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第22話 学食
大学の学食でひとり昼食をとっていたら目の前に、ことんとお盆が置かれました。
ふと目を上げると、そこにはにっこりと笑う男性がいます。
「マサキ君?こんにちは、柾木翔太です。この前はどうも」
え、えええっ。
見惑うことなく、この前の通訳の方ですね。心筋梗塞を起こしそうです。高速運動に心臓がついていけていません。誰にも、誰にも知られてないお仕事のはずですが、どうしてでしょうか。
「本当に普段は目立たないよね。探すのに時間がかかっちゃった、撮影の時と全然違うんだもん」
同じでは困るでしょう。
……え、今さっき名前何とおっしゃいましたっけ?
「あっ、柾木!」
「そうそう、マサキショウタ。名前のせいで何だか迷惑かけたみたいだね」
迷惑どころじゃないでしょう。だって、あなたの所為で僕はもう戻れない……。
戻れない?えっと……どこにでしょうかね。
「な、何でこんなとこにいるんですか?」
「何でって言われても……、同じ大学に通ってるから仕方ないよね。いつも学食にいたの?気づかなかったよ。俺は英語科の三年、君は?」
「俺は機械工学の二年ですけど……」
「そうか……授業も全く被らないから仕方ないか、よろしくね」
「あの、何の用ですか?」
この場を早く切り抜けたいです。誰か助けてください!
「えっと端的に言うと、んー、香月さんと別れてくれない?」
「えっ?な、何をおっしゃっているのかわかりませんが」
「ずっと憧れてたんだよね。何度も何度も、連絡して……やっと共演してもらえることになったのに、ほんのちょっと寝坊した隙に君に持ってかれちゃったからなあ」
……この人の寝坊……、それがすべての根源。
今の僕の存在はこの人の不注意のせいなのでしょうか。
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