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後日談(2-5)

「はー、うまかった! ごっちそうさん!」  居酒屋を出るなり、三枝さんが顔の前でパンッと両手を合わせた。 「調子いいな、まったく……」  ぽっこぽっこと白い息を吐き出しながら、理人さんが苦笑する。  そして、手に持っていた財布を鞄にしまった。 「理人さん、ほんとに良かったんですか? 全部払ってもらっちゃいましたけど」 「佐藤くんってばまっじめだなー! いいって言ってるだろー?」 「なんで三枝くんが言うのよ」 「先輩、知らないんスか? 俺のものは俺のもの、神崎(コイツ)のものも俺のも……あいて!」 「だからうるさいって言ってるでしょ」  じゃれ合いながら遠ざかっていくふたりを追いかけ、駅への道のりを歩き出す。  数メートル先では、三枝さんがまた藤野さんに怒られていた。  今度はいったいなにを言ったんだろう。 「佐藤くん」 「はい?」 「この後、どう……する?」 「えっ」 「帰る? その、アパート……」  不安げに吐き出された息が、ほうっと白いもやになって消えていく。  その残像を見送ってから、隣を歩く理人さんとの距離をほんの少しだけ詰めた。 「一緒に帰ってもいいですか? 理人さん家に」 「……ん」  アーモンド・アイがトロンと輪郭を変え、火照った頬の筋肉が持ち上がる。  よかった、と呟く理人さんを見ていたら、一度はおさまっていた熱が、少しずつ復活してくるのがわかった。  ああ、だめだ。  やっぱり、今夜は寝かせてなんてあげられないかも。 「それじゃ、神崎くんも佐藤くんもお疲れ様。私たち、こっちだから」 「あ、お疲れ様でした!」 「気をつけて帰ってね」  コツンコツンと固い音を響かせながら、藤野さんの姿がどんどん斜め下の方に下りていく。  その後ろを、いかにも気だるげに三枝さんが続いていた。 「じゃあ、俺たちも行きましょうか」 「うん……あ、三枝!」 「あ?」  危なっかしくふらつきながら、階段の真ん中で三枝さんが振り返った。 「ありがとう、今夜は楽しかった」 「……」 「明日までにちゃんと酒抜いておけよ」 「……」 「おやすみ」  穏やかに微笑む理人さんと、そんな彼を見上げる間抜け顔の三枝さん。  やがて、そのうち一方の視線がわなわなと震え始め――… 「だああああああぁぁもう!」  三枝さんが叫んだ。   「そういうトコだからなッ……!」  渾身の捨て台詞を残し走り去っていく姿を、理人さんが呆然と見送る。 「な、なんだったんだ?」 「きっと理人さんには一生分かりませんよ」 「はあ……?」  たくさんの『?』を浮かべる理人さんの隣で、俺はこっそりと笑った。  fin

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