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三、

 「ァあ・・あ、あ、気持ち悪・・っ、抜け!指を抜け!!」  ―――本当に、今日なのか。  今日が、今が、その時なのか。  未だ斎藤の身が覚悟にまで及ばないというのに。  腹内の臓が圧されながらの、脱糞の時の感触、そのあまりの奇妙な感に斎藤はぶるぶると身震いした。沖田の体重でのしかかられ逃れることも全くままならぬ斎藤は、せめて自由な腕をばたつかせて本気の抵抗を訴える。  だいたいにして、何でそんな怪しいモノ携帯している。  何でだ。  「いつでも機会があらば、逃さぬためにね」  よほど斎藤の眼が疑問を叫んでいたのか沖田が勝手に答えてきた。  「っ・・べつに俺にとっては機会じゃない・・っ」  「我慢、できねぇの俺。もう限界・・・」  指が突然、抜かれた。  代わりに何か、非常に硬いものが尻元に当てられたのを。  「や、・・やめ、沖・・」  斎藤は。  次の瞬間に、  潜り込んでくる圧倒的な痛みとともに。  「い・・痛・・・!!!」  ここがどこかも忘れて、  「やめ、やめろ、お願いだやめてくれ・・・!!!」  絶叫し。  「さいと・・力、抜け」  きついな、と真上で沖田が荒い息を吐く、  それでも貫くを止めず。  斎藤は噴出す涙に視界を曇らせ。  「全部入った」  ・・・・短く長い時間の後。そう言い倒れ込むように沖田が、斎藤の頭へ腕を囲い、深く息をついた。  「最・・低だ、おまえ」  斎藤が囲われた侭たえだえに呟くのへ、  沖田が思わぬ悲しげな顔になって斎藤を見下ろしてきて、涙を舐め取り。  「・・・・痛いおもいさせてごめん。が、こうしたことは謝りたくはない。やっと、」  やっと叶った。ずっとこうしたかった、  囁く沖田の顔はそれでも申し訳なさげに歪んだ。  「・・・・」  痺れてくる痛みのなかで、斎藤はその表情を見上げ。小さく、息を吐いていた。  ・・・わかってる。  いつかは、こうなることを己は覚悟をする覚悟さえ、無いままずっと予感はしていた。  沖田が十分過ぎるほど待っていてくれたことも。  それでも何でも。  痛すぎた。  痛いという痛覚が、はちきれるほど痛い。  これで動かれたら。  思うとぞっとして、斎藤は喉を震わせる。  「動くな、絶対だ」  押し出すように、命じていた。  沖田が素直に頷いた。  「こうして繋がってるだけで十分だ」  斎藤の涙の跡を唇で辿る。  (・・・・。)  本当に、そうか。  優しく目じりに口づけられながら、返された言葉に一瞬ほっとしたものの。すぐに斎藤の胸中、不安がよぎっていた。  繋がっているだけで十分なんてのは、いつも挿入した直後にだけ真摯さを保つ情だ。  女相手に今の言葉で騙せても、同じ男である斎藤には通用せぬ。  「本当、だな。約束してくれ絶対に、このまま動かぬと」  案の定。  斎藤の見上げる前で、沖田の頬が引き攣った。  「・・・・・」  手ごわい相手と悟ったらしい。沖田が返事に詰まっているのへ、  斎藤は挑むような目つきで返事を促して睨みつける。  「・・・・・・・・了解」  ものすごい間が空いて。漸う返された返事を、  以って、その火蓋は落とされた。  (・・・・)  さんさんと、真夏の太陽がふりそそぐ。  生い茂る草の群れの中、背に日を浴びながら腕の内には愛しい斎藤を抱え、沖田は早くも困った。  一度、挿入という酷い無理を強いたのだ。  こちらとて更なる痛みを与えたいわけではない。我慢など斎藤のためにならしていられる。  していられると言っても、だがそれはあくまで斎藤の内壁が沖田の存在に慣れ馴染むまでの話だ。  いったい斎藤は、動くな、と言うがどのくらい長い間のことを言っているのか。  斎藤がこれまた挑発的(と沖田にはみえる)にぎらぎらした眼で見上げてくる。  こんな拷問があるものなのか。今まで散々に我慢してきて、やっとこさ体を繋げたと思ったら今度はこれだ。いったい斎藤はどこまでじらせば気が済むのか。  (尻に敷かれそうだな、この先・・・)  一方、斎藤。  