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謝罪と抱擁_02

 気がつけば美術室から出て、外に座り込んでいた。  知っていたのにどうして橋沼さんは何も言わなかったんだろう。  彼が言うとおり、どんな奴か気になって相手をしてくれていたのだろうか。 「ぶにゃぁ」  今じゃ食べ物の匂いがなくても顔を見せてくれるようになったブニャを抱き上げて顔を埋める。 「田中」  こんなに存在感がある人なのに、気配を消すの上手いよな。  いつの間にか傍に橋沼さんの姿がある。  知っている癖に。俺は卑怯でずるい奴だってことを。 「美術室で話しをしよう」  それなのに優しく声を掛けてくれる。  俺はいかないと首を横に振るうが、 「よし、選ばせてやる。美術室にいくか、恥ずかし固めをくらうか」 「なんだよ、それ……」  恥ずかし固めとは、股を開かせた体勢でホールドする関節技の事だ。 「股、開きたいのか?」 「嫌に決まってんだろ」 「それなら来い」  と腕を掴まれる。  抵抗しても力では敵わない。引っ張られるまま美術室へと向かう。  中に入るなり俺は橋沼さんの手を払った。 「なぁ、知っていたんだろ、俺がした事を。それなのに、どうして」  その答えを聞くのが怖い。だけど口にせずにはいられなかった。  総一さんの本当の気持ちを知りたかったからだ。 「俺は今の田中としか付き合いがないんだぞ? 誰かに酷い事をした話をされてもなぁ、嫌いになれない」  俺は深く息を吐き、しゃがみ込む。  橋沼さんが全てを知っていると聞かされた時、心臓が止まるかと思った。  プロレスの話で盛り上がったり、絵を描く時の真剣な目を見る事ができなるなると。  失う事が怖くて、辛くて、 「泣くなよ」  そう言われて、頬に触れると濡れていた。 「え? 泣いてねぇし」  どうやら、安心したら涙が出てしまったようで、それを掌で拭う。 「俺の前では強がらなくていい」  と、橋沼さんもしゃがみ込み、俺の背に腕を回した。  包容力がある人だ。 大きな手で背中を撫でられると安心してしまう。  このままこうしていたい。そんな想いがよぎり、驚いて肩がビクッと跳ね上がる。 「どうした?」  顔が近い。何故か心臓が落ち着かなくてドクドクと波打つ。 「暑苦しいんだよ」  手でガードするように橋沼さんの身体を押す。 「可愛くない」  と、そのままスリーパーホールドをかけられた。  後ろから相手の首に腕をまわして頸動脈を締め上げて気絶させる技なのだ。かるくかけられているので落ちることはないが苦しい。 「降参」  腕を叩いていうと、橋沼さんがガッツポーズをし、口角をあげた。

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