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「αほどここが敏感な生き物はいないだろうね」 「っ……は……んぅ……」  グチ、クチ。自分の下半身、とりわけ尻の方から聞こえてくる粘り気のある音が未だに俺の羞恥心を刺激する。  王輔(おうすけ)が焦らすように薄いゴムを纏う中指一本だけで、性感を期待して膨らんだ前立腺の周りを引っ掻くように弄り回している。俺は自分の天蓋付きのベッドで膝立ちになり、やっとのことで頭を下げて、声を殺すために洗い立てで清潔感のある匂いを含んだ枕に噛みついている。これが、今の俺にできる精いっぱいの強がりだった。 「ほら、こんなにもふっくらしてわかりやすい」 「っあ……! はっ……ぁ……」  王輔の指が焦らされて熟れた前立腺の上をわずかに引っ掻く。  ぎこちなく背がしなった。  両手は王輔によって天蓋の柱に拘束され、痛いほど勃起したペニスを扱くことができずにいる。おまけに、膝立ちを強要するように腰もベルトで吊るされているために、自慰を覚えたばかりの子供のようにシーツにこすりつけることもかなわない。  下腹部でとぐろを巻く切ない快感を逃がすように、カクカクと情けなく腰を振ったが、唯一、刺激らしい刺激を与えていた王輔の指がつるりと俺の中から出て行ってしまう。 「ん……ふ……ぅ」  声を漏らし、振り向くと、スーツを着崩さず丸眼鏡をかけた王輔がほとんど無表情で俺を見ていた。そして、目に嘲笑的な色を浮かべると、ラテックスの手袋をはめた手を振って、俺に前を向くよう無言で指示する。そのどこか事務的で、熱を感じさせない冷たさが俺の興奮を高めた。  前に向き直ると、はしたなくひくつくすぼまりに王輔の指が押し当てられる。  たったそれだけで腹の中にある性感のツボがうずき、ペニスの先はしつけがなっていない犬のようによだれを垂れ流し、穴を求めて揺れ動く腰を止めることができない。 「欲しいのか?」  ヌチヌチとふちを擦られると、たったそれだけで指を誘うように肉壁が蠢くのを感じて、全身を火照らせるような恥ずかしさが骨の間を走る。  何より俺を辱めているのは、この王輔がΩであるという事実だった。  息を整え、何とか王輔の指から意識をそらそうとするが、どうにも無理だった。屈辱的な快感を教え込まれて――半年。こんな、くすぐるように触れてくる細い指一本では満足できない。  だが、それでも未だに自分の口から強請ったことは一度もない。体は王輔の手に堕ちても、αとしての尊厳まで失いたくはなかった。たとえ、どんな立場だとしても、Ωに首を垂れるなんて絶対にありえない。 「必死に我慢してかわいいね、鷹春(たかはる)」 「ふぁっ、あぁ……!」  今日のこれが始まって、もうすでに数時間が経過している。さんざん、体を弄ばれたが、まだ一本しか受け入れていない後ろにいきなり指よりも太い、冷たいものが突っ込まれる。  みっちりした中をかき分けるようにして奥に押し込まれたのは、王輔が好きな拡張を目的とした重量のあるおもちゃだろう。今はじっくりほぐされれば、俺は後ろで手首ほどの太さまでなら咥え込めるようになってしまっていた。  だが、今日はそこまで太くはない――とは言え、快感で引き締まった中に急に穿ちこまれ、太さ以上の刺激を食らわせてくる。 「あぁっ……く……ぁ……っ」  最初は排便を途中で止めたような不快感や痛みしかなかった。だが、細やかに動く王輔の指で直腸内の弱点を探り出されてからは、このおもちゃが一層、俺を苦しめるようになっていた。  俺の体温で徐々に温まる金属製のおもちゃによって、押しつぶされた前立腺がトクントクンと脈打ちながら、もどかしい快感をペニスに送り出す。  息をつめながらつい、ぐうっと中を締め付けるように筋肉が動く。緩めようとしても、腰が揺れ、ペニスが上下に首を振るだけでどうすることもできない。 「はっ、あ……ぁ、あっ……う……」 「そんなに僕との行為が不満か? ん?」 「ひっ……! やめ、あぁ!」  おもちゃが入ったまま、そこに王輔の指が押し入ってきた。  中で前立腺を押しつぶしているおもちゃをさらに押さえつけ、グチュグチュ音を立てながら手を動かして振動させる。胤で満ち満ちた陰嚢の裏にある前立腺だけを狙い撃つような激しい刺激に目の前が真っ白にはじける。 「いいぁあっ! く、んぁっ、ああぁ……っ!」  拘束された体を暴れさせ、何とかその暴力的な快楽から逃げようとしたが、王輔は俺の足をまたぐようにして腰を落ち着けると片手で腰を吊るベルトを掴んで、体を安定させて徹底的に開発され切った俺の前立腺を叩いた。  俺は声をこらえる唯一の抵抗を捨てて、喉をさらして叫んだ。そうしていないと頭がおかしくなりそうだった。 「ああぁっ! あっ、あう、はぁあっ!」  ぐうっとこみ上げる熱を感じて背を丸めた。  イく、イく――。  頭の中で叫びながら、俺は絶頂を迎えた。 「っあ、く……ぁ、ああ」  だが、王輔に与えられる絶頂は、普通のものとは違う。  射精と言うには、あまりにも貧相な飛沫。漏らすようにだらだら精液を垂れ流す。一瞬で終わるような絶頂ではなく、永遠に続くのではないかと思わせるような強烈な快感に頭が支配される。 「んぃ、やっ……め、イって、る、ああぁんっ……!」  王輔の手が止まることはなく、目の前がチカチカし始める。ほとんど毎日、この酸欠のような快楽の地獄に突き落とされる。意識のあるうちは決して終わらない地獄だ。  出す液体が白から透明に変わってやっと王輔の手が止まる……。

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