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第5話
まっすぐで迷いのない言葉。確信に満ちた表情。
敦人なら当ててくれるのではないかという期待が現実になったんだ、と思いながら遥希はゆっくりと瞳を見開いた。
気付いたのは僕の名前だけ? と心の中で聞いてみる。
ん? と覗き込んできた敦人の好奇心いっぱいの顔が遥希の丸い瞳に映り込む。窓からの光を一杯に受けた敦人の輪郭が逆光で白く煙るように光っていて、まっすぐ見ているのがつらかった。
何も言わずに目を反らした遥希に敦人は戸惑って瞬きした。恥ずかしそうに眉が下がり、カードを持つ手の位置も一緒に下がってゆく。
「俺の勘違い?」
嬉しさと恥ずかしさがないまぜになった気持ちを隠して、遥希は大きく息を吸いいつも通りの笑顔を作った。
「違うよ、あたり。すごいな、分かったんや。」
敦人の顔がぱっと輝いた。やった、と相好をくずし、階段を降りて遥希の隣に並ぶ。同じくらいの背、数か月違いの同い年。同じ教室で過ごす時間はあと数週間しかない同級生。
「俺が推理小説好きなの知っとった?」
知ってる。そっちこそ、僕が中学の時図書係だったって知らないだろ?
「めちゃくちゃ真剣に考えたのに全然分からんくてさ、ハルが『成績優秀で余裕のあるヤツ』って言ったとき、ひっかかかったんだ。」
「そう、なんだ。」
これじゃまるで自分がそうだと言ってるみたいだと、内心焦りながらモゴモゴと返事をした。こんなに近くで敦人の顔を見るのは久しぶりだ。
促されて一緒に下駄箱に向かって歩いて行く。こうやって校内で歩くのもあと何回あるのかな。
「差出人、女子やと思いこんでたけど男の可能性もあるって気がついて、他のやつがもらったのと見比べたら俺のだけスペル間違っとったやろ。」
手袋を忘れた敦人は、冷えた両手をこすり合わせてからコートのポケットに突っ込んで、にっと楽しそうに笑った。
「五人くらいに見せてもらって確信した。俺のだけわざとしとるんやって。でもスペルミスはalwaysだけやろ。やっぱ分からんなーって思ってたけど、アレだな、文法ミス。見つけるの苦労したわ。happyのh が小文字のまま、不定冠詞のa が抜けてる、alwaysのl が多い。謎は解けた、犯人はhal だ。」
得意げに話す敦人の声が好きだ、と遥希は思う。
校舎から出れば冷たい空気に吐き出される息が白い。自分の名前を呼ぶ優しい響きを、この白い息みたいに形のある何かにしてとどめることができればいいのに。
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