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Twelve(2)★

 翌日の昼下がり、本当に二コラがやってきた。どこか疲れているような気がするのは気のせいではない。明らかに目の下のクマがやばい。この顔は3徹目以上だなと察し、冗談をいうことも挑発をすることも控えておこうと自分に言い聞かせる。  ドン・クリステンからの嫌がらせか、それとも本当に人員が足りずに大変なのかしらないが、この状態の二コラをひとりで寄越すドン・フィオーレも大概だなと感じる。チェリオが軍人怖いという意味が分かるようだ。 「それで、ドン・フィオーレからの提案の件だが」  唐突に二コラが話し始める。言葉の原理原則かと思うほど文法を正しく使う二コラが前置きもなく話し始めるということは、仮眠は挟みつつも4徹以上だと察して、ユーリは溜息を吐いた。 「もうわかってる、昨日聞いた。律儀に打ち合わせに来てくれたことはありがたいけど、寝てくれ」  心房細動まっしぐらだぞと二コラに告げるが、俺の仕事だと言わんばかりの視線を向けられる。これは大人しく話を聞いたあとで、なにかで眠らせてやったほうが親切だと悟る。 「このあとの予定は?」 「これが終わったらミクシアに戻って、少しの仮眠ののちに政府に意見書を持っていくことになっている」  二コラが馬鹿正直に答える。今日は珍しくベアトリスがこちらにいる。ユーリの担当者だなんだと言っていたくせに、昨日までずっとアレクシスにこき使われていたらしい。ベアトリスを見上げると、なにかを悟ったらしく、訳知り顔で首を傾けて見せた。 『リストースなんていかがです? 200cm越えの大男でも卒倒する入眠剤ですよぉ』 『嘘つけ、物理的に気絶させるようなもんだろ』 『こんなマニアックな薬品をご存じなんて、さすがはSig.オルヴェ。どうします? 試します?』  フォルムラ語でにこやかにえぐいことを言う。 『ねえ、あんたんとこの可愛いミカエラくんがさ、リュカと一緒におもしろそうな睡眠薬開発したらしいんだけど、持ってない? あれ試そうよ』  おもしろそうじゃんと不敵に笑ったら、ベアトリスが目を瞬かせた。 『ああ、あれをやっちゃいます? 行きます? 知りませんよ?』 『え、なに、どうなんの?』 『調合するのに鼻と舌が犠牲になったって、言っていたでしょう。粉末にすると刺激性があって、しかも舞いやすいからふたりしてくしゃみが止まらなかったって言っていましたよぉ。  使いやすいのは抽出液なのでそうしたらしいですが、容量を間違えると永遠に起きてこないなんてこともあるかもしれませんね。  ドン・クリステンはピペット0.2mlのたった一滴で朝までスヤァでしたし、Sig.カンパネッリはどうでしょうね? 数日寝ていないんでしょう? 下手したら数日スヤァじゃないです?』 『え、一滴で? やばっ』  やっちゃいます? と、ベアトリス。今日はアレクシスもミカエラもいない。こいつのストッパーが誰もいないから、自分がゴーサインを出したら興味本位でぶち込むことに気付く。さすがに二コラが数日起きないのは困る。ここで寝かせたら自分のベッドを占領されるだろうし、かといって下にわざわざ連れて行っておちゃでもどうぞというのは不自然すぎる。怪しまれること請け合いだろう。 『じゃあせめてソナー程度にしといてやろう』 『あれってアップルティーに混ぜたら効果絶大なうえに、味もわからないから簡単に摂取できるんですよぉ』 『知ってる。一回二コラにやったことある』  効きすぎたのか、翌日の昼まで起きなかったことを伝えると、ベアトリスは悪戯っぽく笑って、『じゃあ規定量の2/3に抑えておきますね』と言ってのけた。フォルムラ語で、それもぼそぼそと小声で言っているからなのか、二コラはまったく気にせず7日の夜の段取りを話している。 「清々しいほどにたくらみに気付いていませんね、彼」  ぼそりとノルマ語で言ったが、二コラは顔をあげない。 