早くも沖田が我慢の限界を見せているさまを不安な気分で観察しながら、  はたして動くなと言ったものの、どのくらいこうして沖田のものを身の内に留めているつもりだと己で己に呆れてくる。  この男がこのまま動かぬままいつか萎えてくれるとは到底思えぬ。とすれば、この硬直状態が日が傾いても続くのだろうか。とまで想像したところで斎藤は途方に暮れた。  ぬくい。  沖田は胸中感嘆していた。  斎藤の内は、まるで沖田を迎えるように温く、ぴたりと包み込んでくる。  からだはこれほど沖田を迎えているようにみせながら、唇は拒否を吐く、  生殺しもいいところだ。  今も、  囲んだ腕の下で斎藤は、その唇をきゅっときつく左右に結んだまま。  (・・・)  そんな斎藤を見つめ、沖田はひとつ溜息をついた。  何かしらの切欠を求む。  (接吻するなとは言われてねえもんな)  沖田は、きつく結ばれた斎藤の唇に割り入るように舌を這い込ませた。  「むーっ・・!」  途端、斎藤の喉が抗議を主張するのを聞かぬふりで沖田は、斎藤の口内をここぞとばかり味わいつつ、  ご無沙汰していた場所へ片手を――せっかくなので粘液のついたほうの手を伸ばし、  斎藤のものを握り込んだ。萎えていたはずのそれが何のせいか、今触ってみると少し形を得ていたことに驚きつつ、  身の下で嫌がってもがく斎藤へさらに体重をかけ、深々と唇を塞いだまま、ぬるぬるした手で斎藤のものを弄ってゆく。  「~~っ・・」  粘りを纏った手淫はやはり感度を上げるのか、塞いでいる斎藤の唇が震え。  眉間に皺を寄せ斎藤は、なにか文句を言おうとするように顔を背けて沖田から逃れようとする、  その急な動きがまずかったのか、  斎藤は沖田から逃れるやいなや次の瞬間に、突然、器官に詰まって咳き込んでしまった。  「だ、」  だいじょうぶか?と沖田も慌てて斎藤の背に手をやり、  少し抱き起こし、その背をさすってやりながら。  こんこん苦しそうに、器官に落ちた唾液を押し出そうと咳き込む斎藤の。  動きが。振動が。  直に、斎藤の内の壁を伝って沖田に伝わってくるのへ、  「・・・・」  沖田のほうはというと、えもいわれぬ感覚に。疼きはじめた。  斎藤がひとつ咳き込むたびに、  内が締まるのである。  「・・・・さいとう」  くらくらと、腰の奥から情欲が暴れてゆく。  やがて何とか落ち着いた斎藤が、涙目で息をつく頃には、  散々すぎるほど刺激を得た沖田は紙一重で箍が外れそうな状況に到っており。  (まいったな)  少し赤くなっている斎藤の瞳を見つめているうちに、己の張りめぐらせた我慢がばらばらと音を生して壊れてゆくのさえ聞いてしまった。  「斎藤」  支えていた彼の背を再び寝かせながら、覆うようにして両腕で囲い。  身を律動させる体勢へもっていき、沖田は。  「御免、限界」  謝った。  「ゆっくりでも、頼む動かせて」  請うた。  「ま、待て、駄目だ動くな!」  斎藤は許可を出さない。  「・・回してやるよ」  斎藤の上、沖田がきつそうに荒く息を吐き。  「な、」  妥協のつもりかそれが。斎藤は目を剥く。  「きっと縦に揺するより痛かないはずだ」  「どんな動きも許さん!駄目だったら駄目だ動くな」  沖田が耐え切れぬ様子で被さってきて斎藤の首元へ顔を埋めた。  「おまえので・・擦りたいんだ、頼む」  「―ッ」  斎藤の内壁の、襞で。擦りたい、と。  耳元で掠れた声で言うもんだから、斎藤はその息の熱さにおもわず身震いした。  「おき・・・」  「おまえの中で暴れたい」  「な、」  (なんて台詞を吐くんだ、あんたはっ)  「・・・諾と、言え」  「っ・・」  全く本人にそのつもりがあるのか知らないが、首元に顔を押しつけられまま耳元でそうして囁かれて、  くぐもった沖田の低く欲情に漏れた声があたかも斎藤の脳に直接響いてくるかのように、  「斎藤、」  その声は、  「頼む」  「おき・・」  「・・・斎藤」  毒のようで。神経がちりちりと、痺れてくる。  第一、同性なだけに今の沖田の辛さは、十二分に推し量れて、  いや、それだけに頼むなんて言われ続け、うっかり妙な同情して流されるわけにもいかぬと。  斎藤は己を奮い立たせ。  