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Thirteen(2)★

「んうっ、んんっ、んっ!」 「はは、いい声。おまえ、俺がなんか盛ったんじゃねえかって思っていたらしいけど、違うんだよなあ」  言いながらアレクシスがユーリの腹を抑える。またビクンと腰がしなったと思うと、奥を突かれぐりぐりと動かされた。体が言うことを聞かない。自分の意思とは無関係に快感を貪るようにアレクシスが腰を引くと同時に腰を突き出して熱を逃がすまいと動く。自分のいいところをアレクシスのペニスに押し当てるように腰を動かしているのが自分でもわかる。 「銀髪のイル・セーラは両性具有だって噂、あれ、ある意味間違ってねえんだよ」  口元を覆っていたアレクシスの手が離れた。声を漏らすまいと自分で口を塞ごうとしたけれど、酸素を求めてはふはふと荒い呼吸を繰り返すのに精いっぱいで、少しの理性がアレクシスの腰の動きの激しさに縒れたシーツを手繰り寄せる。 「子どもの頃にイル・セーラにマワされたって調書にあったけど、あのときはまだそんな感じもしなかったろ? ある程度大人になるとそういうスイッチが入って、同族の適合する相手に触れられると発情するらしいんだよな」 「はっ!? ぁっ、んっ、あうんっ!」  変な声が漏れて、ユーリは慌てて口を塞いだが、後ろでアレクシスが笑うのが分かる。 「まあそんなわけで、おまえが俺に妙に噛み付いてきていたのは、本能的に触れられるとやばいってわかっていたからなんじゃないのか? そりゃあSig.カンパネッリにされるときのほうが気持ちいいかもしれんけど、強制的に快感を引き出される感覚がまた堪らんだろ?」  俺はすげえイイと言いながらアレクシスが腰を動かす。堪らないというよりも、味わったことのない強い快感に体も頭も支配されてどうにもならない。逃げたいのに体が言うことを聞かない。むしろもっと穿たれたいと望んでいるのが分かって、ユーリは悔し紛れにベッドに拳を打ち付けた。 「もっ、やば……っ、イっ」 「あーあ、堪え性のないやつだ」  アレクシスにいいところを突かれ、がくがくと痙攣する。嫌がらせのように奥をぐりぐり刺激して、アレクシスがいいところに亀頭を引っかけるようにしてペニスを抜く。ぞわぞわとなにかがせり上がってくる感覚に襲われ、ユーリは腰を突き出して背中をしならせた。びちゃびちゃとなにかが腹に当たる。 「ふっ、ぁ、っ、ああっ」  意味が分からずよがるだけのユーリの耳に、アレクシスの楽しそうな声が届く。 「イケばイクほど快感が高まって最後にはもうわけわからんことなるらしいから、ま、頑張っていかないように気ぃつけろよ」  言いながらもアレクシスがユーリのいいところをわざと抉るようにペニスをねじ込んでくる。それだけの刺激でまたイッた。自分の身体がおかしくなったんじゃないかと思うほど、痙攣が止まらない。生理的な涙があふれる。声を噛み殺したつもりでいるのに、自分の耳にははっきりと、聞いたことがないほど甘えた声が響く。 「やったことねえけど、中に出したら孕んじまうかもな」  アレクシスが耳元でぼそりと呟いた途端、腹の奥がぞくんと疼いた。アレクシスの熱い熱を締め付ける。後ろで呻く声がしたと思うと、ぞわりと熱が広がった。スキン越しだというのに、まるで中に出された時のような熱とぬめりをそこで感じるような感覚に襲われ、ゆらゆらと腰が動く。  中に欲しいと、婀娜めいた声でねだるように呟いたあとで、ユーリは自分の腕に噛み付いた。傷みで意識を引きずり戻そうという抵抗のつもりだったのに、それすら快感に変わる。血が滲むほど強く噛んだのに、正気に戻るどころかより奥が疼き始める。 