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美術室の先輩(秀)

 神野(こうの)と心から仲良くなりたいと思っていた訳じゃない。  女子に人気があるから、仲良くしていれば自分も良い思いができるだろうと、それだけだった。  いい恰好を見せようと、女子の前で強がって見せたのもそうだ。  だが、上辺だけの付き合いなどすぐに壊れるものだ。  俺達から離れて葉月の元へ行ってしまった神野に対し、女子達の恨みは本人ではなく別の相手へと向かった。  今思えばそう言う時だけ甘えてきたな。  それを自分に向けられた好意と勘違いして、彼女たちの憎しみを俺が葉月悟郎(はずきごろう)にぶつけた。  あいつだけ停学を食らった時、いい気味だと思った。 「本当、格好悪いよね」  たまにしか学校に来ない御坂(みさか)に言われた。 「全てを吾朗のせいにしたことは許さないから」  と、神野に冷たい目を向けられた。  完全に居場所をなくすと思っていたのに、そんな事をいうやつがいるのか。  しかも、 「私たちは関係ないからね」  彼女達はそういって俺らをシカトするようになり、クラスメイトはよそよそしくなった。  停学が明けて戻ってきた葉月は嫌われるところか受け入れられていく。  その頃には俺が全ての原因で、卑怯な手を使い葉月だけを停学にしたという事になっていた。  その通りなので反論もできず、いつの間にかつるんでいた二人も傍に居なくなっていた。  彼女らとあいつ等は俺を利用していた。  俺は頼られることにいい気分になっていたのだからお互い様だな。    俺と葉月の立場が逆転した。  つい最近までは屋上で一人きりで飯を食っていたのは葉月だったのに。  一人きりになるには丁度良い場所だった。  たまに昼寝をしには来ていたのだが、教室に居づらい今は俺にとって安らげる場所になっていた。  パンを取り出し食べ始めると、がさがさと草がなる音がして驚いてそちらへと顔を向けると、ひょっこりと猫が首を出した。 「なんだよ、猫かよ」 「ニャー」  今まで姿を見た事は無かったが、もしかして匂いにつられて出てきたのだろうか。  それにしても随分と縞模様の大きな猫だ。 「おいで」  手を伸ばすと猫は素直にこちらへと寄ってきた。  抱き上げるとずしりと重みを感じる。 「太り過ぎじゃねぇの」  腹の肉を摘まめば、尻尾をまるで鞭のように俺の腕に当ててくる。  つるんでいた奴等の一人がこの猫のように太っていて、腹の肉を摘まんでやったっけなと思いだし、首を振るう。  そう、あいつ等はもう俺とは関係ないのだから。 「食う物……、あ、カレーパンとか食うかな」  パンの部分だけなら平気だろうかとちぎって与えようとしていた所に、 「おい、そいつにやれ」  そう頭上から声を掛けた。 「あぁ?」  上を向いた瞬間、顔に何かが落ちた。 「ブフッ」  しかもなんか、臭い。 「おー、顔面キャッチ」 「なにしやがる」  ベランダから顔を覗かせる男は見た事のない顔だ。

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