「だから俺に出し抜かれるんだ。4徹目以上はもう仕事以外見えていない」 「それでオレガノの駐屯地の様子を窺っていた相手のことだが」  こちらの算段をつゆ知らず、二コラが話を続ける。 「どうもピエタの下部組織ーースコーピオの手の者ではないかという噂だ。オレガノの別同部隊が重要書類を駐屯地に在中している隊員に渡すタイミングを見計らって、奪うつもりではないかと」 「バカですねぇ、そいつ。そんなことをしたら、地の果てまでも追いかけられますよぉ」  駐屯地みたいな重要拠点を手薄にするわけがないのにと、ベアトリスが言う。 「スコーピオの連中は兵役経験等が乏しいスラムの住人や、下流階層街の住人だと聞いている。なにをどう誑かされたのか、先日ドン・アゴスティも襲撃を受けた」 「アルテミオも言っていたけど、学長は大丈夫だったのか?」 「ああ、彼なら無事だ。あの方はあれでも10年近く前まで軍幹部だったし、相手が複数人でなければ簡単に対処できる」  それならよかったとユーリが胸を撫で下ろす。元気そうに見えるが、彼は退役するきっかけとなった怪我の影響で左側の視野が狭く、上品そうな風貌とは不釣り合いなほどに声が大きいのもそのせいだとドン・クリステンから聞かされている。  なにを企んでいるのか見当がつかないと二コラは言っているが、やはりこの国を根本から揺るがすために動いているとしか思えない。フィッチとの密約で旨みがある以外になにかがなければ動機が薄すぎる。それこそ亡命や昇級を狙っているのだとしたら、悪い噂がたてば立ち消えになる可能性を考慮して動くはずだが、言葉巧みに操られているか、それとも『記憶の操作』が行われているか。 「そういえば聞いていなかったんですが、ミクシア側はSig.オルヴェの処刑保留をどのように撤回なさるおつもりです?」 「いまのところは、中和剤の開発ができたら処刑そのものの撤回を約束してくれている。さすがにガブリエーレ卿に睨まれては政府も勝手ができないようだ。ただ、思うような成果が望めなかった場合には、どう動くかが読めない」 「そりゃあ処刑執行か国外追放だろ。あいつらのやりそうなことなら馬鹿でもわかる」 「もしそうなったら、オレガノは遠慮なくミクシアとの国交断絶及び、Sig.オルヴェほかミクシアに住むすべてのイル・セーラをオレガノにお連れするつもりですとお伝えくださいね。  いまはミクシアにイル・セーラが住んでいるので手を出しませんが、オレガノは永世中立国と雖も、同族の命を守るためなら戦争も辞さない構えですので、そこのところをお忘れなく」  うふふと楽しそうに笑いながら、ベアトリス。その迫力に二コラが唸る。 「ただの伝聞役の俺を脅さないで下さい、補佐官殿」  やや情けない声で二コラが言った。補佐官と言われて、ベアトリスを見る。 「アレクシスの?」 「まさか。准将殿のですよ」 「アレクシスもじゃなかったっけ?」 「向こうは正補佐官、ぼくは副補佐官です。オレガノでもいつもぼくたちは三人でいますよ」  ただ、大佐殿のぼくへの扱いがひどすぎて、大体小間使いにされちゃうんですよねとベアトリスが笑う。 「ミカエラってそんな頼りない感じ? 一人でなんでも熟せそうな気がするけど」 「ミクシアでは18歳以上成人ですが、オレガノでは厳密に言うと21歳以上が成人なので、准将殿は未成年のうえ立場も立場なので、補佐官がふたり着くことになっています。  聞き及ばれたと思いますが、第一王子と第二王子のお亡くなりになったいま、オレガノ王家の今後は准将殿とアスラ様にかかっているので、いわば厳戒態勢を敷かれているってことです。  大佐殿がいれば正直ぼくはいてもいなくてもどちらでもいい立場ですし、暇が嫌なのでSig.オルヴェのお守り役を買って出ました。まあ、大佐殿に命令されればミクシア市街に戻っちゃいますけどね」  にこやかにベアトリスが言った。