21 / 72
謝罪と抱擁_06
美術室のドアを開けると、橋沼さんが俺を出迎えるように手を広げて、その胸におもいきり飛び込むと、しっかりと受け止めてくれた。
「猪突猛進だなぁ」
何を言っているか意味がわかんねぇけど、謝ることができた事が嬉しくて、それを伝えたくて興奮していた。
「言えたよ、橋沼さん!」
「あぁ。よかったな」
大きな手が俺の頭を撫でる。
これだ、俺はこうしてほしかったんだ。
嬉しいときや悲しいとき、傍にいて慰めたり勇気つけたり、抱きしめたり、頭を撫でたり……、ずっとこうしていけたらいい。
「橋沼さんが居るから勇気がもてた。俺と友達になってくれないか?」
もう一つの方も言えた。ずっと橋本さんに伝えたかったことだ。
「なんだ、田中と俺は友達じゃなかったんだ」
「へ」
そっか、そう思っていてくれたんだ。
どうしよう、顔がにやけるぞ。
「そうだな、じゃぁ、互いに下の名前で呼び合うか」
俺もこれからは田中ではなく秀次と呼ばせてもらうからと言われ、一気にテンションが上がる。
「いいのか?」
名前呼びだと友達感が増すよな。なんか、こういうの久しぶりで照れるやら嬉しいやらで、口元が緩む。
「あぁ。ほら、呼んでみろ。総一センパイって」
語尾にハートをつけろよと言われ、流石に少し引いた。
それ、俺が言ったらただキモイだけじゃん。何を考えているんだと総一さんにジト目を向けた。
「可愛く言えよ」
これは……、完全に遊んでるな、このやろう。
「総一先輩、はぁと」
いわれたとおりにしたら、あまりにキモくて自分にまでダメージがかえってきた。
橋沼さん改め、総一さんは口元を手で押さえて震えている。絶対、笑ってやがる。
くそ恥ずかしいじゃねぇか。
「笑ってんなよ。リクエストにこたえてやったのに」
「ありがとうな、秀次」
目尻を下げて俺を見ている。なんか、橋本さんがブニャにデレてる時に見せる表情だな。
まさかな、そんなわけは……、て、え、なんでキスしてんの、俺に!
柔らかい感触と熱が微かに残る、その箇所へ手を当てて呆然とする。
「おま、あれ」
なんで、意味がわかんねぇよ。
パニくる俺に、
「懐かないにゃんこが甘えてきたから、つい、な」
と総一さんが言う。
あぁ、なんだ、そういうことか。猫扱いね、俺は。
「はぁ、俺だからいいものを。他の人だと勘違いされるぞ」
「そうだな。こういうことは秀次だけにする」
いや、俺だけって、できれば勘弁してほしい。胸がざわざわとして落ち着かない。
「駄目か?」
怒られた犬のようにしゅんとする総一さんに、駄目だなんて言えないっ。
「わかったよ」
と言うと、表情が明るくなる。
驚いたけれど別に嫌じゃなかった。相手が総一さんだからだろうな。
それにしても、意外とスキンシップが激しいのな。俺だけとか言っていたけれど、なんだか胸がもやもやとした。
ともだちにシェアしよう!