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第3話 斎藤将生
泣いて懇願してもやめてもらえません。継ぎ足される液体にお腹は、ぽこんと膨らんで……。
「そろそろだ」
「そろそろですね」
誰かと誰かの話す声が聞こえます。もう無理と思った瞬間に、くるりと表裏をひっくり返され、天井が視界に入りました。両膝の下に手を差し込んで持ち上げられた、僕の目の前にはカメラが。
「嫌だああぁ……」
冷や汗を流しながらなんとか我慢していますが、本当に限界です。
もう無理と思ったその瞬間に誰かが慌ててドアを開けて飛び込んできました。あ、ドライバーさん……。
「撮影、ストーップ!止め、止め。中止!」
一瞬にして現場は水を打ったように静まり返りました。
「監督っ!その人っ、違います!」
「え、何?どういうこと?」
ドクターがきょとんとして僕をベッドにおろしてくれました。
「お、お腹痛いっ!と、トイレ行かせてくださいっ!」
悲痛な叫びを上げると、慌てて1人のスタッフが奥のドアを指差してくれました。駆け出したけど腕は後ろに拘束されたままです。
「間に合わないですっ!」
思わず叫ぶと、ドクターが急いでドアを開けてくれました。本当に、本当に間一髪。ギリギリセーフ。死ぬかと思いました。いや、殺されるかと思いました。
「あの、す、すみません。これ外していただけないと、トイレから出られない状況なんですが……」
トイレの中から情けない格好で声をかけるとドクターがドアを開けて入ってきてくれました。
「悪かったね、大丈夫?」
優しく微笑みながら、手枷を外してくれました。便座に座った状態で、「ありがとうございます」と、返事をしました。
「あの、これって一体何なのでしょう?」
ようやくトイレから解放され、何が起こったのか確認しなくちゃと思いました。本当に何が起きたらこんな目に合うのでしょう?
「あまりに迫真の演技で驚いたんだけど、演技じゃなかったんだねえ」
ドクターは笑ってますが、笑い事じゃありませんよね。
「柾木さんかって確認した時に、はいって返事するから本人だと。写真確認して別人だと気がついた時は驚いたよ」
ドライバーさんが頭をかきながら言ってます。
「え?あの僕、斎藤将生ですけど……」
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