お守りと言われて、なんとなく解せない。眉根を寄せたからか、「ピッコリーノちゃん」と笑われた。 「オレガノ側にまでご迷惑をおかけしているようで申し訳ない」 「構いませんよぉ。そちらにお任せするより、こちらでお守りしたほうが手っ取り早いという准将殿の判断です」  あからさまな嫌味だ。なんだか面倒くさくなって、ユーリは呆れたように溜息を吐いた。 「俺を挟んで代理戦争しないでくれ、迷惑。自分の身くらい自分で守ります。だからあれ以来勝手に外出したりしていないだろ」 「当たり前だ。自重しろ、どたわけ」 「うるっせえわ、むっつりスケベ。で? 報告は終わり?」  べべちゃん、お茶淹れてきてというと、ベアトリスははーいと軽やかに返事をして部屋を出ていった。明らかに疲労の色が濃い。体力無尽蔵の二コラがここまで疲れているような顔をするのは初めて見た気がする。 「ねえ、ドン・クリステンに扱き使われているなら、俺の二コラを過労死させないでくれって言っておこうか?」 「嫌な言い方をするんじゃない」 「俺がいなくて寝れないなら、抜いてやろうか?」  鍵かけといたらベアトリスもなにか察してどっか行くだろと笑う。 「寝る自信しかない」  そんなことを言われたら、嫌がらせする以外ないだろうと思う。二コラはユーリに火をつけるのが巧い。ユーリが不敵な笑みを浮かべたからか、二コラが焦ったようにおいと声をかけてきた。 「なんだその顔はっ、俺は仕事で来ているんだぞっ」  ユーリは徐に立ち上がり、ドアのほうへと向かった。軽くドアを開けると、ベアトリスがお茶を淹れて戻ってきたところだった。ふわりとあまいアップルティーのにおいがする。小声ででこれにソナーを入れたか尋ねると、一応規定量の1/3程度と答えが返ってくる。ユーリはそれを受け取って、人懐っこく笑った。 「ベアトリス、30分ほど時間ちょうだい」  二コラに嫌がらせすると意味ありげに言うと、ベアトリスはわかってまーすと楽しげに言ったあとで、ジジと遊んで来ようと部屋を後にした。すぐにドアを閉め、鍵をかける。くふんと色っぽさを携えて笑いながら二コラに近付く。 「オレガノのハーブティー、おいしいよ」  二コラは少し怪訝な顔をしたが、ほどよい熱さのそれを一口飲んだ。意外だと言わんばかりの顔をする。 「眠りが浅いときに時々淹れてもらう」 「なにか嫌な予感がしたんだが、苦くもなくうまいな」 「へえ、二コラにしちゃ勘が鋭いじゃん」  次から同じ手は食わないかもなと内心する。ぼそりと言ったのに気付かずに、二コラが書類を眺めながらそれを少しずつ飲む。  そういえばこのまえ、談話室でラカエルたちがとんでもない猥談をしていた。ユーリがソファーで寝転がっていたのを、眠っていると思ったからなのか、ちょっとおじさまたちのエグさにひいた。さすがにキルシェは「おめえら本当にクソだな」なんて言っていたから、あの人は見た目が怖いけれど案外まともなのだと思う。  それに混じってボロカス言っていたチェリオもチェリオだ。デリテ街が無法地帯だと言われたゆえんはそこかと思いつつ、ミクシア市街出身のイル・セーラじゃなくて本当に良かったと心から思った。普通に銀髪のイル・セーラは云々と言っていたから、奴隷制度が敷かれたときに、誰かに取っ捕まってそれこそ孕むまで犯されていたかもしれない。  そのときに、おもしろいことを話していた。自分たちはミエレッタの蜜は粉末を丸薬にするためや、傷薬やのど飴代わりに使ったりするのだけれど、ノルマ――というか、スラム街の人たちは、ミエレッタの蜜にリコステのエキスを混ぜて、合法のセックスドラッグを作っていたらしい。  本当にミエレッタの蜜にリコステのエキスを混ぜたらぶっ飛ぶのだろうかと気になってくる。リコステなんて普段使わないし、軽度の鎮静剤として使うとしかしらなかったから、スラム街の大人たちはなんでもおもしろいことに使うなあなんて思っていたけれど、試してみたい欲にかられる。