「中に欲しいとか、エロすぎんだろ」 「ちがっ、頭がっ、へんでっ」 「はは、知ってる。シャムシュ王朝が滅びた時、王族の血を引く女性はミクシアに残ったのに、なんでオレガノで人口が増えて再起できたのかって言ったら、銀髪のイル・セーラが女性の代わりに子どもを産んだから……っていう逸話があってな。シャムシュ王朝の一族が“血”を守り続けていられたのは、それ以外考えられないんだ。  だからおまえ、無意識にいま欲しがったろ?」  かあっと顔が赤くなる。アレクシスがずるりとペニスを抜き去った。その刺激にすら腰が揺れ、切なげな声が上がる。自然と腰が高く上がり、続きを欲しがるように疼くのが止まらない。苛立ちまぎれにベッドを殴ると、まだ余裕がありそうだなと笑われた。スキンを取り去ったばかりの濡れた熱でひくひくと蠢く後孔を擦られる。 「孕んでみるか?」 「ぶっ殺すっ」 「はっ、かわいくねえの」  言いながら、アレクシスが律儀にスキンを付け直してユーリの腹の下に腕を差し入れた。発情した雌猫のように腰を高く上げゆらゆらと誘うように婀娜めいた動きで挑発するユーリの姿を見て、アレクシスが満足そうに笑うのが見えた。 「身体は準備万端っつってるのにな」  ガツンと奥を突かれる。 「うあっ! あっ、ァアっ!」  図らずも声が漏れて、ユーリは涙目のままアレクシスを睨んだ。アレクシスの動きが激しくなる。背中にアレクシスの重みがかかる。ばらばらだった呼吸が徐々にそろっていくのを感じながら、ユーリはアレクシスの動きに合わせてより気持ちのいい個所に熱が当たるように腰を動かす。意識的ではない。無意識だ。アレクシスの言うように、本当に体が欲しがっているかのように止められない。腰を止めようと体に力を入れると、後ろでアレクシスが唸るのが聞こえた。 「締めんなって、無駄だっつってんだろ」 「俺の、意思じゃないっ」  文句を言っているつもりだが、上擦り、震えた声では意味をなさない。精一杯虚勢を張って睨んだものの、涙に濡れたそれは誘っているかのようにしか見えず、アレクシスの嗜虐心を煽るだけだ。 「Sig.オルヴェ、自分から誘っておいてその態度はないわ」  どこのかしこもびしょびしょのくせにと揶揄され、アレクシスの刺激のせいでぽたぽたと精をこぼすペニスを掴まれた。その刺激だけで達しそうになり、腰が上がる。 「ぁっ、っ、んんっ!」  声を噛み殺すので精いっぱいだが、呼吸にすらよがり声が混ざり、否定とも肯定ともつかない卑猥な吐息は自分の熱を昂らせる。アレクシスのペニスがガツンと奥に当たり、またぐりぐりとねじ込まれた。 「なんならミカの子孕んでみるか? 第一王族と第二王族のサラブレッドなんて魅力的じゃねえ?」 「んっ、んんっ! ふっ、うっ。それ、マジなのっ?」 「それとは?」 「適合する同族に中に出されたら、孕むってやつ」  アレクシスがにいっと笑う。その笑みはユーリの思考を奪うには十分すぎるほどのもので、やだやだと暴れてアレクシスを振り払おうとしたが、まるでパズルのピースのようにぴったりと合わさり嵌ったペニスが抜けそうにない。ユーリは必死にシーツを掴んで身体を反らして逃げようとするが、アレクシスの力のほうが勝っているうえに快感のせいで全く脚が言うことを聞かなかった。  逃げようと動いている様が自らアレクシスの動きに合わせて腰を揺らしているようにしか見えないうえに、自分の動きが図らずもそんな動きに変わっていくことを感じて、ユーリはまた自分の腕に噛み付いた。 「こら、傷が付くだろう」 「中に出したら殺すっ」  震える声で言い放つ。 「出さねえよ、スキンしてやったろ」  そもそも俺だってごめんだと揶揄するように言われ、ユーリはアレクシスをじろりと睨んだ。