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めをつぶるきみのかわいさ(海燕×千春)
肌寒い季節に、海燕の部屋は相当寒い。
「……だから、おれの部屋においでって言ったのに」
元々事務所が入るビルを改装しているから、断熱が怪しいんじゃないかと思う。ただでさえ寒いのに、どんどん服を剥かれていくともう本当に凍える程で、脱がされたシャツをもう一度肩までずりあげそうになった。
なんで海燕は薄いインナー一枚でそんなにケロッとしているんだろう。
身体の構造が違うのか、実はどMなのか、多分そのどっちかだ。
「だってー、春さんのお隣さんうら若きOLさんじゃあないですかー。嫌ですよボク、お隣さんの彼氏へのラブコール聞きながら声を殺して致すなんて。よくまぁ毎日毎日お電話してますよねぇ、ボクも人のこと言えませんけど、彼女の為にもやっぱり春さんはボクの部屋に住むべきなんですよー」
「やだよ……海燕は若いからいいけどさ、おれ結構夜はがっつり寝ないと駄目なタイプ……ちょ、話聞けし」
「きいてますーよー。じゃあボクが我慢してぎゅっとだきしめて寝るだけにしたら良いって話です?」
「……おれが我慢できないからやだ。だめ。時々通うくらいがちょうどいいの」
甘い言葉はいつだって恥ずかしくて、ぎゅっと抱きついて顔を隠す。
正面から太股の上に乗り上げて抱きついた格好で、首筋に額を当てると耳元で照れた声が聞こえた。ちくしょうかわいい。もう、本当にこの年下の男はかわいくてずるい。
「あーあーもー今日も春さんはかんわいいんだから……ねえねえ、キスしましょう。ボクね、春さんとキスするの好きなんです」
だからこっちを向いて、と言われて、まだ熱が残る顔のまま流れる動作でキスをしようと思って、はたと気がついた。
海燕はまっすぐといつもおれを見つめてくる。
おれは見られるのが苦手で、いつも顔をそらしてしまう。
だからなんていうか、きちんと正面から顔を覗く事ってあんまりなくて、今みたいに目をつぶった海燕を拝める機会は朝おれが早く起きた時くらいにかぎられていた。
もう少しで唇がぶつかる、というところでその口に指を当てる。
キスを途中で止められてしまった海燕は目をつぶったまま、何が起こったかわからないような顔で少しだけ首を傾げた。
そういえばおれ、海燕の顔好きだな。
……っていうの、本人に言ったっけ?
「……、春さーん? え、なに? これ春さんのお預けタイムです?」
「うん。お預けタイム。……なんか、海燕の顔かっこいいなって思って」
「………………え。え?」
「え。何その反応」
「え、いや、だって、……え。何、ですかそれ、あのー……春さんに限ってはお世辞とかそういうの言う人じゃないと思うんですけど思ったよりフィルターかかってます?」
「かかって無いよ失礼だな。おれ結構最初っから海燕の顔すきだよ」
「………………はつみみ」
そうだっけ。と、思った矢先に、ああ、そうかもしれないと記憶をたどる。そう言えばおれと海燕が最初にこういうことになったのって、すごく流れというか無言の空気というか。とりあえずあなたのここが好きですお付き合いしてください! というような言葉のプロセスは確かに無かった。
海燕はかわいくて、ついおれはかわいいかわいいって言ってしまうし、海燕は海燕で春さんすきすき連呼する。
言わなくてもわかるこの馬鹿みたいに好きな気持ちっていうのはお互い伝わっている自信はあったけど、そういや改めて外見的特徴の好みとか伝えたことないなぁと思い至った。
「あー……あの、おれ、結構海燕の見た目とか、好みなんだけど……もしかして知らなかった……?」
「しっりませんよ! なんですかそれ早く言ってくださいよボク言っときますけど自分の外見イケメンだとか一切思って無いですからそういうのめっちゃくちゃ嬉しいですよ……! まあ見れない顔じゃないでしょうしそこそこ身体のバランスには自信ありますけど、え、春さんマジですかっていうか目開けていいです?」
「だめ。もうちょっと堪能させてよ。……鼻筋とか、結構好き。一重の目もかっこいいし、薄い唇も好きだなぁ」
「うーあー……なにこの羞恥プレイ。まだ何も致してないのに恥ずかしくて死にそうなんですけど……」
「たまには反撃したっていいじゃん」
「何したらお預け解除してくれるんです?」
「ええと……おねだり?」
流れで適当に言葉を繋いだだけなのに、海燕は甘い声でおれの指をちろりと舐めた。
「……春さんの唇が欲しいです。ねえ、ボクにください。もう、待てない」
……そんな風に言われたら、もう、どうしようもなくなる。
海燕が目を閉じていて良かった。今きっと、とんでもない顔になっていると思う。
「ずっる……なに、もう、最近ほんと、よくない技覚えたんじゃないかなぁ……」
「うっふふー春さん好き好き言ってるだけじゃないんですよーボクだってねぇ、学習できるんですーお利口なペットでしょ?」
「ペットじゃなくて、恋人だけどね」
やっとお預けをしていた指を離し、薄い唇にキスをすると腰を抱かれて息までむさぼるように深く舌を絡められた。
情熱的な口づけが言葉もなく感情を伝える。
外見も好きだけど、素直な行動とうそのない言葉が、すごく好きだなと思う。
「……ボク、サド気味なのかなぁと思ってたんですけど、もしかしたらマゾっけあるのかも」
「え。お預けプレイに興味あり? それともペットプレイ?」
「うーん想像してみたんですけど悪くないんですよねぇ。ご主人様が春さんなら、もうなんでもいいんですけどね」
「…………海燕首輪似合いそう……」
「待って待って春さん目が怖いですーちょっと今のナシ、……っ、ふ……」
「……ん……、ぁ、……こんなでっかいペット、やっぱおれの部屋じゃ飼えないなー……」
「だから春さんが越してきたらよろし」
「やだっていってんじゃん。毎日お世話が楽しくて仕事ほったらかしになっちゃうよ」
キスを繰り返しながらそんなことを言い合って笑って、でもちょっと本当に首輪は似合いそうだな買ってきたら怒られるかなぁなんて危ない事を考えてしまった。
End
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