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満✕航

「せんせ、こわい……」 「怖くないですよ。大丈夫、大丈夫」 湊は泣きべそをかきながら満にぎゅうっとしがみつく。満はそれを優しく受け入れ、その背中をトントンしてやりながら湊を絶頂へと導いた。 快楽に震える湊の体を満は愛しそうに抱きしめ、落ち着くまで待つ。 そしてようやく湊が顔を上げると、満は愛おしそうに目を細めてその額に甘いキスを落とした。 ……のを、ふくれっ面で眺めているのが航である。 航は湊について、自身が事故で意識不明だった数年の間に、訳あって引き取った子なのだと満から聞いている。 勿論、そのこと自体については、航は別に異論はない。異議を申し立てしたいのはその扱いの差である。 湊は安心したのか、ふにゃりと笑うとそのままスヤスヤと眠り始めた。 満はそれを大切そうにベッドに横たえた後、 「何かご用ですか」 と、ようやくため息混じりに航へと声を掛けた。 航は満と湊の行為の真っ最中に普通に部屋に入ってきて、ベッド真横の床に座り込む配慮のなさである。そんな無神経且つ配慮ゼロ男は、マットレスに顎を置きながら恨めしそうに満を見上げ、こう言った。 「最近湊とばっか、ずるい」 満は眉を細めて再びため息をついて返す。 「一回り以上年下の子に嫉妬とかみっともないですよ」 「しかも湊とする時はすっげー優しい」 「まあ、湊は可愛らしいですからね」 「俺だって可愛いし」 「初老控えたオッサンが何言ってるんですか」 「今日も皆さんから可愛いって言ってもらったし」 「ハッテン場の相手の言う事なんて、本気にするもんじゃありませんよ」 「この前の親族の集まりでも沢山言われたし」 「皆さん孫感覚なんでしょ、論外ですね」 「つーか父さんよりテクも虐めがいもあるって褒められたし」 「どんな集まりだったかは敢えて聞かないでおきますが」 「つーかもう、そんなことよりさ!」 そして航はそう言うと、バンとマットレスを両手で打って立ち上がった。 それから満の首に甘えるように腕を絡める。 「湊、寝たんだろ。 そしたら、今度は俺の番?」 「ええー……。 今日は馴染みのハッテン場でもうプレイしてきたんだから、いいでしょ」 「したけど全然物足りなくてさ。仕方ないからテニスして、ジョギングがてらここまで走ってきた」 「化け物ですか。 絶対脳の一部がうまく機能してませんよ。 ちゃんと病院で見てもらいなさい」 「昨日定期検診したけど全く問題なかった」 「ヤブなんじゃないですか」 「かの有名な卯月先進医療病院だぞ」 「ああ、間違いなくヤブですね」 一方で、完全にスイッチが入っている航は、最早そんなやり取りすらもどかしく待ち切れないと言った様子で、ぎゅうっと満を抱きしめた。 それから、顎を上げてキスを強請る。 それを見た満は、何だか思ったのと違う方向に仕上がってしまったなと独りごちた。 初体験の頃の初心さが今や懐かしいが……。 「ン……」 唇を押し当ててやると、慣れた様子で悩ましげに腰を揺らしながら航が舌を滑り込ませて来る。 続くねっとりとした大人のキス。 湊には無い、航のこの淫猥さ。 これはこれで悪くはない。 何よりも、これが自分が躾けた結果なのだ。 満は仕上がった航を満足気に見やりながら、ゆらゆらと悩ましげに揺れ始めたその腰を掴み引き寄せた。 満はベッドの縁に座り直してそのまま深く口付けながら、航の体をさわさわと弄ってやる。すっかり敏感になっている彼は、満の手が擦れる度にふるふると震えた。 よくよく見ると、航の髪の毛は濡れている。 洗髪後にうまく"乾かせない"ところは、昔とちっとも変わらない。 航は勝手に着たであろう満のTシャツをすっと引き上げた。下は何もつけていない。 膝立ちの太ももに、ローションが伝っていた。 「って、何で!床!」 「湊が起きるでしょう、貴方暴れるから。 お口もふさいでおきましょうね。 声が無駄に大きいので」 「湊ファーストすぎるっ」 「よく言う、貴方こういう方が好きでしょ?」 「………っ」 「お父さまに似てドMですものね」 「か、仮にそうだとしてもさ。 久しぶりなんだから、ちょっとくらい優しくしてくれたって」 「ほら、お口を開けて」 「!、新しいやつだ」 「ええ、貴方用に特別に誂えました」 満がそう言って目を細めると、航はパッと嬉しそうに表情を明るくする。 懐いた猫ちゃん宜しく、満の手の甲に頬を擦り付けると、大喜びで素直に口を開けた。 シリコン製のボールギャグを噛み、締められていく金具の音だけなのに興奮したのか、そのペニス先走りが溢れ出す。 満が後頭部を撫でる、それが合図だった。 航は躊躇することなく床に上半身を擦り付けながら、満に向かい尻を高くあげる。 そして自ら後孔を開いてみせた。 赤い内壁が蠢いている。当然のように準備万端なそこは、満の指を2本すんなりと飲み込んだ。 浅いところでくちゅくちゅと刺激をすると、仕込まれたローションが愛液のようにとろりとこぼれた。 「ん、ふう」 もどかしい満の刺激に耐えきれず、尻を揺らして指を奥へとそれを導こうとする。 満は航の尻を押して、それを軽くいなすとその体に覆いかぶさって乳首をグッと抓った。 途端、航は顎をのけぞらせながら射精をする。 