イル・セーラには鎮静剤代わりと伝わっているのに、スラム街の人たちは精力剤代わりに使うなんて、相反する作用がどのように起きるのか、興味しかない。  二コラが紅茶を飲みほしたのを見計らって、ユーリは自分の荷物が置いてある場所に向かった。ミエレッタの蜜とリコステとスプーンを手に戻ってくると、いそいそとテーブルの下に潜り込む。遮光瓶のふたを開け、ふたをテーブルに置いた。  隙間から二コラを見上げると、なにをされるのか理解していないような表情でユーリを見下ろしているのに気付いた。  ニコラがユーリに煽られないのは5日目以降だ。過去に数度経験がある。ユーリは気を良くして二コラの反応もしていないそこを指先で軽く撫でた。 「おいっ」 「政府への報告なんてリュカに任せておけばいい。あんたに任せるより、弱腰の世間知らずたちにはよほど効果がある」  「むしろおまえは寝ろ」と言って、軍服の固い生地を掻き分けてファスナーを下ろす。下着をずり下げて二コラのペニスを露出させ、やわやわと揉み込んだ。上から息を詰めるような声がするが、制止をしないあたりさっき言ったことを素直に期待していたか、それとも頭が回っていないのか。服の上から鼠径部を指でなぞったり腿を撫でたりして焦らす。大体臨戦態勢の二コラしか見ていないせいか、立ちもしていないのがおもしろくてふにふにと感触を確かめるように触っていたら、腕を捕まれた。 「やめてくれ、なにをするかわからん」 「奥抜く以外ならなんでもしていいよ」  まあ『前後不覚になること』を懸念して予め睡眠薬を盛ったんだがと内心する。4徹目の二コラに上から押さえ込まれて奥を抜かれたときに、自制ができない二コラを煽らないと心に決めた。 「なんだそれは」 「お疲れの二コラをきもちよーくさせてやろうと思って」  言いながらスプーンでミエレッタの蜜を掬い、そこにリコステを数滴混ぜる。粉末のものと混ぜると水分が吸われて固形になるけれど、そうでなければ程よい粘性を持ったローション代わりになるらしい。ミエレッタの蜜が入った瓶と、リコステのスポイド瓶をテーブルの上に置く。まだ反応していない二コラのペニスの先端から蜜をまぶすようにスプーンで落とすと、冷たかったのか二コラが息を詰めた。  蜜に塗れたペニスを手で扱く。ぬるぬるしてやりにくいけれど二コラの硬度が増す。上目遣いに見ると、気まずそうな表情で口元を抑えているのが見えた。 「凄まじい背徳感だ」 「そ? 俺はあんたの意外な姿が見られておもしろいけど」  服が汚れるのが嫌なら自分で少し脱いでと言うと、二コラが素直にベルトを寛げてズボンのトップボタンを外す。  蜜がまぶされた手で二コラのものを扱くたびに少しずつ硬度を増すのを感じながら、亀頭を口に含む。当たり前だけれど甘い。そのまま亀頭だけを咥えてちゅぽちゅぽと音が立つように唇で扱いていたら、上から快感に酔い痴れるような吐息が聞こえた。見あげると二コラが珍しく気持ちよさそうにしているのが見えて、鈴口を舌でこじ開けるようにせせると軽く蹴られた。 「手で扱かれるのとしゃぶられるの、どっちがいい?」  わざとらしく首を傾けて言ってやる。二コラは両手で顔を覆いながら背もたれに凭れ掛かった。なにもいわない。  答えなくてもやるけどと思いながら、どんどん硬度を増す二コラを扱きながら亀頭を咥えると、二コラの足がすっと伸びてきて、靴の爪先で軽く股間を擦られた。驚いて体が跳ねあがると同時に頭をテーブルに打ち付けてしまい、少し体が前のめりになった。二コラの足がユーリの股の間に入り込み、つま先で後ろを軽く突かれる。 「おい、ド変態」 「おまえが仕掛けてきたんだろう」 「え、なに、脚コキしたい願望でもあんの?」  それとも足に擦り付けてイくのを見たいとかいうフェチズム丸出しの変態プレイが好き? と尋ねてみると、上から心底呆れたような溜息が聞こえてきた。 「黙ってやれ」 「だからどっち?」  