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後日談(2-4)

 降ってきたのはありったけの不機嫌を携えた低い声と、もはや憐れみに近い呆れを伴った生ぬるい視線。 「なんだよ、ずいぶん長かったじゃん。ウンコか? ……いでッ!」  ついに藤野さんにげんこつを落とされ、三枝さんが脳天を抱えて悶える。  理人さんはへの字口の勾配を和らげ満足そうに微笑むと、ようやく椅子に腰を下ろした。  すると、なにかがカサッと擦れる音がする。  見ると、理人さんの手に小さな紙切れが握られていた。 「理人さん、それなんですか?」 「あ、あー……いや、その……」 「あー! またかよ!? ひとりになった途端にこれだよ、逆ナン!」 「逆……ナン?」  気まずそうに目を背ける理人さんの背中越しに、なにやらこちらをチラチラ伺う四人組が見えた。  見たところ、仕事帰りのOLたちだろう。  なにを話しているのかは分からないけれど、こっちを見ては顔を突き合わせてひそひそと囁き合う……なんてことを繰り返している。  ああ、なんだ。  そういうことか。 「そういうの本当にあるんですね、初めて見ました。さすが理人さん」 「……うるさい」 「それ、どうするんですか?」 「処分する……あとで」 「あとで?」 「さすがに今は失礼だろ」  下唇を突き出して拗ねてしまった理人さんを、三枝さんが偽善者だと告発し、藤野さんがうるさいいい加減にしてと叱りつける。  そんな光景を前にしながら、俺は蕩けそうになる頬の筋肉を引き締めておくのに必死になっていた。  テーブルの下の秘密の空間で、理人さんの手がそっと俺の手を探り当てる。  そして、細い指がひとつずつ俺の指の隙間を埋めていった。  こっそりと。  ひっそりと。  まるで「ごめん」と謝るように。  ああ、もう。  かわいいすぎる。 「理人さん」 「……」 「大丈夫、気にしてません」 「……あ、そう」 「はい。まあでも……」  今夜はとことん付き合ってもらいますけど、ね。

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