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二、
「沖田!!」
組み敷かれ、のしかかられ。
見上げた先は眩しいほどの大空なんて、ちょっとひどい。
「考え直せ、こんな晴天の真下で昼間っからこれはないだろう・・っ」
しかも草むらで・・!
「じゃあ何だ、」
左右に斎藤の腕を抑えつけ、上で獣そのものの眼で哂い沖田が、
「あれは口から出まかせか?ん?」
わかったと言っただろうが。
などとタチの悪さ丸出しで返す合間も斎藤の上に寝そべり動きを封じ、片手で斎藤の太ももをなぞり上げ、首筋に顔を埋めてくる。
取り付くしまも、抗うすべも無い。
(ああ、そうだ口から出まかせだ!)
叫びたいが、ただでさえこの状況で何をどんな手段でされるのか掴みかね怖ろしいところを、
余計な事を言って刺激したらどうなるかと思うと、喉まで出かかって詰まる。
「っ・・く」
お天道様の下、背に敷かれた着物のみが触れる以外、何も着ておらず風に曝された斎藤の素肌に、これまた全裸の沖田がその厳つい体で圧し掛かり、
少し湿った互いの髪が肩へ張り付く不快感も然ることながら、
まして沖田の猛ったものが斎藤の脚に当ってきて。
己の顔の傍に片腕をついて囲まれ、
斎藤の太ももには、なぞってゆく熱いごつごつした手の感覚。
その手が。
萎えたままの斎藤のものを握り込み。
「っ!」
斎藤はもはや涙目で息を殺した。
正直、怖い。
ちょっとホントに怖い。
「沖・・やめ、」
やめてくれ・・!
暴れかけた舌を、見事に塞がれた唇で抑えられた。
「っ・・ふ・・」
(沖田・・・!)
息がつげず、慈しみもあったもんじゃない奪うだけのような口づけに、
この有様に、
斎藤はそして。
恐怖は怒りへと。斎藤はだんだんと腹が立ってきた。
・・・だいたい、
考えてみれば、いや考えてみなくとも、
あの川の中の状況で、あんなふうに押されていて誰がろくな答えを返せるか。返せたはずがない。
(つまり)
謀られたんじゃないかと。
思えば、
もう、そうとしか思えなくなってきて斎藤は、めらめらと込み上げてくる怒りに震える。
「沖田」
唇を離した直後の、
その不意に低く変わった声の調子に訝って見下ろした沖田の。目に、
斎藤の怒りを纏った切れるような眼が、沖田をまっすぐに見上げるさまが映り。
ここで他の人間なら、射竦められるのがオチなのだが。
いろいろと間違っている沖田は、その斎藤の眼を見るなり、
「いいね、その眼。・・・そそる」
逆に熱い刺激を受けたとみえ、手の内の斎藤のものを広い手の平で本格的に弄び始めた。
「-・・っ・・おきた!離せっ」
己のものを捕らえられている、再び湧き起こるその恐怖に、一瞬押し潰されそうになりながら斎藤が、
慌てて腰を引くにも、
強力に絡みついた熱い手から最早、体ごと覆い被さられている斎藤が逃れ得るすべなどなく。
「い・・やだ・・や、め」
それが同性で急所など知り尽くしている沖田の手淫、
精神が追いつかずとも、妙な感覚の連続に鈍い疼きをおぼえ。
無理やり半起ちにさせられた斎藤が、
「頼む、待て」
下から沖田の背を叩くも、
「散々待った」
もう待たぬ沖田の口づけが降ってくる。少しでも距離をつくろうと頭を仰け反らせる斎藤の、
現われた白い喉を、そして沖田は深々と噛み付くように咥えこみ。
・・・獲物を捕まえたとばかりに。そんなふうに喉元を咥えられ。
斎藤は。
(おまえは、まことの狼か!)
頭が混乱しているので変なつっこみが胸内を駆け巡る。
「沖・・っ」
首もとを咥えられたまま、手淫を受けたまま、肌を撫でまわされる感覚に斎藤は呻いた。
器用にも撫でまわす場所の上でだけ身を浮かせ、後はべったり斎藤の上に寝そべっているままの沖田が、
ぺろりと斎藤の白い喉を最後にひと舐めし、
そのまま上がって斎藤の耳元まで舌を這わせ。それへ斎藤が顔を背ければ、今度は
現われたうなじへと顔を埋めてくる沖田の、
「・・っ・・」
その両手は、斎藤を。
愛撫するのを止めることなく。
続けられる手淫も、
肌を這う節くれた指も、
斎藤のうなじへ、顔を埋める沖田の、荒い息遣いも。
隙の無い。
見事なまでに相手の動きを封じる、その強引な手際のよさに、
(あんたいったい今までどういう女の抱き方してきた!)
