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二人で過ごす昼休み_08
冬弥と話をしていたので、少し遅くなってしまった。
急いで美術室へ向かい、中へ入ると、スマホを眺めながら田中が俺を待っていた。
椅子に腰をおろし、弁当を机の上に広げて、田中に箸を渡す。頂きますと手を合わせて、美味しそうに食べる。
そこまではいつもの通りだったのだが、俺が絵を描きはじめて暫くすると、田中の表情が曇りだした。
「どうした?」
何か悩み事だろうか。
冬弥から田中の事を聞いた。今はクラスメイトと上手くいっていない事もだ。
辛いと素直に吐きだせるように、そんな相手になりたい。
せめて俺の前では強がる必要はないのだと、わかってもらえたらいいのに。
だが、気持ちを吐露する事は無く、
「いや、スランプから抜け出せそう?」
と聞かれた。
「そうだな、少しずつだけど、調子が戻って来たかな」
というと、スケッチブックを奪い取られそうになる。
咄嗟に、
「まだ見せるようなモノはないぞ」
そうスケッチブックを遠ざけたが、俺を見る田中の顔色が悪い。
「ごめん」
「田中、顔色が悪いな」
俺が怒ってそうしたと思って、落ち込んでいるのだろうか。スケッチブックだって、見たいと言ってくれたら渡したのに。
頬に触れ、そっとなでると、驚かせてしまったようで身をかたくさせる。
「別に、平気だ」
「そうか。なら良いけれど」
平気じゃないだろ。強がるな。
あぁ、放っておけないタイプだ。素直に甘えてくれればいいのに。
頬から手を離し、制服の上着に入っている巾着を取り出す。その中にばぁちゃんが飴をいれて持たせてくれる。
この歳でと思うのだが、ばぁちゃんの好意だしと素直に受け取っているわけだ。
そこからミルク味の飴をとりだして田中の目の前に置いた。
「飴ちゃんを食べて元気におなり」
「随分と可愛いの持ってんのな」
「ばぁちゃんが持たせてくれるんだよ。別のもあるぞ」
苺にレモンと飴を一種類ずつ袋から取り出して並べた。
「こんなにいらねぇよ」
俺みたいな大柄な男から可愛い飴がって、女子には受けがいいんだよな。
田中はどんな反応をするだろうと試してみたのだが、どうやらうまくいったようだ。飴玉を見て笑顔を見せた。
「飴、ありがとうな」
「授業中は食ったら駄目だぞ」
「解ってるよ」
よろしいと頭を撫でると、くすぐったそうな表情を浮かべた。
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