木が見える。
なんの調度品もなく床に小さなラグが置かれているだけだった。
祈りの間と呼ばれているのだから、祈りを捧げる為だけの部屋なのだろう。
部屋にいるのは男が二人と女が二人。
和やかな雰囲気では無い。
そんな部屋を天井付近の壁の穴から覗いている俺には誰も気づいていない。
「王族は世界樹様の加護を私腹を肥やす為だけに独占し、世界樹様と会話が出来ると世界を騙し続けた聖女には偽証罪で処刑が決定したのだ」
……何の事か良く分からないけれど、あの子は聖女?
「欲深き、王と王妃には神罰が下り。世間知らずな王子は谷底へと落とされた。残る王族は貴女、リナーシア様お一人……」
おそらくオクスダート様と呼ばれた偉そうな司祭のような服装の親父がニタリといやらしそうに口元をゆがめ、隣に立っていた騎士っぽい男に目配せした。
「きゃっ!?」
「なっ…何を!?リナーシア様!!」
指示を受けた騎士が、もう一人を庇うように立っていた黒いワンピースの女性を拘束し、オクスダートがリナーシア様と呼ばれた少女を床へ押し倒した。
昨日も夢で会ったあの少女だった。
オクスダートは少女に馬乗りになるとなり下卑た薄ら笑いを浮かべ少女の身体をまさぐり始めた。
少女は不快感と恐怖で声も出ないようで顔を背け、唇を噛んでいる。
「枢機卿ともあろう方が何を!!今すぐリナーシア様から離れなさい!!」
少女を助けようと拘束された女性がもがくが、屈強な騎士から脱け出せる訳がない。
「ああ…お可哀想なリナーシア様……生まれたときから聖女として育てられ、何も知らないまま罪人として処刑されてしまうとは……最後にせめて私が女の喜びをその身体に教えて差し上げま……ぐがっ!!」
堪えなくなりつい飛び出して、渾身の蹴りをオクスダート様とやらの顔面に浴びせてしまった……。
ノープランだ……これからどうしたらいい……?
突然現れた俺に理解が追い付かないでいる騎士が現状を把握するより早く、女性が緩んだ騎士の手を振りほどき少女の元へ駆け寄った。
慌てて追いかけようとする騎士の腹に俺の回し蹴りが気持ち良く決まり、ド派手な程ぶっ飛びながら壁にぶつかり動かなくなった。
護身の為と、空手部に入部はしていたが、現役の時以上の威力に自分で驚く。
やっぱり夢なんだと、納得した。
「ドルトフ様が一撃で…」
少女と女性は二人で目を丸くして固まっている。
ドルトフ様ってのはこの騎士のことだろうか?確かにいきなり現れた貧弱な男にこんなガタイの良い騎士が一撃で沈められたら、びっくりだよな。
俺が一番驚きだ。
まぁそこは夢だしなんでもありってことで。
しかしこの後、どうする?
いつ目を覚ますかわからないし、早くこの場を離れたいけど、何処に向かえば良いのやら……俺が出て来た穴は閉じてしまったのか、見当たらないし……。
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