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美術室の先輩_03

 そういえば美術室に居るという事は絵を描いていたのだろうか。 「なぁ、どんな絵を描くんだ?」 「見るか」  それを手に取ると俺に渡した。  絵の事は詳しくはないが上手いということは解る。 「へー、すげぇ……、え、これって」  花瓶と花、林檎、彫像、空、鳥、猫、黒く塗りつぶされた何かが続き、描きかけの何か、そして後頭部が続く。 「あぁ、お前の後頭部」  何で俺の後頭部!? ていうか、何枚もある。これ、今日描いたって訳じゃないよな。 「俺の事、知ってたのかよ」 「あぁ。この頃きているよな」  もしかして友達がいないと思われたのか、俺は。  スケッチブックを机の上に叩きつける。 「ざけんなっ、ボッチだと思って同情したのかよ」  少しだけ、橋沼さんに興味をもちかけた。趣味も合うし話しやすい人だったから。  だけど寂しい奴だと思われるのは嫌だった。 「違う」 「じゃぁ、なんだって言うんだよ」 「見てみたいと思ったんだ」  それだけだと、勝手に描いてごめんなと手を合わせる。 「実は、スランプ中で、ずっと描けなくて。先生が昼休みにここを使っていいよって鍵をかしてくれて。描きたいって気持ちになるまでここでぼーっとしてた」  ブニャがきたら餌をやろうと外を覗いたら俺が居て、暫く、眺めていたらしい。 「それから何度か見かけるようになって。どんな子なんだろうって興味が出てきてさ、君を見ていたら描きたくなって、で、この絵の出来上がり」  と後頭部の絵が描かれた頁を開いて指さす。 「何か話す切っ掛けがないかと思っていた所に、ブニャが出てきて。あぁ、チャンスだなって」  それで煮干し入りの袋を顔面キャッチする羽目になった訳で、俺を見た感想は『意外と良い身体つきをしているな』だったのか。 「は、俺なんかと話したいなんて思うなんて、物好きだな」  そんな事を言ってくれる人がいるなんて。口元が緩みかけて、それを必死で耐える。  どれだけ人恋しくなってんだ。クラスの奴等に相手にされなくなったからって。  浮かれかけた気持ちは、すぐに冷静さを取り戻す。  そうだよ、あれを知ったら橋沼さんだって、俺を軽蔑するに決まっている。 「戻るわ」 「そうか」  今ならまだ平気だ。たまたま話をしただけ、それですむから。  それなのに、迷惑だったか、と、寂しげな顔をされた。  そんな顔をされたら困るだろうが。  何も返す事が出来ずに黙り込むと、 「昼は美術室にいるから」  待っていると言われているような気がして、俺は都合よく解釈する。  そうだ、学年が違えば互いを知らなかったように彼の耳に噂は届いていないのかもしれない。  俺は名前も告げた。だけど何も言ってこなかったのだから。  それなら、またここに来ても大丈夫かもな。  再び気持ちが上がってきて、浮かれながら教室へと戻った。

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