だが、  ・・・この状態で斎藤の許可が下りるのを待ち、ここまで我慢している目の前の男を、少し見直している己の心もまた確かであり。  「・・・・・」  斎藤はいいしれぬ情を。  持て余した。  「ゆ、・・」  ゆっくり。なら許す。  消え入りそうな声で、  少しして斎藤は。ついに、許しを与えてしまったのだった。  「ッ・・、・・」  その許可の声さえ途切れる前に、斎藤の内壁は大きく波打った。言った通りゆっくり、だが力強く弧を描くように奥を回され、  斎藤は息もつけず、咄嗟にきつく目を瞑る。  (・・っ)  張りつくようにその動きを追うのは本当に己の内襞なのか、  「・・・ぁ、・・あ、あ」  うねるような沖田の動きに、からだの内を掻き回される圧迫に、  呑まれるように斎藤は痛みよりも奥、深く底を潜ってくる痺れる感覚に覆われ。  「痛い・・か?」  よく分からずに。斎藤は夢中で首を振る。  その直後、沖田に目元を舐め取られて漸く、己の瞳が涙で曇っていたことを知った。  閉じかける目を薄っすら開けた斎藤の、  前で荒く息を吐き、  「斎藤」  有難う。などと礼を言う、変なところで殊勝な沖田にもう内心笑ってしまいながら、  胸の内から溢れてくるあらゆる慕情に押されるように斎藤は腕を伸ばした。  (斎藤・・)  己の首へ下から腕を伸ばして絡めてくる斎藤に、沖田の腰の奥がずくりとまるで音を立てて響いたのを。  こうして縋るように己に抱きついてくる、どうしようもないほど愛しい姿を。当の本人は分かっているのだろうか。  沖田は先に訴えたように斎藤のその内壁の襞で、己の身を擦りたい衝動に強烈に駆られ、  ゆっくりと、  回していた動きを縦への律動へと。移行した。  「っ・・ふ・・・」  押し出すような息が、どちらからともなく漏れた。  もはや沖田を止めようとはせず、だが急に表情が険しくなって見るからに痛そうに眉を顰める斎藤を、  「痛いか」  やはり同じ問いで、見つめ。痛いと答えれば、諦めることも一瞬脳裏で考えた沖田の、  前、だが弱々しく、大丈夫だと声を出す斎藤に。  沖田は、突き上げる情を。想いのまま叩きつけるところを漸う抑え、  斎藤の奥へと慎重に、ゆっくりと再び潜り込んだ。  「・・んっ、・・、」  それでも奥まで突かれた衝撃で喉から息を零した斎藤の、  体が前へと逃げるように動くのを、斎藤の頭の頂を腕で囲んで沖田はさらに身を潜り込ませる。  犇めく内壁が、沖田を包み呑むようにきつく締めつけ、一瞬、果てそうになって慌てて止め、  が、むしろこれ以上斎藤に痛い想いをさせないほうが、と、そんな考えが脳裏を過ぎり。  一方で、己だけでなく斎藤にも感じてほしい、気持ちよくなってほしいと。斎藤がそうなるまで続けたいとも。  (だが、)  初めてでは無理なのか?沖田は己の下でずっと目を瞑りっぱなしの斎藤を見つめ。  「・・・斎藤」  己の呼び声に薄っすら目を開けた斎藤の、空気を求めるように震えたその唇へと達する。  ゆっくりと、波のように斎藤の身を揺さぶりながら、もう抵抗もなく沖田を迎えるように開かれた歯列の奥へ、舌を絡め愛撫した。  好きだという求情が、幾度でも伝われば。  願ってやまなかったこの行為を、ずっと続けていたいものだと。  己の首に腕を絡めてきて、こうしてついに全てを受け入れてくれた愛しい姿をずっと見ていたいと、  縋るような気持ちで沖田は、深く腰を押しやり、絡めた舌を吸う。  衝かれる圧迫感に重ねて沖田の舌に思いのほか翻弄され、斎藤は呼吸が追いつかず胸から喘いだ。  いまこの身の内で脈打つのは、確かに目の前の沖田だと思うと、ついに己はこの男を受け入れたのだと深い感懐さえおぼえ。  好きだと、  もう何度も囁かれ聞かされてきた言の葉は今、音さえ要さずに斎藤の内へと流れ込んでくる。  (沖田・・)  斎藤をゆっくりと気遣うように。  それでいてこの男そのもののように圧倒的な重みを以って斎藤の奥を攫ってゆく。  衝かれるたびに、今の今まで沖田が言葉に託しきれなかったであろうあらゆる情を、  注ぎ込まれるかのように。強く、深く斎藤の内を満たしゆく。  こんなふうに想いをぶつけられる、  それを溢すことなく己の全てで受け止めることができる。  