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美術室の先輩_02

「ブニャのお昼。食わせてやって」  ブニャ? こいつの名前なのか。  足元に摺り寄って餌をねだるブニャに、俺はしゃがみ込んで袋の中身を取り出す。  中には煮干しが入っていて、あの匂いはこれかと、地面にそれを置くと勢いよく食べ始めた。 「すげぇ食いっぷり」  その姿に夢中になってみていたら、 「お水」  といつの間にかたっていた。 「アンタ……」 「アンタじゃない。俺は三年の橋沼総一(はしぬまそういち)だ。君は?」 「俺は二年の田中秀次(たなかしゅうじ)」  隣に並ぶと迫力のある、まるで熊のような男だ。  俺だって180センチはあるし体格も良い方だと思っていたけれど、橋沼さんはそれよりも10センチは大きいだろう。  上背だけでなく筋肉質で胸板も厚く腕や太腿も筋肉が盛り上がっている。  まるで格闘技でもしていそう、そんな見た目だった。  こんなに目立つ男、同級だったら気が付いてただろうし、三年なら解らなくて当然だ。  上級生の知り合いなど俺には居ない。部活動に入っている訳でもない。それに彼の噂も耳にした事は無かった。  まぁ、美人な姉さまならまだしも、野郎なんて興味ないしな。 「意外と良い身体つきをしているな」  顎に手をやり、全身を見られる。そりゃ、葉月にボコボコにされたのが悔しくて筋トレをしているしな。 「俺よりも橋沼さんの方がすげぇじゃん」 「まぁな」  厚い胸板を叩くと硬くて張りがある。  おもいきり体当たりを食らわせても、簡単には倒れなさそうだ。 「飯、ここで食べていたのか」  食べかけのパンの袋を指さす。 「あぁ。教室、ウルセェし」 「確かに。なぁ、一緒に食わないか?」  と上の階を指さす。 「あ?」  会ったばかりの相手をよく誘う気になるな。  断ろうと思ったが、 「行くぞ」  と腕を掴まれて引っ張られる。 「離せよっ」  払いのけようとするが、橋沼の力は強く離れない。  抵抗しても無駄。俺はあきらめて力を抜いた。 「行くから離せ」 「よし」  向かった先は美術室だった。 「え、入っていいのかよ」  部員でもなんでもないのに良いのかと橋沼を見る。 「いいよ」  とポケットから鍵を取り出す。ネームタグに美術室と書かれている。 「アンタ、そのガタイで美術部かよ」  てっきり運動部、しかも柔道や空手をしていると思っていた。 「それ、よく言われる。持ち腐れって」 「は、そりゃ言われるだろ。それだけ良いガタイをしてたら」  見た目だけで強そうだからな。 「格闘技は好きだぞ。でも見る専門」  と机の上に置かれているプロレス雑誌を指さす。 「利刀(としかた)」  レスラーとしては小柄な方で、空中に高く飛び華麗に技を決める、とてもカッコイイ選手だ。 「お、好きか?」 「あぁ。この前の試合、凄かったな」  スマートフォンの格闘チャンネルで見た試合の事を口にすると、橋沼はすぐに話に乗ってきた。  暫く、プロレスの話をした後、雑誌の下に置かれたスケッチブックに視線を向ける。

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