またも可笑しなつっこみを斎藤は胸中叫ぶ。
「っ・・やめ、・・頼むから、やめろ・・!!」
喉でも叫ぶ。
沖田が顔を離した。
手の動きが、止まった。
「・・・・」
息を殺す斎藤の、見守る前で。
ふーーー。
わざとらしく盛大な溜息を吐き沖田が、愛撫箇所からそれぞれ手を離し、
斎藤の顔の両端に肘をついて斎藤を見下ろした。
「おまえ、じらし過ぎ」
何月、我慢したと思ってんだ。沖田が訴える。
「・・・っ」
斎藤は窮した。
そんなこと言われたって、自分も男である。
こんな獰猛な男相手に、今まで自分が無事だったほうが不思議なくらいだと思いつつ、斎藤は唸る。
ひとつになりたい。愛する存在とひとつになりたいのは、斎藤も男だからそんな気持ちは分かる。
だが、その手段とはいかに。
どうしても自分が沖田を抱くというのは本気で想像できない上、どころか考えただけで妙な吐き気をおぼえる。不可能だ。
しかし、自分が抱かれるというのもとてもじゃないが想像したくない。こちらもやっぱり却下したかった。
だが、やはり同じ男として沖田の切ないほどの気持ちも痛いほど分かる、そして酌んでやりたいと思う部分があるのは彼を真剣に愛しているがため。
(沖田・・)
この男にならば何をされてもきっと許せてしまうと確かに一方で感じてきた。
そんな、全てを投げ打って捧げたいと真摯に想う気持ちは初めてで、つまりこれは、
沖田にならばあるいは抱かれてもいいという紛れもない情愛なのだろう、
(だが・・!)
だが、それはあくまで情の内での、抽象的感情。
実際に、そうなることを想像しようとすると。
頭が、心が。破裂する。
そして斎藤はいつも、扱いきれぬその事項において、
体を繋げなくてはならないのか、心を通わせているだけではだめなのかなどと、おぼこみたいな気分に悩まされる。
「案ずるより生むが易し」
なにか斎藤の様子から感じ取ったのか、突然沖田が斎藤の上でそんな事を言うなり、ちゅっと恥ずかしい音を立てて斎藤の唇を舐めた。
「覚えてるか?初めて接吻した時のおまえ」
斎藤は瞠目して、沖田を見上げた。
「何を・・言っ・・」
「無理だ無理!!とか何とか全くあの時も、ずいぶん抵抗されたなあ」
沖田が喉で笑う。
(っ・・)
そうなのだ。
心のまじわりと、肉体でのそれとが交差する点を斎藤は、あのころ今よりさらに持たなかった。
それを沖田が突き破ってきた。
京で再会して暫く、
隣に居るだけの状態にしびれを切らした沖田が、
二人で廊下を歩いていた時に、いきなり斎藤の腕を掴んで空き部屋に引っ張り込んだ。
斎藤は壁際に追いつめられ、近づく沖田の顔から頭ごと背けて、無理だ退けやめろと言い張ったら口元を手で覆われ、
壁に縫いつけられたまま、額を瞼を耳たぶを、そのまま口元を覆われた状態で舐めるように口づけられ、
その接吻が首筋を辿って再び上がってきたその時、突然離された手の代わりに深々と唇を奪われ舌を絡められたのだった。
抗う隙もなく、そのまま顔の横を両腕で囲われ息も絶え絶えになるほど吸われて斎藤は、事実上、肉体のまじわりという第一歩を踏んだ、いや踏まされたのであった。
「案ずるより生むが易し、だったろ?」
「・・・あれは詐欺もいいとこだったぞ沖田」
思い出すとどうも腹が立つが同時にくすぐったい酸っぱさが込み上げて、斎藤の表情は渋くなる。
しかもあの際、不覚にもどきどきと興奮してしまったのだから、まったくもって甘苦い一場面であり。
「だ、が、それとこれとでは」
ケタが違う、とでも言うのか。なんていうのか。
とにかく違うのだと、斎藤は首を振る。
「違かないように、してやる」
沖田がそんな斎藤を見下ろしまた喉で笑った。だが最早、・・・・眼が笑っておらず。
「~っ、遠慮する」
妖気に圧され、たじろいだ斎藤に、
「遠慮しなくて良い」
斎藤へのしかかったまま沖田が、片手を草の上の着物へおもむろに突っ込んだ。
取り出された何かを、斎藤が目を凝らして見やる上で、沖田がその包み紙を開き。
斎藤の目の位置からでは、紙の中身が見えない。
「・・・なんだ、それは」
もっともな質問を恐る恐る呟く斎藤に答えず、沖田が指の先を舐めるなり、その紙の上へと濡らした指を走らせた。
「沖田・・?」
粘った半透明な物質が紙と沖田のその指を。張った。
「――――っ」
それがどういうものか、見れば分かる、嫌でも分かる。
「っ・・ま、・・待、」
斎藤の股に、その粘液を纏った沖田の指が潜ってゆく感触、またも萎えてしまっている斎藤のものを今度は素通りした指が、
その奥の。尻の菊口へと、達し。
つぷりと。
潜り挿った。
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