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第84話 さくら

 「香月さん……」  「「何」」  あ、お二人同時に返事されました。そうでした。  「えっと…、ゆ、ゆうとさん……」  「うん、何か新鮮……何?」  「これって……写真の撮影です…よね?」  「そうだね」  「じゃあ、その……いつものような事はありませんよ…ね?」  「ふふっ、任せておいて。一番可愛い顔させてあげる」  嫌な予感しかしてきません。いきなりオーラがピンクです。  「ユズ、お前は写さないからな。自分の撮った写真に自分と同じ顔とか……気持ち悪くて無理」  「俺だって見られんの嫌だし、写りたくもないんだよな。でも、他の奴に向かって将生にあんな顔させたくないし、仕方ない」  利害一致したようですね。良かったです。ところで、今更ですが、カレンダーの写真にって話……、一体どの時点で僕は了承しましたっけ?  考え事していたら、はむっと耳をくわえられました。耳の軟骨をつつと舌先で撫でられています。  「ふ…んっ」  声が出た時に少し品のない口笛が聞こえました。オミさんでしょうね。他にいませんし。  「そろそろ、あっちへ移動しようか」  真っ赤な布の海の上に造花や発泡スチロールの雪に埋もれるように寝かされました。  何だかクリスマスプレゼントにでもなった気分です。    香月さんは優しく僕の耳元で囁きながら、触れるような口づけをあちらこちらに落としてはすっと離れていきます。  もっと側に来て欲しくて、涙が出そうです。  遠くでシャッター音が聞こえるような気もしますが、もうどうでも良いです。  「ん……ああ…ん」  突然、腰のところを強く吸われて思わず声が出ました。  「ユズっ!痕つけんな!」  オミさんの声で現実に引き戻されました。  「ああ、悪い。つい、でも良い顔になったでしょ?後は任せるよ。桜の花びらの一つくらい勘弁してよ」  意地悪い笑顔の香月さん。わざとですね。ご兄弟揃ってそう言うところそっくりです。  香月さん二人に見つめられて、何だかふわふわした波の中で漂っているような気持ちになりました。 【植物 おしまい】

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