こんな情の交わしあいがあったとは知らなかった。  こんなふうに愛する存在に応えることができるとは。  「っ・・、は・・、・・ぁ」  軋むような痛みが鈍くなり、少しずつ麻痺していた。  ゆっくりと狭い範囲に留まって抜き挿すその沖田の動きが、時折どこかを掠めてゆく、  そのたびに斎藤の芯へ奮えるような迸りが一瞬走りぬけることに、斎藤は気がつき始めていた。  「・・、・・んっ・・」  揺さぶられる侭に、痺れた痛覚との狭間でやもすれば朦朧とする意識を、懸命に集中する。  沖田も何か気がついているようだった。  その場を掠めるたびに斎藤の喉が小さな悲鳴にも似た擦れた音を奏でることも。  だが、それは互いに見逃しそうなほどの僅かな反応。委ねることが可能かどうか。  沖田は片手を伸ばし己の下に潜らせ、せめてもの想いで斎藤の肉を緩く握った。  「・・・斎藤、」  硬く。すでに質量を得ていることに。  沖田は胸奥が踊るような心地になった。  そのまま手に包み込んで扱き始めれば。  「あ・・、っ・・」  突然の刺激に、身を捩るようにして斎藤が声をあげ。  沖田はそのまま斎藤の内壁をそれまでより範囲を広めて擦りあげる。  「っ・・は」  息を漏らした斎藤の口の内、紅い舌が覗いた。  沖田は、捕らえていた。  呼応するように己の手の内の斎藤が反応を示した瞬間と、  場所を。  戻り、潜り込ませ。その一点へと。  焦点をあて擦り付けた、  途端、  「・・っ、・・は、っ・・ぁ」  斎藤が背を反らせ、沖田の手の内は急に質量を増し。  (やはり、ここか)  沖田はもう逃さず、その一点のみを集中して責め上げるに、転じた。  「っ・・あ、ぁあ、は・・あっ」  斎藤が己で己の喉を擦れて押し出されてゆく声に驚いたように、目を見開いて、  「おき・・っ、・・た・・っ、・・」  何を、したのかと、言葉を綴ろうとしてままならぬほどに体の奥底から突き上げられる、  「っ・・ぁ、あ・・あ、はッ・・」  絞られるような迸りに、幾たびも喉を掠れてゆき。  「声、抑えられない?」  沖田が嬉しげに目を細め、斎藤のそんな姿を愛で、さらに衝き上げ煽ってゆく、  ―――痺れてゆく身の内のさらに奥、  (いったい、どうし・・)  己の体はどうなってしまったのか、  「は、ッ・・、あ、っ・・あ、・・ッ・・」  喉を、声がすり抜ける、衝かれるたびに、押しやられる。  斎藤は身の奥底から込み上げてくる、じわじわと迸るような熱に戸惑い。  呑み込むように深く。  沖田に擦られる身の内が、痺れに痺れて収縮してゆくような感。  「斎、・・・」  すげえ締まってる、と上で沖田が荒々しく息を吐き捨て、  その、斎藤ですら今まで見たこともないような顔をして見下ろしてくるさまを、閉じかける目の内に捉えて斎藤は。  直後、  更に擦り上げられた衝撃に圧されるように、  「ああぁ、あ、っ・・アアッ・・・!!」  身の奥から堰を切って溢れ出した熱に一瞬に、解放され。  強烈な快感が波のように駆け巡って斎藤の内を覆い尽くした。  斎藤の内襞が鋭い締め付けを経て痙攣にまで変わった直後、腹にじわじわと斎藤の吐精の熱を感じながら、  沖田は斎藤の内に想いごと叩きつけるように吐き出し、  覆い被さり。少し苦しそうに斎藤が眉を寄せるほど強く抱き締めた。  たまらなかった。これほど満ち足りた瞬間に、長いあいだ想像の中で抱いた斎藤をいま、  本当にこの腕の内に抱き締めている。  未だ弱く痙攣している斎藤の内襞を感じ、再びへんな気にならないうちにと沖田は己の身を引き抜こうとし。  「ふ、・・んン・・っ・・」  無意識か斎藤が鼻から抜けるような声を奏で。全て引き抜いて沖田は、そんな斎藤の、少し息苦しそうに呼吸を整えている唇へと掠めるような接吻を落とし。  深々と。斎藤の体をさらに腕の中で包み込んだ。  斎藤が、霞む意識のなかで応えて、もたげた腕をもう一度、沖田の背に回した。  始まった、ばかりの。初夏の風がさわさわと、そんな二人のまわりで草を揺らして吹き抜けていった。          

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