しゃぶられるか、扱かれるかともう一度尋ねる。 「……両方」  かなりの沈黙の後で二コラが言った。 「さすがむっつりスケベ、軽く俺の想像を超えてくる」  ユーリは色っぽく目を細くして、ためらいなく二コラのペニスを頬張った。じゅるじゅると下品な音を立てながら咥えきれない部分を手で扱く。空いた手で双球に触れると詰めるような息遣いが聞こえてきた。かなりずっしりとした張りを感じる。  あれから雑務に忙殺されていたのだろうか。一旦亀頭を解放して、張りのあるそれを口に含みながら扱いていると、ミエレッタの蜜とは違った、熱を帯びたものが先端から零れ落ちてくるのが分かった。指に粘液が絡みつく。普段にはない感触のせいか、二コラのペニスはすでに臨戦態勢だ。玉から先端に掛けて蜜を舐めとるように舐めながら手で玉を揉んでいると二コラのペニスが跳ねとろりと体液がこぼれてくる。ユーリを煽るように二コラが足を動かすのを感じながら、わざとそれに擦り付けるように腰を振っているとくそっと悪罵を吐くのが聞こえてきた。 「なに、もうイキそう?」  はよない? と軽口を叩いて突き出した舌に亀頭をぺちぺちと当て、頬張る。口の中でもごもごと動かしながら唾液を絡ませてじゅぶじゅぶと泥を踏むような音を立てた。口の中でペニスがぐんと大きくなったかと思ったら、どぷりと熱が放たれた。なかなかに濃く粘りのあるそれを飲み込もうかと思ったけれど、こちらにもリコステの効果が出ても困る。ユーリはそれを口に含んだままテーブルの下から這い出て二コラの元へと戻った。上に乗らせる気満々らしく、すこし椅子を引いてテーブルとの隙間を作っている。ユーリにはにやりと笑って二コラのペニスに二コラのものをまぶした。 「やらしいの。出したくせにまだガチガチ」  素直にヤラせてくれって言ったらいくらでもヤラせてやるのにと、二コラに跨りながら首を斜めに傾けて言ってやる。後ろ頭に手を掛けられたかと思うと軽く抱き寄せられた。二コラの頬が当たる。 「抱かせてくれ」  かあっと顔が赤くなるのを感じながらも、ユーリは頷いて中腰のまま膝辺りまでデニムと下着をずり下げて二コラに跨った。さすがに解していないままに入れはしない。それは二コラも同じだったようで、ユーリは向かい合ったまま自分のペニスと二コラのペニスを握って扱きながら腰を振った。ほどよいぬめりと刺激で気持ちがいい。詰まったような息が上がるのを感じながらも、二コラのものに擦り付けるように腰を怪しく前後させる。椅子ががたがたと軋む。腰を浮かせてくねらせていると、二コラが自分のペニスにまぶされた粘液を指で掬ってユーリの後孔に塗り付けた。乾いた笑いが漏れた。 「寝そうって言ってた割に、しっかりやんのかよ」 「おまえが誘ったんだ」 「そうだけど。指じゃ足りない」  はよしろと二コラの首筋にキスマークを付ける。二コラは息を荒らげ自分もガタガタと腰を振りながらユーリの後孔を解すようにマッサージをする。ふと、ミエレッタの蜜があることを思い出す。ユーリは身体をひねってミエレッタの蜜が入った遮光瓶を指先で手繰り寄せ、二コラに手を出すように指示する。二コラの指先に少しだけミエレッタの蜜を垂らして、遮光瓶をテーブルに置く。 「これで解して、たぶん入れやすいから」  色を孕んだ笑みを浮かべたせいか、二コラは無言のままミエレッタの蜜に塗れた指をユーリの後孔に侵入させた。粘性のあるそれの滑りを借りて二コラの長い指が入ってくる。ユーリがんっと息を詰めた。 「締めるな」 「んっ、だってっ」  いままでに感じたことがないようなぞわぞわとした感触だ。ローションとはまた違った独特の感覚に息が上がる。二コラの指がユーリのいいところを探るように動く。ぐりぐりと中を刺激された途端に腰が跳ねあがった。あまり感じたことのない刺激にユーリ自身驚きを隠せなかった。 「いつも以上に敏感だな」  おまえだって溜まっていたんじゃないのかと二コラが揶揄してくる。