ボールギャグのせいで満足に声も出せぬまま、彼は乳首で3度イッた。 よく"皆さん"に遊んで頂いたのか、航の身体はいつもに増して敏感だ。 これなら前戯は不要だろう。 満は航の孔に自身の先端を押し付けると、そのまま捩じ込む。全く抵抗なく、それはズンと航の最奥まで一気に穿った。 航は矯声の代わりに顎をのけぞらして、ブルブルと体を震わせる。 最初の頃より躾け続けた下腹を擦ると、強く痙攣していた。 「ふ、あっ」 そのまま満が、強めに腰を動かすと、航はだらしなく唾液を垂らしながら悦ぶ。 が、一気に性感を高めていく航の一方で、満は冷ややかだ。 「はあ、ユルユル。最悪」 その冷たい声に、航はふるりと背中を震わせる。 「こんなビッ◯な孔に育てた覚えないんですけど。萎えるなあ……」 「んん、あ、ぁ」 「何?言い訳する暇があったら締めてくれます? 私、全然気持ちよくないんですけど」 満は冷たくそう罵ると、航の尻を叩く。 するとその瞬間、航は体を震わせてまた達した。 射精はない。その結腸口がぎゅうっと締まって満を締め上げる。 「先っぽだけじゃなあ……」 満はそうつまらなそうに言って、徐ろに航の首元へと両手を伸ばした。 そして次の瞬間、喉仏の下をグッと押す。 「……っ」 航は目をカッと開いた。 反射的に満の手首を掴みそれを阻止しようとしたが、ビクリともしない。 満はぎゅ、ぎゅ、と一定のテンポで首を絞め 始めた。 「か、かは」 視界の端っこがチカチカするのを感じながら、航は喘ぐ。満の手首を掴んでいた手からは力が抜け、ただ添えられているだけになった。 「首を締めると、ね」 一方満は楽しげに目を細めながら航に言い聞かせるように言う。 「それに合わせて全体的に中が締まるんです。 そう、ほら、すごくいいですよ」 「……っ」 首をギチギチと締められた瞬間、満のペニスが結腸を越えてくる。 その形にボコボコと腹が浮くのではないかと思うほど強く穿たれた。 少し前なら痛みに咽び泣いていただろうその乱暴な行為も、今やこうにとっては快感でしかない。 「う、ふうーっ」 上の口からダラダラと唾液を、下からは精液を垂れ流しながら航が感じている。 とろりとした瞳がぐるんと上を向いた。 「すごくイイんだけど……」 「……っ」 満は上ずった声でそう言うと、気をやりそうな航の頬を叩いた。 そしてその瞳がもう一度自分を映したことを確認し、 「こんなこと、湊には出来ないですから」 と、今度はその耳元で囁く。 そのままキスの代わりに耳を食んで、満が続ける。 「このプレイは航、あなただけ、ね」 航は目を大きく開く。 その瞬間、息が詰まるほど強く首が圧迫された。 同時に腹の最奥に放たれた熱。 一度ビクンと跳ねた後、航は動かなくなった。 満はペニスを引き抜いた後、ゆっくり首の圧迫を緩めていく。 「おや。お漏らしするほど良かった?」 「………」 航は半ば白目を剥きながら、何とか頷いて返した。 そして満がボールギャグを外してやると、航は大きく胸を動かして呼吸をした。 その首を見やれば、絞め跡が痣になっている。 湊との甘いセックスが最近続いていたのもあり、嗜虐心に火がついて調子に乗ってしまった。 流石にこれは怒り出すかと満は構えたが、航の反応は正反対だった。 「気持ちよかったな〜!」 彼はそう元気に言って、勢いよく起き上がった。 そして、 「俺だけ」 と続け、満がつけた痣をそっとなぞってフフと笑む。 想像以上にドMなんだな……。 満はそう半ば呆れながらも、口だけは調子よく 「ええ、貴方だけです」 と返して、その頭を撫でてやる。 余計なことでまたへそを曲げられては面倒だ。 これでいて、航はカイに勝るとも劣らぬくらいワガママなのだと満は既に気がついている。 するとその時、テーブルの上のスマートフォンがやかましい音を立てて鳴った。 航が慌ててそれを取る。 自分が漏らした水たまりの上なのに、社長モードであれこれと流暢な英語で話をしているのが可笑しくてたまらない。 切り替えの速さが素晴らしすぎるなと満が思った所で航は電話を切り、 「ちょっと向こう借りる、会議があるんだ」 と、続けた。 「え?ウチで?これから?」 「今からじゃ走っても間に合わない」 「いや車で行きなさいよ……」 航は話しながらスマホをいじっていたが、またそれを閉じると立ち上がった。 「掃除の者を手配した、あと5分でくる」 「湊が寝てるんですけど」 「静かにやるよう言っとくよ」 「……こんな惨状の掃除をよく人に頼めますね」 「大丈夫、この前引き抜いた若いのだから。 仕事はイマイチだが、セックスが上手いんだ。まぁお前ほどじゃないけど」 「セフレを人の家に呼ぶのやめてもらえすか」 「セフレじゃない、秘書だ」 「貴方、コンプライアンスを学びなおしたほうが良さそうですね」 「た、やべ。あと十分しかない、シャワー借りるな」 「………」 人の話を聞かぬ御曹司はそのまま慌ただしく部屋から出て行って……またすぐに戻ってきた。 そして、 「俺も、主人はお前だけだからな!」 それは特別な存在であるという告白に間違いなく。 満は人知れず口元を緩ませながら、閉じたドアの方を見やっていた。

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