いいところを探るようにリズムを変えて腰を動かされるせいで、睨みを利かせるものの強請るような視線にしか見えない。アレクシスが笑みを深め、ゆっくりと抜いていく。粘膜がその熱を逃がすまいと絡みつくが、亀頭が抜けそうなほど腰を引かれて、ユーリは無意識にアレクシスの腕を掴んだ。 「なんだよ?」  声色だけで表情の想像がつく。吐息に混じってあえかなよがり声が混じり、色っぽく腰をくねらせる。 「ぬく、なっ」 「わがままだな、ガッティーナ。俺がミカなら“好奇心”で中に出していたかもしれないぞ」 「ミカエラは、こんなことしない」  声を震わせて抗議をする。アレクシスが意地悪そうに肩眉を跳ね上げて、にやりと笑ったのがみえた。 「どうだろうなあ。あれであいつは『検証好き』だから、わからんぞ」  パンと奥を突かれ、ユーリがあられもない声を上げた。びくびくと身体が跳ねる。あえかなよがり声を上げながら痙攣するのをいいことに、アレクシスがユーリの腹を押し込んで、その一点を刺激するかのように角度を変えて腰を動かし始めた。体の奥が完全に熱に支配されたように、痺れとじわじわと侵食してくるような快楽が止まらない。何度も、何度もナカでイっているというのに、アレクシスが解放してくれる気配はなかった。 「あーあ、こんなにびちゃびちゃにして」  なにがあったかバレるだろうがと言いながらもアレクシスの腰の動きが激しくなる。 「ぁっ、っ、ぁうっ、んっ、っ」 「ミカは継承権云々抜きにしても一応は正室を迎えなきゃいけない立場でもあるし、案外おまえのほうがよかったりしてな。  普通に俺とのセックスでこんなによがってちゃ、もしミカに抱かれたら声を押し殺すことも、演技することもできないかもな」  アレクシスがユーリの奥を抜こうとするかのように奥を突いてくる。んんっと鼻にかかった声が上がり、自然と奥が開くのを感じて、嫌がって首を横に振る。 「やだっ、それっ、っ、んんぅっ、っ」 「っ、くそ。ミカに抱かれるのを想像でもしたのか? すげえ、締め付けてきやがって」 「はっ! っあ、ぁ、っ、んっ、っ!」  じわじわと体の奥が熱くなり、痙攣が止まらない。ゆらゆらと誘うように腰が動いて、自然と溢れてくる涙を拭いながら鼻を啜った。 「も、やだっ。奥がっ、へんっ」 「そりゃそうだろ、そのままじゃ子どもなんて孕めるわけがない。孕む前に奥が作り替わる。変質していくんだ」  こんなふうにと奥を突かれ、ユーリはいままでに感じたことのない激しい快楽のせいであられもない声を上げてイッた。痙攣が激しくなり、それに合わせてよがり声が漏れる。切なげでいて、でも淫らに誘うようなその声と仕草に後ろからごくりと喉が鳴るのが聞こえた。 「あー、やばいな、これは」  唸るような声で言って、アレクシスがふうふうと息を荒らげる。どうもこっちも中に出したくなるらしいと耳元で言われ、ぞくりと背筋に快感がせりあがる。 「ノルマじゃ、孕まない?」  涙に濡れた目で的外れなことを言ったからか、アレクシスが吹き出した。夜中だというのに声をあげて笑う。その揺れすら快感にかわり、ユーリは腰をしならせてよがった。 「あー、おもろ。適合する同族っつったろ。だからSig.カンパネッリやドン・クリステンに中に出されても、孕みやしねえよ。  そもノルマに中出しされて孕むんだったら、既に孕んでんだろ」  そう言われて、ユーリは吐息に混じって短いよがり声をあげる。 「っ、は、ぁっ、っあ」 「ミカが怖えからやらねえけど、許可があれば出してやったのにな」  言いながらアレクシスがユーリの奥を刺激するように腰を揺らす。うなじを甘噛みされてはあっと色を孕んだ息を吐いた。 「マジでおまえ、ガキの頃に収容されていてよかったな。