よく考えたら自分から積極的に二コラを煽り立てに行ったことがあまりないことに気付く。そういうシチュエーションに興奮して敏感になっているのだとしたら、どうかしている。どうせすぐ戻るだろうと切り替えて、二コラの額にこつんと額をぶつけた。 「抱かれるならあんたがいいって言ってるだろ」  そも奥を抜かれるのはあんたじゃないと嫌というと、二コラが呆れと羞恥が入り混じったような複雑そうな表情で煽るなとつぶやいた。首筋にキスをされたが、ユーリが嫌がるからかキスマークは付けてこない。さすがにベアトリスやアレクシスの手前、そんな場所にキスマークを付けられた日には散々揶揄われそうだ。  二コラがユーリの後孔をしっかりと解し、指を抜くと、腰を浮かせろと指示される。言われた通りに腰を浮かせて尻朶を引っ張り、入れやすいように二コラを迎え入れた。さすがにまだキツイ。いきなり対面座位で始めることなんてないからか、息苦しい。なるべく息を吐くタイミングで二コラのものを受け入れようとするのに気付いたのか、ユーリが息を吐くタイミングでぐぐっと押し入れてきた。熱に割り裂かれるような圧迫感に声が漏れる。すぐさま二コラが熱を抜く。抜くなと言わんばかりに二コラのペニスを掴むと、どこか嗜虐的な顔をしているのに気付く。 「チェリオが言っていたが、相手のが大きいとなじむまでは苦しいだけなんだろう?」  抜いた後で二コラのものが割り入ってくる。どんな会話をしているんだと突っ込みたくなる。いいところまで届きそうと思うようなタイミングでまた抜かれ、何度もそれを繰り返される。腰ががくがくと震えるのを感じながら、ユーリは二コラを睨んだ。 「チェリー野郎の意見なんかどうでもいいだろ」  あいつと俺とでどれだけ身長が違うと思っているんだと文句を言ったが、二コラが「体格は違っても器官の大きさはそうそう変わりないだろう」と大真面目に言ってのける。「そりゃあそうだろうけども」と唸るようにいうユーリの中からまた二コラがペニスを抜き去った。ユーリの腰を二コラが掴んでいるせいで簡単に抜かれてしまう。なんとなく主導権を握られるのに苛立ってきて、ユーリはねえと二コラを呼んだ。 「どうせなら胸触って」  二コラが怪訝な顔をする。 「いつも嫌がるだろう」 「わざわざ気持ちいいところに当てないように動かされるほうが嫌」  こっちで動くから胸触ってというと、二コラがユーリのシャツのボタンを器用に片手で外し、生地を割り開く。つんと尖った胸を指先で弾かれ、期待に息を弾ませる。二コラのペニスを固定させて跨り、息を吐きながらいいところに当たるように受け入れた。固く張ったカリ首がいいところに引っかかって上ずった声が漏れた。 「いやらしいな、一人でしているみたいだ」 「うっさい、あんたが焦らすからだろ」  焦らされるのも愛でられるのも嫌いなんだと文句を言って、いいところに当たるように腰を振る。二コラの指が胸を愛撫するのと同時に熱い舌で舐められ、甘い声をあげて軽くイッた。 「んんっ、っ、っぅ」  ぞくぞくと快感がせりあがってくる。ナカで二コラのものが硬度を増すのを感じながら腰を上下させたり前後させたりと互いが感じる場所を探り合うように動く。腹側を押しながら突くように腰を動かしていると、二コラの空いた手がするすると肌を撫でるように滑り落ちてきて、ユーリの腹に触れた。時々ニコラに突かれてだらしなく鳴いてイク場所を何度も押し込むように揉まれ、ぞわぞわと腰骨あたりが疼きはじめる。 「奥抜くの?」 「物欲しそうにしているのはそっちだろう」 「あっ、っ、んっ、でも、これなら、はいりそうっ」  淫らに腰を振りながら二コラのペニスを奥にいざなうように角度を変える。ごつんと入り口に二コラの先端が触れた途端、電気でも流されたのかと思うほどの快感が走った。ビクンとユーリの身体が大袈裟なほど跳ねた。 「あァっ、あっ、っ!」  がくがくと腰が震える。腿に力が入らず痙攣するのを感じながら二コラに胸を愛撫される。