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謝罪と抱擁_05

 話があると、葉月に美術室の下、ブニャの餌をやる場所にきてもらった。  見届けさせろと神野がついてきたが、それを拒むことはしなかった。 「葉月、喧嘩をうったのは俺なのに、お前だけ停学にさせてすみませんでした」  頭を深々と下げる。 「今更だ」  神野の冷たい声。顔をあげると表情まで冷めていた。 「そうだよな。俺、担任に正直に話をするよ」  葉月が教師から受けた誤解をとく事くらいしかできないからな。 「もう過ぎた事だ」  話をしたところで信じねぇからと言われて、心から申し訳なかったと反省する。 「いちいち喧嘩をうってきてウザイと思ったけどさ、もうしないよな?」 「あぁ。本当に馬鹿な真似をしたと思ってる」 「それなら、もういい」  話はオシマイな、と、葉月は神野を見る。 「悟郎がそういうなら」  と、いつもの神野に戻る。 「やっといつもの神野に戻ったな」  確かに、葉月の言うとおりだ。神野って、こう、キラキラとしていて王子様ってカンジだものな。 「俺だってムカつけば怒るよ」 「そうか。キラキラ王子だと思ったけど、素は魔王様なんだな」 「キラキラ、魔王……」  葉月がそう呟き、確かにと頷く。 「ちょっと、変な事を言うなよ田中!」  拗ねる表情を浮かべる神野。笑顔は上辺だけのものだったんだな。  本当の姿を見せられる程、葉月は大切な友達ということか。  羨ましいな、そういうの。俺も橋沼さんとこんな風になれたらいい。  そんな事を思いながら二人を眺めていたら、 「おーい、田中、仲直りできたかー」  頭上から声をかけられた。  いつの間にかベランダに橋沼さんの姿がある。タイミングよすぎるよ。 「うるせぇ」  くそ、恥ずかしくて顔が熱い。 「美術部の橋沼先輩じゃないか。田中、知り合いだったんだな」  何故、知っているんだと神野を見れば、 「あの人、目立つだろう?」  と、逆に今まで知らなかったのかと呆れられた。  そんなに目立つ人なのか、知っていたかと葉月に聞けば、知らないと首を横に振る。  そうだよな、俺だけじゃなかった。 「吾朗は他人に関心なさすぎ。田中は女子にしか興味なかったものな」  その通りです。女子の前でいい恰好をみせたいとそればかり考えていた。  だからあの頃の俺は神野と仲良くなりたかったんだ。 「うるせぇよ。男はそんなモンだろう」 「まぁ、そうかもな」  と神野が苦笑いを浮かべ、葉月が頷いた。  早く会って話がしたい。そう思い、美術室のベランダを見上げれば、そこに橋沼さんの姿はなく、気持ちが焦り始める。 「葉月、神野、今日は話を聞いてくれてありがとうな」 「いや。今の田中は悪くねぇ、よ」  そう葉月が俺の肩を叩く。 「行けよ。先輩が待っているんだろう」 「あぁ。行くわ」  二人に見送られ、俺は橋沼さんの待つ場所へ向けて走っていった。

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