適齢期だったら本当に孕まされていたかもしれねえし」  まあそれなら普通に第一王族が増えるだけかと、暢気な声で言いながらもアレクシスが奥を穿つ。訳も分からずよがりながら、激しいまでの快楽のせいで酸素を取り込もうと開きっぱなしになっている口を塞がれる。ぬるりと舌が入り込んできて、舌が触れた部分にまた感電したかのような熱が伝わり、鼻に抜けた声が上がった。意図せず腰が揺れ、ぷしゃぷしゃと断続的に腹が濡れるを感じるが、それがなにか最早わからないほど頭が快楽に支配され、割り込んでくる舌に自ら舌を絡めて吸い付いた。  苦しげなよがり声が完全に陥落し、甘くねだるような声に変化したころ、ようやくアレクシスの舌が抜けていった。どこを触られても淫らに鳴くさまに、情欲むき出しのねっとりとした視線が向けられているのを知りながらも、ユーリは仰向けに転がされても一切抵抗せず、アレクシスの熱を受け入れた。  スキン越しだが何度も熱を放たれ、そのたびに律儀にスキンを替えているのかすらもうわからない。腹の上に放たれたのが自分のものなのか、それともアレクシスの欲望なのかわからず、ねだるように淫らな声を上げながら、より深い快楽に導かれたくて腰の動きを合わせた。 「ああもう、マジでっ。興味本位だったけど、出していい?」  アレクシスに言われ、ユーリはごくりと喉を鳴らした。快感に濡れた声が上がるのを、口元を押さえて抵抗していたつもりだったけれど、歯を食いしばったせいでアレクシスから刺激を与えられるたびに喉から声が漏れる。はっきりとしたものではない、くぐもったものだけれど、あきらかに感じ入って熱を欲しがるようなそれを聞いた途端、アレクシスのものがナカで一層質量を増した。 「んんんっ、っ、うぅっ、ぅ、ん!!」  いいところをロックされたまま、腹を押される。逃げようにももう足が言うことを聞かなくて、抵抗するたびに腹の奥からずんと疼くような快楽が襲ってきて、白濁のあとにぷしゃぷしゃと潮を吹く。アレクシスがまたくそっと唸るように言いながら、ユーリの足を抱え上げた。 「……っっ!」  引き攣った声が上がり、ぼろぼろと涙が零れ落ちる。歪んだ視界の中で、アレクシスが情欲に塗れた表情に後悔を滲ませているのが見えた。 「っ、くっ。あ゛ぁっ、マジでっ。ここまでとは思わんかった。第一王族こええっ」 「っぁ、あァっ! ま、待ってっ、待って、それっ! あっ、んんぁっ!」  アレクシスがふうふうと息を上げ、ゆっくりと奥まで熱を入れこんでくる。さっきまでの勢いとは違い、ゆっくり、ゆっくりと、まるでスキン越しに放たれたものを自分の粘膜に塗り込んで、襞のひとつひとつ、そして粘膜、細胞まで犯すようなゆったりとした動きに、ユーリが堪らず声を上げた。がくんと腰がしなり、背中が全部浮きそうなほど反りあがってよがった。  ぐっとアレクシスから喉を詰めるような声がした。アレクシスのものがナカで膨らむ。血管の拍動、射精に至るまでの熱の動きまでもが分かるほどそれを締め付けた。ユーリは全身で痙攣しながら、声にならない声を上げて、激しい快楽から逃れたくて、縋るようにアレクシスにしがみ付いた。  ああ、くそっと、アレクシスが唸る。ごぽりと音がしたような気がした。アレクシスが腰を動かすたびに、スキンからあふれたものなのか、それとも”受け入れる準備”ができたものなのか、ユーリのなかからあふれてくる。それが肌を伝う刺激すら快感に変わり、ユーリが切なげに腰を揺らす。アレクシスのものが埋まっている場所を自ら押さえ、薄い腹に爪を立てる。 「奥がっ」  おかしいと訴えたかったのに、甘えて強請るようにしか聞こえない。アレクシスが少し体を起こして、頬を伝う汗を拭った。 