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深夜とマック(唯川+カヤ)

 何か食いたいもんある? ってラインしたら即答でマック三人前って言われたわけで。 「そんなわけで参上しましたゆいかわわウィズマックデース」  なんて威勢よく登場したものの、そのスタジオの中はなんていうかもうほんと、散々な状態だったし正直おれも疲れ果てていてどんなテンションが正解かわからなくなっていた。  何と言っても連勤明けだ。明けっていうか、ついさっき激動の三連休連続勤務が終わったばかりだ。荒れ果てたサロンの掃除を終えてチーフと一緒に一息ついて、さあ帰って風呂入って壱さんにちょっとだけ電話してネヨウ、と店を出た時にタイミングを見計らったかのように携帯が鳴った。  へろへろのテンションのおれへの第一声は、今すぐおまえが必要だなんていう思わず笑って二回訊き返してしまうような台詞だった。  もうすぐ深夜と言っても過言ではない夜の十時過ぎ、リクエストの通りマックで適当にハンバーガー五個とポテトとナゲットとコーラ三つ買ったおれこと唯川聖は、シナシナの危機を救うためはるばる、ホシノフォトスタジオの扉を叩いたのだ。 「ああ……あー、ありがとう聖くん……シナ、ほらあんたの助っ人が来たよちょっと起きろ寝てんな一人で逃げんな共に戦え男子……聖くんぶったたいて。起こしてその裏切者を」 「え。えーいやですよぅシナシナにそんなことして後で恨まれたら嫌だーものー萱嶋さん大丈夫なんですかこれすんげー惨状ですけれど」 「大丈夫じゃないと判断してヘルプを呼んだだわけよ……あーもうほんとありがとうその辺適当に座って、ごめん。モデルは今仮眠中。えーとシナなんて言って呼んだ?」 「今すぐハサミと櫛とメイクセット持って走って来い」 「……キミ本当に気に入られてるねコイツに。シナ、あんま他人にそんな無茶な要求しないよ」  そういう事言われちゃうとおれってば結構うへへって思っちゃう。世界で一番天使だと思っているのは勿論壱さんだけど、シナシナは勝手にマブダチカテゴリーにぶち込んでいたからさ。わー相思相愛―なんて適当な軽口を吐き出したら、キミも疲れてるのにゴメンネと萱嶋さんに謝られてしまう。 「ほんとごめんね……うちもまさか夜通し撮影なんていうわけわかんない修羅場になるなんて思ってなくて……」 「なんか有賀さんとこの締め切り前って感じですねぇ。撮影スタジオにも修羅場ってあるんですね」 「まあ、似たようなもんではあるけど普通はこんなにテンパらないね。クライアントがくそみそにリテイク出してきやがってその上向こうの指定したモデルがドタキャンで大騒動。それで時間持ってかれて結局撮影押しまくって納期明日の午前中っていう修羅場なう。というわけで聖くんにはうちのモデルのスタイリングとメイクを頼みます私もシナも女の子のメイクはできなくないけど男は苦手なんだ……」 「あ。モデルさん男の方なんですね」 「……シナ本当に何も言ってないんだねほんとごめんね……」  平謝りしながらもマックの袋をがさごそ開ける萱嶋さんは、朝からろくなものを食べていないらしい。  そんな弱った胃にいきなりマックつっこんで大丈夫なのかなーと心配はしてみたんだけど、弱ってるからこそマックが食いたいらしい。まあ、わかんなくもないけど。マックとラーメンって疲れてる時に食べたくなるよねーと思う。 「…………まっくのにおいする……」  ぼそり、と掠れた声が聞こえて振り向く。シナシナはまだ机に突っ伏して寝たままだ。声の主はどうやら、奥の部屋に居たらしい。 「トキもういいの? 早朝番からぶっ続け連勤だったんでしょ? 撮影十二時からでも……あ、聖くんも帰りたいよね、ごめんやっぱり起きてマック食べてトキ」 「え。いやーおれは明日お休みなんでなんでもいいですよほんと。地獄の連休出勤終わったんで解放感でいっぱいです」 「そういう事言うと私達は本気にするからねおしゃれ男子。じゃあゆっくり食べていいよトキ。マック食べれる? やめとく? 粥にする? ヨーグルトあるよ?」 「カヤちゃんほんと最近過保護がすぎない……? マック食べるよなんかさぁ、疲れてる時ってむしとマック食べたくなるよねなんでだろうね……」  うははわかる。めっちゃわかる。と思ったけど初対面の人間に対して割合壁作っちゃうおれってば、そわそわしながら心の中でぶんぶんと頷くだけに止めてしまう。  どうやらモデルさんらしき黒髪の男子は、本当に疲れ果てた様子でずるずると椅子に座ると、やっとおれに気が付いた様子でハッと目を開きちょっとだけ後ろに引いた。「え、ゆいかわさ……え?」 「え。え?」  急に名前を呼ばれてびっくりする。えーおれこんな割合イケメンな知り合いいたっけ? と思って記憶を探って、思わず指さして叫んでしまった。 「う、海の家!」  そうだおれはこの黒猫男子を知っている。といっても遠目からさっと眺めただけだけど、去年の夏にシナシナが海の家で働いている恋人を激励しに行くというのについていった。 「そ、その節は、どうも……え、ゆいかわさんマックの運び屋……?」 「いやーじつはおれってば美容師さんなんでスタイリングもできちゃう人です」 「あ。あー! あー……えっと、じゃあ」  今日はよろしくお願いします、と頭を下げられ、びっくりするくらい丁寧なお辞儀にうははと笑ってしまった。さすが、シナシナの恋人だ。  妙に痒い気分でそわそわとあいさつをしていると、机につっぷしていたピンクの塊がもごもごと動く。 「……マックの匂いが、する……」 「なんなのーキミたちの覚醒の合言葉なのそれ」  笑ったおれはさて折角頼ってもらったのだからと、ほんのちょっとだけ気合を入れ直した。

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