堪えきれない声が漏れると同時にぞわぞわと這いあがってくる快感から逃れようと体に力が入ったのをいいことに、二コラがじわじわと進んでくる。逃がすまいと押さえ込んでくるせいで嫌でもその奥を刺激され、二コラの服を握りこんだ。 「ふううっ、っ、っうあ!」  ゴリゴリと何度も出入りされたせいで快感に濡れた声が上がった。口を押えたけれどもう遅い。二コラの嗜虐的な笑みが深まる。 「ほら、ちゃんと力を入れろ」 「んんっ、っうぐ!」  ごりっと奥を突かれるような感覚に生理的な涙が止まらない。二コラはチェリオになにを吹きこまれたのかユーリが感じる場所を押し込むようにマッサージをしながらナカで熱を前後させる。決して無理強いするつもりがないのはわかるが、角度的にも体勢的にも逃げようがない。 「ちょっと待ってっ、ベッドに!」  一旦抜かせようと思ってのことだったけれど、二コラは引っ掛からなかった。体勢を替えたタイミングと二コラのピストンのタイミングが合致して、ユーリのいいところを的確に擦られた。 「あぁー……っ!」  口を押えたけれど、だらしない声が上がり、がくがくと腰が痙攣する。声を押し殺そうとするユーリの腰を掴んで二コラが更に奥を捉えた。全身に電気が走ったかと思うような感覚が断続的に訪れる。目の前がチカチカする。二コラにそこを突かれるたびに自身から精液がぼたぼたと噴出するが、二コラは服が汚れるのも構わずに腰を振る。椅子が壊れるんじゃないかと思うほとガタガタと音を立て、ユーリはあられもない声をあげながら二コラにしがみ付いた。 「んんっ、だめっ、ぁっ、っ」  二コラのペニスが奥を突くたびに精液が漏れ出る。熱い熱が体の中を蠢いて一気に噴射されるかのような激しい感覚に脳がしびれるような快感を懐く。そもそも触られ慣れていないペニスに強烈な快楽が纏わりついて、腹の奥もなにもかもが熱に犯されるような感覚に見舞われ、意識を手放しそうになる。でも仕掛けたのは自分だ。ここで流されるのは嫌だと妙な負けず嫌いが発動して、ユーリは腿が震えるのを感じながらも二コラをイカせる為に二コラとはタイミングをずらしながら腰を振った。嬌声を上がり、がくがくと体を痙攣させながら背中を丸める。二コラの熱が中で弾ける。 「は……っえっ? 奥っ」  また激しい快楽が襲ってくる。本来入るべきではない場所を侵された挙句にそこに熱を排出される感覚が妙な背徳感を生む。はあはあと息を荒らげていると、二コラにペニスを掴まれた。敏感になったそこに触れられたせいで二コラを締め付ける。やわやわと軽く揉むようにしながらペニスを扱かれて、ふわふわとする感覚が襲ってくる。中にはまだ二コラのものが埋まっている。 「ああっ、っぁ、あっ!」  ビクンと体がのけ反った。二コラに扱かれるタイミングで身体の奥底から快感が迸り、吹き出した。息が整わず、ふわふわした感覚に苛まれてよく状況が理解できなかったが、二コラが頬を拭うのがおぼろげに見えた。自分の腹の上も、二コラの服もびちょびちょだ。ユーリは急に恥ずかしくなってきて、二コラをガンガン蹴りながら両手で顔を覆った。 「最悪っ、なんでそこまですんのっ!?」  二コラを蹴るたびに奥に埋まっている角度が変わり快感につながるが、もうそんなことも言っていられない。早く抜けと二コラを蹴ると、がしりと腰を掴まれた。息を整えるように言われ、徐々に二コラがペニスを抜く。奥の入り口から抜けるときにまた強烈な快楽に襲われ、ユーリが身体を丸めてびくびくと痙攣しながらイッた。もうほとんど放心状態で理解が及ばないが、二コラに盛ったはずのソナーの効きが悪いことと、二コラのペニスが自分の中でまだ臨戦状態なことに気付く。ユーリはふわふわとした意識の中で二コラに抱き上げられて、勢いよくベッドに押し倒される。 「あんたを寝かすために仕掛けたのになんで起きてんだよっ!?」 「あんなことをされたら目が覚めるに決まっているだろう」 「寝そうって言ったじゃん!」  