「俺はそんな権利ねえんだけど、あとでミカにボコされてもいいから、ナカに出していい?」 「っ、ぅ、ぅぁっ、ァっ」  言いわきゃねえだろと全力で突っ込んだつもりだったのに、息が整わないのと、気持ちが良すぎて頭がふわふわして、よがることしかできない。すぐにアレクシスがなにかに気付いたように、眉間にしわを寄せた。 「あ、やべ。漏れてら。ナカで抜けたか? 締め付けすぎなんだよ、おまえ」  言いながらもアレクシスがユーリのナカを探るように腰を動かす。 「んんっ、っぅ、はっ、っ」 「はは、えっろい声。なあ、Sig.オルヴェ。ミカに孕まされてえ? それとも、Sig.カンパネッリがいい?」  挑発するような口調で言ったあとでアレクシスが唸った。ユーリの中が言葉に反応してうねったからだ。散々イカされて、それなのにアレクシスは本当に奥に触れなかった。そのせいで名前を聞いただけでびくびくと痙攣し、何度も達する。ユーリを煽るようにアレクシスが笑いながらいいところを押しつぶすように腰を動かす。一番切なげに鳴く場所を的確に穿たれ、何度ナカで達したかわからないままに意識を手放した。 ***  あれから数日アレクシスを見かけなかったが、どうやら出立準備を終えウォルナットに戻ってきたらしい。ユーリはアレクシスの姿を見つけるなり、急いでミカエラの後ろに隠れた。  あのあとのことは覚えていない。目が覚めたら丁寧に身体を清められていて、腹にずんと重みと疼きを感じて、いまも続いている。アレクシスに触れられると孕むという方程式がユーリの中で成立してしまい、こうしてミカエラの後ろから威嚇をする距離にしか近付かない。猫が威嚇をするときのように唸りながらミカエラの後ろからアレクシスを睨みつける。 「アレクシス、Sig.オルヴェになにをした?」  なぜこんなにも警戒されているんだと、ミカエラが呆れたような声色で言う。 「なにって。言い伝えの検証?」  しれっとアレクシスが言ってのけ、面倒くさそうに軽く両手を広げた。 「いいつたえ?」  ミカエラの表情は見えないが、明らかに意味が分かっていないような口調だ。 「なあミカ、オレガノに連れて帰って、囲う気ない?」 「なにを?」 「Sig.オルヴェを」  アレクシスが言った途端、ミカエラが小さく息を吐いた。 「なにを言うかと思えば、くだらないことを」 「銀髪のイル・セーラは子どもが産める説の検証をしてみたらどうかなって」  ミカエラが「こども?」と怪訝そうな声を出した。 「興味ないか? もしうまくいったら第一王族と第二王族のサラブレッドだぞ」  ミカエラがユーリに視線をよこす。まさかミカエラがそこに反応すると思わなくて、ユーリは驚いてミカエラから少し離れた。 「そも、こっちから手ぇ出してねえぞ。Sig.オルヴェが誘惑してきた」 「馬鹿なの!?」  ミカエラ絶対なにもわかってないだろと声を荒らげたが、ミカエラは心底呆れたような、それでいてどうでもよさそうな表情で眉間をつまんだ。 「囲いたいならおまえが囲えばいいだろう」 「絶対いやっ、なんでそんな怖いこと言うわけっ!?」 「俺じゃ意味ねえだろ、それならアスラの婿探しもミカの嫁探しもしなくていいし」 「キアーラがいるじゃん!」 「あれはさ、半分以上政略結婚だし、一石二鳥じゃない?」  へらりとアレクシスが言う。半分以上政略結婚と言われても、ミカエラは否定する気配すらない。まさか本当にそうなのだろうかと思ってしまう。ミカエラが心底面倒くさそうな溜息を吐いた。 「そんなに気になるなら自分で試してみればいいだろう。わたしに振るな」 「ちょっ、ミカエラなんてことを!」 「物理的に無理でしょう、男同士で子どもなんて」  ミカエラに言われて、ユーリは瞠目した。