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美術室の先輩_05

 はぁ、俺とはできが違うな。天は二物を与えずというけれど、本当かよ。 「何?」 「いや、橋沼さんってモテそうだなって」  橋沼さんって笑うと目元が優しくなるんだよな。女子がみたらキュンとするんじゃね? 「まぁ、否定はしない」 「うわっ、言うんじゃなかった」  羨ましすぎるだろうが。  身体を横に向けて弁当を食べ始めると、冗談だからと目の前にから揚げを差し出す。  それを遠慮なく口にすると、橋沼さんの方へと身体を向けた。 「お肉も頂戴」  口を開くと、橋沼さんは口元を綻ばせた。 「わかった」  再び箸が口元に伸びてきて、それを口に入れた。 「うまい……。こってり味の生姜焼き」 「男心をくすぐる弁当だからな」  と口角をあげる橋沼さん。ばぁちゃんが作った弁当が好きなんだろうな。 「優しいな、ばぁちゃん」 「あぁ。孫ラブだから」  なんか、心が和むな。  今までは神野が中心で、当たり障りのない話しかしてこなかった。  そこにいるだけでいい、俺はあいつ等の仲間なんだって、それが重要だった。 「田中って、チャラそうに見えるけど、笑うと可愛いのな」 「は、何言ってんの」  見た目のチャラさは自覚してる。だけど可愛いって、目がおかしいんじゃねぇの。  恥ずかしくて、眉間にしわを寄せて橋沼さんを睨めば、橋沼さんは笑っている。 「てめぇ、オカズ食ってやる」  照れを隠すように、手を伸ばして肉団子を掴んで食べる。ふわっと柔らかい団子と甘酢タレが絶妙だ。 「あ……、美味い」 「ばぁちゃんに伝えておくよ」  と嬉しそうに笑う。本当にばぁちゃんが好きなんだな。  隠さずに、しかも自慢できるってすごいことだ。俺はきっと恥ずかしくて素直になれないから。  楽しい時間はあっという間に終わってしまう。  美術室から教室へと戻る時の足取りは重く、このまま屋上でさぼってしまおうかと気持ちが誘惑される。  だが別れ際に橋沼さんから、勉強頑張れよと言われてしまったので教室へと素直に戻る。  後ろは背が高い男子が占めているので、窓際にある俺の席へ戻る時は葉月の後ろを通ることになる。  まだチャイムが鳴っていないので葉月の傍に神野が居て、嫌でも視界に入る。  つい意識してしまう俺に対し、向こうは気にするそぶりはない。  清々するだろう? と、そう自分に言い聞かせ、自分の席へと腰を下ろした。

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