もう無理だとニコラが腰を動かす。椅子の時とはまた違う場所を刺激されるせいで甘い声が漏れる。ギシギシとベッドが軋む音と共にニコラの腰使いが激しくなり、また奥を突こうと角度を変えられる。  これ以上二コラに興奮されたらこっちの身が持たないと感じて、ユーリは枕元に仕込んでおいた秘密兵器を取り出して、ニコラの首元に突き刺した。よがり声があがる。逃げる隙間もないほど腰を掻き懐かれて肌がぶつかる音がこだまする。効かねえじゃねえかと口の中で叫んでシリンジの柄の部分をカチカチと音がなるまで押して内容液を再注入する。 「うあっ!」  がつんと奥を突かれてユーリからせつなげな声が上がった。衝撃で秘密兵器のシリンジを取り落とし、それがベッドに転がり落ちる。トップを押さない限り注射針が露出しないタイプのものだから問題はないが、二コラにその存在がバレるとうるさそうだ。  そう思ったけれど、二コラはそれに構わず腰を動かしてくる。ユーリの締め付けのせいかじわりと熱が広がる感覚に身慄いした。ぐっぐっと奥を刺激して射精したものを粘膜に塗り込むような動きに翻弄され、甘い声が堪えきれず、自然と腰が揺れるのを感じながら絶対に落とされるものかと意識を保つ。  ニコラが中に出したものがピストンされるたびに溢れて尾骶骨あたりを伝う刺激すら快感に変わり、嫌がらせのようにユーリが一際いい声で鳴く場所をとらえられ、揺さぶられる。  また目の前がチカチカして、腹の奥から食い破られそうな激しい快感に襲われ、身体がいうことをきかないほど痙攣する。精液とも潮ともつかないものが断続的にこぼれ落ちて、ニコラの衣服と自分の腹の上を汚していくのを感じながら、何度もナカでイカされた余韻に浸っていると、ずるりとニコラが崩れ落ちてきた。押しつぶされてぐえっと声が上がる。 「おっも! ちょっと! いれたまま寝落ちすんなよ!」  ニコラの体を押して横たわらせたあとで、なるべく刺激にならないようにニコラのペニスを抜く。どろりとニコラが出したものがこぼれ落ちてくる感触に、ユーリはぽつりとどうすんだ、これとつぶやいた。 ***  ことの顛末を報告すると、ベアトリスが酸欠になりそうなほど笑った。まだ腹を抱えて笑っているのを横目に見ながら、ユーリは少し唇を尖らせた。 「てことだから、政府への報告は頼んだ、リュカ。ニコラはいまおねんね中」 「護身用ってのは百歩譲って認めなくもないけど、なんでプリシピタルを選択するかな」  シレンツィオもあったけどたまたま指に当たったのがプリシピタルのシリンジだったとぼそぼそと告げる。リュカは大袈裟なため息をついて肩を竦めた。 「しかも、ソナーを盛った挙句にオチないからって2単位も注入したなんて、聞いて呆れるよ」 「ミエレッタの蜜とリコステを混ぜたら飛ぶほどいいっておじ様たちが話してたから、それも試した」  しれっと言ったら、唖然としたリュカをよそにベアトリスがもうやめてと肩で息をしながら訴えてきた。 「好奇心旺盛にもほどがありますよ、Sig.オルヴェ。その組み合わせに酒でも入ったら大変でしたよぉ」 「ぼくは聞いたことないけど、スラム街のおじ様たち御用達の組み合わせなら、さぞ楽しい夜を過ごせるんだろうね。ユーリ、レナトには体調不良って伝えておいてあげるから、Sig.カンパネッリが起きるまでちゃんと面倒みてあげてね」 「そのつもり。ドン・クリステンに俺のダーリンを過労死させないでくれって言っておいて」 「その言い方、絶対にレナトが嫉妬してなにかやらかしてきそうだけどもね」  レナトは優秀な人材を見つけると、どこまで着いてこられるか試す節があるからなあと訳知り顔でリュカが言う。当たり障りのないように伝えておくかわりにプリシピタルは没収だよとリュカが渋い顔をした。

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