アレクシスを睨む。アレクシスはミカは知らないと言わんばかりの表情を浮かべる。アレクシスの言っていることが本当なのか、それともミカエラが言っていることが本当なのか、どっちがどっちなのかわからなくて、ユーリは最終的にミカエラを信じることにした。ミカエラの腕をがしりと掴んで抱き込む。 「あいつどうにかしてくれ、ちょっと前から怖いことばっかり言うんだ」 「Sig.オルヴェ、冷静になって考えてみてください。そもそも男性にはそういう器官がありません」 「変質するとかない?」 「ありませんよ、古代の言い伝えじゃあるまいし」  そう言われて、ユーリはひえっと声をあげた。やっぱりオレガノにはそういう言い伝えがあるんじゃないかと喚いて、ミカエラからも距離を置く。ミカエラが怪訝そうな顔をして、困ったような声を出した。 「Sig.オルヴェ、落ち着いてください。どうされたのです?」 「どうもこうもないわっ! あんた、部下にどんな躾してんだよっ!?」 「部下? アレクシスはわたしの部下ではありませんよ」 「ええっ!?」 「正確に言えば、アレクシスは将官であるカシェルの部下であり、わたしにとっては補佐官兼世話係です」 「マジレスすんなっ。じゃあその将官さんに言って、こいつどうにかして!」  絶対に許さないと喚くと、ミカエラがアレクシスに視線をやった。 「アレクシス、なんの嘘を吹き込んだ?」 「嘘じゃねーし。古代イル・セーラの伝承は、おまえも聞いたことがあるだろ? その言い伝えを再現してSig.オルヴェをオレガノで囲い込めば、正当な血筋の後継ぎが両方できてWin-Win-Winじゃね?」  アレクシスがしれっと言ったら、ミカエラが分からないという顔をした。 「どういう意味だ?」 「だから、Sig.オルヴェをアスラの婿兼おまえの嫁にする」  ミカエラがますます意味が分からないというように、眉間にしわを寄せる。おまえはなにを言っているんだと、ぽつりと言った。 「オレガノは多国籍国家故に確かに同性婚を認めているが、王族はその限りではない」 「じゃあ法律を変えたらいい。おまえとアスラは好みがほぼ一致しているし、きっとSig.オルヴェを見たら気に入るぞ。いますぐ連れて帰るとか言い出しそうじゃね?」  ミカエラが白けた表情をしているのに気が付いたのか、アレクシスがああと声を出した。 「なるほど、だからアスラをこっちに連れてこなかったのか。本当ならシャムシュ王朝の遺跡調査を条件に入れていたのに、おまえが妙に反対したもんな」  そういうことかとアレクシスが笑ったら、ミカエラが小さく息を吐いて眉間をつまんだ。 「そもそもセラフとの婚姻も姉上が絡んでいるから、Sig.オルヴェと姉上を引き合わせたくない」 「あのふわふわした笑顔で『じゃあミカとわたしで半分こしましょ』ってえぐいこと言われるからだろ?」 「人間は石板と違って半分にできないし、権利も半分にする法律がないと突っ込むところまでがデフォルトだ」  ぼくのメンタルが疲弊すると、ミカエラがぼやく。アレクシスの声マネには突っ込まないのかと言いたかったけれど、ユーリはもうふたりに突っ込む気力すらなく、ジト目で二人を睨みながらうううと唸った。ミカエラがユーリの言いたいことに気付いたのか、咳払いをした。 「古代イル・セーラの話はあくまでも伝承で、『できるわけがない』だろう。Sig.オルヴェを怖がらせて楽しむな、悪趣味だぞ」 「自分から欲しがってたけど」  ミカエラがはあとあからさまに嫌そうな溜息を吐いて、「それ以上Sig.オルヴェを怖がらせるなら本当に本国に帰らせるぞ」と嚇すような口調で言う。アレクシスはホールドアップをしたままの状態で、「じゃあSig.