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美術室の先輩_04
昨日の今日で会いに来ました。そう思われるのが恥ずかしくて、素直に美術室へ行くことが出来ず、ブニャに餌をやりながら様子を窺う。
「おーい、美術室に来いよ」
頭上から声が掛かり、本当は待っていた癖に、気のない返事をする。
「ブニャに会いに来ただけだし」
「俺にも会いに来い」
寂しいだろうと、俺に手招きをする。人懐っこい人だな、橋沼さんって。
「しょうがないな」
なんていいながら、誘って貰えたことを内心喜んでいる。
美術室へと向かうと、丁度、お弁当を食べている所で、その大きさに目を奪われる。
俺も食う方だけど、橋沼さんはもっとだ。
「すげぇ量」
「あぁ、よくいわれる」
だろうな。しかも茶色系のオカズが多い。なんとも羨ましい。
しかも手作りの弁当だなんて、俺なんて面倒だからコンビニで買ってと母親から金を手渡されるだけなのに。
「いい母ちゃんだな」
「これを作ったのは祖母だ。親は海外にいるからお世話になっているんだ」
「へぇ……」
昔からじぃちゃんの家で暮らしているらしく、寂しく無かったのかと聞けば、その分、可愛がってくれるからという。
「畑があってな、一緒に土いじりとかしている」
なんか妙に似合っている。落ち着きのある人だから余計にそう思ってしまう。
「そんなイメージある」
「友達にも言われる」
友達という言葉にぎくりとする。そうだよな、橋沼さんが美術室にいるのはスランプだからであって、本当は教室で友達と一緒に飯を食ったりするんだろうな。
そうしたら俺はまた一人きりか……って、何を考えているんだ、俺。橋沼さんとは昨日会ったばかりだっていうのに。
話しやすい人だからかな、寂しいと思ってしまうのは。
「おい、田中?」
目の前にひらひらと手を振る。それにはっとなり、橋沼さんの方へとゆっくりと見つめる。つい、考え事をして黙り込んでしまっていた。
「え、あぁ、わるい」
「上の空だなぁ。もしかして、五時間目にテストでもあるのか?」
「あ……、テストはあきらめてるから問題ない」
「お前ねぇ、そりゃ問題ありの方だろ」
話しは学業の方へと向かい、俺が学年で下の方の成績だといい、橋沼さんはと聞き返す。
「言っておくが、俺は毎回トップテンに入るぞ」
流石に脳みそまでは筋肉でできていなかったか。
ちっと舌打ちをすると頭を乱暴に撫でられた。
「惜しかったな」
「ムカつく」
思っていたことばバレていたみたいだ。それにしても、良いのはガタイだけでなく頭もかよ。
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