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謝罪と抱擁_03
「お前は抱擁よりもプロレス技の方が良いようだな」
「どっちも嫌だてぇの」
男なんかに抱擁されても嬉しくねぇ。同じ巨乳でも柔らかい方が良い。
こうしていたいと思ったのはひと肌が恋しかっただけだ。
そっと橋沼を見れば、優しい表情を浮かべていて、俺は目を見開いた。
なんか、やばい。
男にときめくって、ありえない。
「はは、真っ赤だな」
ぎゅっと鼻を摘ままれて、そのお蔭で気持ちが誤魔化せた。
よかった。
安心しつつ、橋沼さんの手を払いのけると、今度は乱暴に髪を撫でられた。
だがそれも次第に弱くなり手が止まった。
「俺な、お前に救われたんだ」
「俺に?」
「実はスランプになったのって、展示会に出す絵を切り裂かれたからなんだ」
「えっ」
それって相当ダメージをうけただろうに。俺は何も言う事ができず、橋沼さんを見る。
「すごく手ごたえがあったんだ。それだけにショックが大きくて筆を握ることができなかった」
すごくつらかったんだな。橋沼さん、すごく苦しそうな表情をしている。
俺はどうしたらいいのか解らなくて俯いてしまう。そうしたら手を握りしめられた。
思いだしたくない事だろう。だけど俺に話そうとしてくれている。それをきちんと聞かないでどうするんだ。
顔をあげ橋沼さんを真っ直ぐとみる。目が合うと苦しそうだった顔がすこしだけ和らいだ。
「先生が美術室のカギをかしてくれて、それでも描く気力がわかずに、毎日ぼっとしていたんだ」
そんなとき、ブニャに、そして俺に出会ったそうだ。
「はじめは見ているだけだったんだけど、スケッチブックと鉛筆を持って眺めていたら、自然と手が動いていた。久しぶりに描けたなって気持ちになって。他から見たらなんだこれって絵なのにな」
興味をもった。俺を見てみたいと思った。
そういうと指を絡ませる。
「ブニャが話すきっかけをくれた。初めて見る田中はまるで警戒している猫のようだったな」
「そりゃ、橋沼さんみたく馴れ馴れしくねぇもの」
「知りたいって思いで必死だったからな」
と笑い、
「でだ。こういう事があったから、アイツは俺の事を心配してくれるわけなんだ」
美術室で橋沼さんの友達とのやりとりをいっているのだろう。
事情を知っているからこそ、俺みたいのが傍にいる事が心配でならなかったのだろうな。
「でもアイツが勝手に俺らの事を決める権利はない。だから謝らせるから」
「え、謝罪なんていらねぇよ」
正直言って会いたくないんだよな。俺、嫌われているみたいだし。
それに彼のお蔭で橋沼さんとより仲良くなれた気がするから。
「これからも一緒に飯を食おうな」
「あぁ」
美術室での時間をまだ続けていていいんだな。よかったと俺は胸をなでおろした。
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