オルヴェを連れて帰って試してみてもいい?」と目を輝かせる。 「だから、なにを?」 「本当に孕むかどうか」  ミカの許可があれば心置きなくできるとアレクシスが言う。ミカエラは数十秒アレクシスを見上げていたが、すぐに頭が痛いと額を押さえた。 「ベアトリスに気付けでも煎じてもらえ」  夏の暑さで頭でもやられたんだろうと辛辣なことを言いながらミカエラがこちらに歩いてくる。ユーリは警戒するようにミカエラを睨み、壁際に身体を寄せた。 「Sig.オルヴェ、貴方も貴方です。アレクシスになにを言ったのか知りませんが、あれは昔から悪趣味な冗談を言って人を怖がらせる常習犯です」  不用意に彼を挑発しないようにと言われ、「冗談なの?」と怪訝そうに尋ね返すと、ミカエラはなにを言っているんだと言うような顔をした。 「確かに伝承では『銀髪のイル・セーラが女性の代わりに子どもを産んだ』とありますが、普通に考えて無理に決まっています。そういう秘薬があると聞いたことはあるけど、調合法もなにもかも不明です」 「あるんじゃん!」  オレガノこわっ! と大袈裟に言って更にミカエラと距離を取る。 「伝承と言っているではありませんか。ご心配なら姉上に聞いて嘘だと証明しましょうか?」 「やめとけやめとけ、アスラに聞いたらアスラは『じゃあSig.オルヴェで検証しましょう』ってひん剥いて検証癖全開で諸々するぞ」 「検証のしようなどあるわけがない。アレクシス、いい加減にしておけ」 「ミカ、残念ながらあるんだ。おまえがSig.オルヴェを抱けばいい」 「抱くとは?」  ミカエラが怪訝そうな顔をする。絶対になにもわかっていないような表情で言ってのける。  アレクシスが抱き締めるようなジェスチャーをすると、ミカエラが怪訝そうな顔でアレクシスを睨んだあと、ユーリに近付いてきた。  ミカエラが溜息を吐いたあとで、失礼しますとユーリを抱き寄せた。 「ひぎゃっ!」  どこから出たのかと思うような声が上がる。少しの間ユーリに抱き着いていたかと思ったら、ミカエラは「なにも起こりませんよ」と困惑したような表情で言って、ユーリを解放する。当惑するユーリの目に、アレクシスが居た堪れないような表情になって、両手で顔を覆ったのが見えた。 「ミカ、マジでおまえエレメンタリースクールから諸々やり直してこい、世話係も俺じゃなくカシェル将官で」 「おまえは生まれる前からその性格を叩き直してくるといい」  なにも起こりませんから安心してくださいとミカエラが言う。これは本当に何もわかっていないんだと感じて、ユーリはアレクシスを恨めしそうに睨んだ。  ただ、いまのでひとつ、分かったことがある。本当に”なにも”起こらないのなら、アレクシスに抱かれたときや、いまミカエラに触れられて、ふわりとした甘い香りを嗅いだだけで腹が疼くわけがない。これはアレクシスのブラフではなく、マジだと悟る。 「確かに俺から仕掛けたけど、一応はあんたたちのためを思って言ったんだ。それなのに、あんなことしやがって」  アレクシスはとっとと西側に行けと喚いて、ユーリは逃げるように自分の部屋に駆け戻った。すぐに鍵を閉め、ベッドに飛び込む。  散々泣かされた挙句まだ腹が疼くのも、さっきのアレで再燃してきたのも、無性に腹が立つ。イル・セーラ自体数が少ないし、同族のセックスなんて経験することがないだろうと思っていたけれど、こんなに疼くならもう二度とごめんだと口の中で呟いた。  自分で仕掛けたことだけれど、西側の調査にも行けないし、アレクシスにいいようにされるし、散々だ。絶対に嫌がらせをしてやるとベッドの上で唸った。

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