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謝罪と抱擁_04
謝らせると橋沼さんは言っていたが、俺は謝罪なんていらないと言った筈。それなのにの隣にあの時の彼が座っていた。
俺がくると手をひらひらとさせて、口元に笑みを浮かべている。目は笑っていないけれどな。
苦笑いを浮かべつつ向かいの席に腰を下ろすと、前屈みになり顔を近づけた。
顔が良いだけに、女子にすれば間違いなくキュンとくるやつ。でも俺にはガンをつけて喧嘩をうっているように思えてくる。
「俺は総一のお友達で、尾沢冬弥 ね。彰正の兄貴だ」
「尾沢の兄貴だったのか」
同じクラスの委員長。俺にとっての印象はそんなものだ。派手な兄貴と違って地味だなって思うくらいだしな。
俺のことは弟から聞いたんだろう。友達だものな、俺の事を許せなかったんだろう。
「あぁ、だから知っていたのか」
「言っておくが、彰正じゃないぞ。お前と同じクラスの女子から聞いた」
しかも、勝手に話してくれたそうだ。
それ以外にもあるぞと、俺がいきがっていた時の黒歴史を語り始め、慌てて止めようとするが、
「冬弥、それは関係ない話だろう」
まるで俺を守るかのように頭を抱きかかえられる。
キュン。
て、何、ときめいてんだよ、俺。相手は橋沼さんだぞっ。
「甘やかすなよ、コイツの事」
俺の頭を尾沢兄が小突き、橋沼さんがやめなさいとたしなめてくれた。
「お前がとやかくいう事じゃない。田中はちゃんと解ってる。な?」
橋沼さん、俺を信じてくれているんだな。
強がりな部分と怖いと思う気持ちが、このままでいいんじゃないかと、何も言えぬまま時がたつ。
これからも橋本さんと一緒にいたいなら、俺は変わらなくては駄目だ。
「葉月にはきちんと謝るよ」
良くできました。まるでそういっているかのように、頭を優しく撫でてくれた。
「総一」
呆れたと尾沢兄がため息をつき、橋沼さんが満足げに口角をあげる。
本当、甘やかされているわ。それがこそばゆく、でも嬉しいよな。
「ほら、冬弥も」
「わかってる。悪かった田中」
そう頭を少し下げる。悔しいのか、それとも羞恥心からか、頬を赤く染めて教室に戻るといってしまった。
へー、意外と素直じゃん。そう思っていた所に、橋沼さんの腕が首に回り、そのまま一緒に床に倒れ込んだ。
「うをっ、何!?」
何で押し倒されているんだ、俺っ。身を起こそうにも橋沼さんが重すぎて動けない。
「橋沼さん、苦しい」
ギブと腕を叩くと、顔を横にずらして耳元に、
「田中、頑張れ」
と囁いた。
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